新婚旅行と竜の国
ドラゴンの背中に括り付けられた鞍は籠のようになっていて、私はその縁に手を掛けて下界を覗いていた。世界が恐ろしいスピードで後方に流れてゆく。風の音が轟々と鳴っているが、結界が張ってあるらしく風圧等は感じられない。
私の隣ではナルサスが、何処から取り出したのか地図を広げて、あれは○○山、あれは○○城等と教えてくれる。とても楽しそうに薀蓄を披露しながら、縁の菓子や茶葉を取り出してご馳走してくれる。何処に隠し持ってるの?
「良い乗り物が手に入って良かったね」
ニコリと笑って、ナルサスは半分こにした紫色の饅頭を渡してくる。さっき通り過ぎた国の名物らしい。
「乗り物扱いしてるけど、このドラゴンってリュウさんだよね?」
「そうだよ。どうせ花嫁、いや花婿?達を連れて帰るんだから、便乗しても良いよね?」
ドラゴンの腹の下にはゴンドラも吊り下げられていて、そこには男性が3人乗っていた。戦士っぽい人と学者らしき人と吟遊詩人のような人だ。
「それにナタリア、竜の国へ行ってみたかったんでしょ?」
如何して知ってるの?私ナルサスには話してないよね?ニコラスか、ニコラスが情報源か、あの裏切り者!
「ナタリア、僕達もう夫婦なんだから、隠し事は無しにしようね」
「ナルサス、夫婦にだってプライバシーは必要だと思うの。ナルサスだって、私に言ってない事有るよね?」
「僕のやってる事や考えてる事を全部話したら、ナタリアに嫌われそうなんだもん」
「隠し事は無しって言いながら、自分は隠し事するの?それって不公平じゃない?」
ナルサスは饅頭をもぐもぐしながら、暫く考え込んでいた。やがて決然と顔を上げると、私に嫌われそうだから隠していた事を話し始める。ウサギ縫いぐるみに盗聴盗撮機能があるなんて知りたくなかった。私は自分のプライバシーを確保したかっただけなのに。
「ナルサス、盗聴盗撮は止めようね」
「ナタリアが毎日1日中ずっと僕と一緒に居てくれるなら、解除するよ」
「今でもほぼ一緒に居るよね?」
「ちょっとでも離れてる時間に、僕の知らないナタリアが存在するのが嫌なんだ」
話し合いは平行線だ。和解出来る気がしないので、ウサギ縫いぐるみを抱えて歩くのは止めようと思う。いい年した女が縫いぐるみを連れ歩くのが間違いだった。反省しよう。
「そうそう、連れ歩くなら僕にしてね」
「心を読むのも止めて」
私達が初の夫婦喧嘩をしている間もドラゴンは飛び続け、やがて岩山に囲まれた竜の国が見えてきた。昔リュウさんに聞いたところでは、地上から竜の国に入るには、険しい岩山に1か所だけある洞窟を通らなければならない。途中関所が設けられているから旅券が必須だ。でも上空からの入国だと如何なるんだろう。
「ねえ、私旅券持ってないんだけど」
「僕が持って来てるから大丈夫。新婚旅行なんだから、密入国はしないよ」
問題無かった。ナルサスは用意周到だ、知ってるけど、知ってたけど!
私の名前が記載された旅券を受け取る。
「さっきからあれこれ取り出してるけど、何処に収納されてるの?」
「空間魔法を使えるようになったから、そこに放り込んでるよ。ナタリアの着替えとかも持って来たから、必要になったら僕に言ってね」
「ありがとう、空間魔法って便利ね」
「……空間魔法を便利の一言で片付けるのはナタリアくらいだね」
「そうなの?私、魔法とか魔術とかよく知らないから、どのくらい凄い事なのかピンとこないのよ。大袈裟に驚いた方が良かった?」
「ううん、ナタリアはそのままでいて」
ナルサスが抱きついてきて、私の胸にぐりぐりと顔を押し付ける。突然甘えてくる夫をよしよししているうちに、ドラゴンは低空飛行に入り着地した。
豪華絢爛で目がチカチカする。竜族は光り物が好きだというけど、建物までキンキラキンなの?キラキラし過ぎて落ち着かないんだけど。
近くにあった常緑樹で目を癒やしていると、バタバタと人が集まって来て取り囲まれる。ナルサスが手を貸してくれて鞍を下り、旅券を提示すると周囲の態度が一変した。上等な服を着た偉そうな人が飛んで来て、やたらとペコペコ頭を下げられる。
偉そうな人に案内されて、やって来たのはどう見てもお城だった。玉座に王冠かぶった人が居るけど、あれ王様だよね?ナルサスのことをじっと見詰める竜の国の王様は、初めこそふんぞり返っていたけれど、次第に青褪めカタカタ震え出した。挙句ナルサスの足元に平伏す王様。それを見て一斉にナルサスに平伏する竜族の皆様。
「ナルサス、如何なってるの?」
「さあ?僕はウチの国王陛下からの親書を渡しただけだよ」
平然と言ってのけるナルサス、絶対にそれだけじゃないよね?ウチの国は大国でも強国でもない普通の国だ。大陸最強との誉れ高い竜の国の王様が、簡単に膝を折るような特別な国じゃない。
私達はお城の一室を与えられ、賓客としてもてなされた。竜の国に来たいと思ってた、だけど思ってたのと何か違う。




