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国王陛下と願い事

 私の逃亡計画第一弾は、第一段階で頓挫した。そればかりか、ナルサスが国王伝に皇帝に手を回し、私は特別な許可がなければ帝国に入国することすら出来なくなった。許可を出せるのはナルサスだけらしく、実質入国拒否だ。7歳児にそんな権限を与える我が国は大丈夫なのだろうか。


 移住のために向こうの知り合いを拝み倒して手に入れた旅券まで取り上げられて、帝国でのお一人様のんびり生活は夢と消えた。さようなら自由、こんにちは監禁生活。いや監禁紛いは通常運転か。私の生活は今までと殆ど変わらない。


 変わったのは私の婚約相手だ。ニコラスとの婚約解消は、あの日の内に受理された。そしておかしな事に、通常なら申請から受理まで1ヶ月は掛かる新たな婚約申請が、即日通った。新しい婚約相手はナルサス。年齢が足りないのに、国王陛下直々の命で特別措置が取られたらしい。


 何してくれちゃってんですか国王陛下。ナルサスを甘やかし過ぎですよ。少々脅されたからって、そんな簡単に法律を曲げたら駄目じゃないですか。

 という不満を、正論と貴族的な言い回しで包んで国王陛下に申し上げると、大の大人が口を尖らせながら反論してきた。


「でも、ナタリア嬢だって婚約申請書にサインしてたじゃないか」

「それは……」


 止むにやまれぬ事情があったのだ。

 結婚を迫るナルサスに、制度を盾にして断り続けていたところ、ふと彼が口を噤んだ。そして悲し気な微笑みを浮かべて言ったのだ。


「そんなに僕と結婚するのが嫌なの?ああそうか、僕と結婚したら兄さんと家族になってしまうもんね。ナタリアを捨ててニーナを選んだような男と家族になんてなりたくないよね。お断りの原因を取り除けば僕と結婚してくれる?」


 ニコラスの命の危機に、私は渋々婚約ならばとの条件を提示した。でもそれは、国王陛下や司法院が却下してくれるのを見越してのことだったのに。その場で受諾されるなんて予定外なんですが。

 まあ、済んでしまった事はもう良い。これからの事をお話ししましょうか。


「伯父様。婚約の件は、私への借りですわよね。返して頂きたいのですが」


 私はわざと呼び方を変え、ニッコリと笑う。私の母が国王陛下の妹なので、公式な場でなければ私と伯父は気安い関係だ。可愛い姪っ子のために、人肌脱いでもらいましょうか。


「借りを返したいのは山々だが、その、願いの種類によっては力になれぬことも……」


 国王陛下はチラチラと私の背後を気にしている。ナルサスが私の背中にペタリと貼り付いているからだ。


「大丈夫ですよ、伯父様。ナルサスも賛成してくれていますから」

「おおそうか、ならばどんな願い事でも叶えてやろう!」


 あからさまにホッとして、大きく出た国王陛下。言いましたね?どんな願い事でも叶えてくれるんですね?


「良かった!私、辺境伯家に戻りたいのです!」

「え……それは……」

「もちろんナルサスも一緒にですわ。私、もう侯爵家の離れで暮らすのに飽きましたの。どこへ行くにも王宮魔導師様や騎士様達がついて来て、窮屈なんですもの」


 それも必要な措置だとは理解している。私が外出するということは、ナルサスも一緒に外出するということだ。些細なこと──ちょっとお店の男性従業員に私が褒められたとか、通りがかりの男の子に笑いかけられたとか──で、いちいち冷気を発生するナルサスへの対応と、周囲の混乱への対処にあたる為の要員なのだ。

 だけど、10歳までは地元の辺境伯領でのびのび暮らしていた私には、それが息苦しくてしかたがない。

 

 国王陛下は黙って考え込んでいる。私はともかく、ナルサスが屋敷を移るとなると大仕事だ。

 私達が生活している侯爵家の離れには、あらゆる防護魔法がかけられている。ナルサスが魔力を暴走させても封じ込められるよう、周辺の被害を最小限に食い止められるよう、何重にも魔術で覆われている。それと同等の備えをしなければならないのだから、一朝一夕にはいかないのだ。


 でも、私のお願い聞いてくれるんですよね?


「国王陛下、ナタリアがお願いしてるんだよ?滅多に我儘言わないナタリアが、こんなに可愛くお願いしてるんだよ?」


 背中が寒い。国王陛下もガタガタ震えている。急いで私のお腹に回された小さな手を撫でる。ちょこっと気温が回復したが、まだ冷える。


「王都だと僕を監視するのも大変でしょ?人も多いし、何かあった時の被害が桁違いだもんね。でも辺境伯領なら人口も少ないし、誰もいない草原とかなら護衛無しでのデートも出来ると思うんだよね。僕、ナタリアと二人きりのデートが憧れなんだ。それなのにまさか断ったりなんて、しないよね?」


 ピンポイントで国王陛下の足元に氷が張り始め、哀れな伯父様は涙を凍らせながら何度も頷いて、私のお願いを叶えると約束してくれた。


 ごめんなさい、伯父様。でもありがとう。これで私の逃亡計画第二弾に取り掛かれるよ!

 

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