変態と妄想
ニコラスのアホ、裏切り者ーっ!ちょっとは考えなさいよこの馬鹿ーっ!!
あっさりと私の秘密を暴露した幼馴染みに、私は心中で思いつく限りの悪態をついた。よりによってナルサスに、一番知られたくない相手に教えるなんて。最悪だ。
ナルサスはまだ7歳だ。私のことは好いてくれているが、それは母親を慕うような愛情だ。ナルサスのご両親はナルサスを怖がって領地に引っ込んでしまったので、私はナルサスの母親代わりだ。ナルサスが私に求めているのは、母親の無償の愛なのだ。
けれど私はナルサスに、代償を伴う愛情しか抱けなかった。ナルサスの無垢な想いに対し、邪な感情を向けている。はしたなく、浅ましい、劣情を。
私はそんな自分が許せなかった。認めたくなかった。こんな子ども相手に興奮するとか人として終わってる。私は変態じゃない、こんなのは一時の気の迷いだ、そう思い込もうとした。
でも、必死で抑えつけ知らぬ振りをしてきたが、ナルサスが成長するにつれ抑えが利かなくなってきた。私のこの汚いドロドロとした想いを知られたら、ナルサスに嫌われる。気持ち悪がられる。そうなる前に、ナルサスから逃げたかったのに。
私の性癖をバラした上に、親指サイズに興奮するとか言う?貴方のなんて小指の先ほどだったくせに!
私はナルサスになんて思われるか怖くて、まともに顔も上げられなかった。軽蔑の目で見られたら如何しよう、ナルサスに変態認定されたら生きていけない。
「ナタリア、兄さんの見たことあるの?」
え、気になるのはそこなの?ニコラスのは一度だけ、4歳の時一緒に温泉に入って見たんだけど。
「ナタリアは、例えばさっきの下僕達にも興奮するの?誰でもいいの?」
私はそこまで真性の変態ではない、興奮するのはナルサスに対してだけだ。胸を張って言える事じゃないけど。変態には違いないけど……。
「そっか、僕だけなんだね?僕のことだけエロい目で見てるんだね?」
ナルサス、如何してそんなに嬉しそうなの?私変態だよ?変態をそんなキラキラした目で見たら駄目だよ、自分の汚さに絶望するから。
私は色々なものに耐えられなくなって、しゃがみ込んで両手で顔を覆った。ああああもう無理生きていけない、あのまま氷漬けになっていたかった。こうなったら全力で現実逃避だ、本当の私は今頃ナルサスと……。
気がつくと私はベッドに横たえられていて、私のお腹の上にナルサスが跨がっていた。ついさっきまで王宮にいたはずなのに。ここ辺境伯領の館だよね、いつの間にナルサスの寝室に移動したの?
もしかして私、辛い現実に精神が耐えられなくて、妄想の世界に逃げ込んだのかな。私の妄想力凄いな、ちゃんとナルサスの重みや温もりが感じられるよ。
「ナタリア、僕とっても幸せだよ。ナタリアと両想いだなんて」
ナルサスは恍惚とした顔で私を見下ろしている。色気が凄い、7歳児がする表情じゃない。私の可愛いナルサスは何処へ行っちゃったの?
「気が付かなくてごめんね?僕はまだ子どもだけどナタリアは大人だもんね、そういう欲があるのは当然だよね。でももう我慢しなくて良いからね?僕、頑張るから」
私の妄想酷いな。ナルサスにこんな台詞言わせるなんて。ナルサス、こんな変態に付き合って、頑張る必要なんてないからね。
ふるふると首を横に振ると、ナルサスは身体を倒し、私の上にのしかかる。両手で私の顔を挟んで固定すると、至近距離で私と目を合わせた。
「如何して?僕達は婚約者だよ?いずれは結婚して子どもを作るんだから、練習しなきゃ。大丈夫、僕まだ子どもだもん、赤ちゃんは出来ないよ?」
ナルサスのぷっくりとした唇が落ちてきて、チュッと口づけられる。何度か軽く唇を合わせられるのを、息を詰めてやり過ごす。やっとナルサスが起き上がる気配がして、私は足りなくなった空気を求めた。大きく口を開けて息を吸ったところに、ナルサスが噛み付いてくる。
こんな大人のキス、何処で習ったの?いやこれは私の妄想なんだから、私の知識が反映されてるのか。
「──難しいな、ナタリアが読んでた恋愛小説みたいにはいかないや」
最近読み漁っていた恋愛小説が教科書か、良かった、どの本にも詳しい描写は無かったはず……なんて細かい設定に、我ながら感心する。現実のナルサスに、そういった知識は少ない。さっきも子どもを作る練習がどうのと言っていたが、具体的なことは何も知らないはずだ。
だから、今私がされているような事も、現実のナルサスがする訳がないのだ。なのに、如何してこんなに……あれ、これ私の妄想だよね……え、私こんなの知らないんだけど……え?あれ?




