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後始末と婚約者

 周囲が慌ただしく後始末に追われる中、私は椅子に座らされ、仁王立ちのニコラスから説教を食らっていた。


「だから、辺境伯家の常識は世間の非常識だって言ったよな?」


 先程からニコラスは、呆れてものも言えないと言いながらも私をガミガミと叱る。分かってる、自分でもやり過ぎたと思ってる。だけど、


「ナルサスを悪く言われて腹が立ったんだろ?」


 そう、そうなのだ。自分のことなら我慢出来るが、ナルサスをあそこまで悪し様に言われたから。それに、


「コイツらも、口で言ったくらいじゃ如何にもならなかっただろうけどな」


 その通り、ちゃんと聞く耳を持っているようなら、私だっていきなり暴力に訴えたりしない。けれど、


「言っても無駄なら拳で身体に叩き込め、だったか?辺境伯家の家訓は知ってるけどな、それを他所の家にまで押し付けたら駄目だろ」


 ニコラスのド正論にぐうの音も出ず、私は一言も弁解出来ずに終わった。


「まあまあニコラス、その辺で。確かに少々やり過ぎかもしれんが、調きょ、いや教育的指導のお陰で子どもらも大人しくなったことだし。結果として親の連座を免れれば、子どもらもナタリア嬢に感謝するだろうよ」

 

 国王陛下のとりなしで、やっと説教タイムが終わる。長かった。ニコラスが疲れた顔で引き下がり、代わってナルサスが私の顔を覗き込む。


「で、この子達如何するの?」


 ナルサスは私がニコラスに説教されている間に、子ども達に掛けていた氷魔法を完全に解除して、一列に並ばせていた。皆素直に従っている。怪我も治してくれたようで、多少衣服が破れたり血で汚れたりはあっても痛々しくは見えない。


「国王陛下や司法局が、然るべき判断を下されるでしょう」

「ワタシとしては、このままナタリア嬢に任せたいが」


 陛下、丸投げは止めてください。一人二人ならともかく、二十人近く居るじゃないですか。


「女の子はともかく男の子は預かれないよね」

「だったら女の子達はウチで侍女見習いとして働いてもらおうかしら」


 可愛い子が多いし、年齢的にもナルサスと釣り合う。侍女として側に置いておけば、そのうちナルサスに見初められる子が出てくるかもしれない。そうなれば私は晴れてお役御免だ。

 そんな私の考えは見透かされたようで、ナルサスの笑顔が黒くなる。


「やっぱり女の子も駄目だね。国王陛下、この子達は全員暗部で鍛えてよ。人手不足なんでしょ?使いものにならないようなら、実験に協力させれば良いし」

「実験って何?」

「アン、一人残らず連れて行って。二度とナタリアと僕の前に現れないように」


 子ども達が全員連行され、国王陛下もそれに紛れて居なくなった。ニコラスまでこっそり立ち去ろうとしていたので、上着を掴んで引き留める。


「おい、ボクを巻き込むな」

「そう言わずにここに居て!二人きりにしないで!」


 だって、ナルサスがいつも以上に怖い。怒ってる。私の前では常に天使の笑顔のナルサスが、不機嫌さを隠そうともしていない。ナルサスの真顔なんて初めて見た。綺麗な顔に一切表情が無いと、こんなに怖いものなのか。


「ねぇ、ナタリア」


 ナルサスに呼び掛けられ、私はビクリと身を竦ませた。思わずニコラスに縋りつきそうになったが、ニコラスは脱兎の如く私の手の届く範囲から逃げた。


「ナタリアは、僕の婚約者だよね?」


 コクコク頷く。ナルサスが一歩私に近付いて、私は一歩下がろうとして阻まれた。背中が冷たい。背後に出現した氷の壁は私を包み込むように、湾曲して側面に回り込み、逃げ道を塞ぐ。


「なのに如何して僕に、他の女の子を充てがおうとするの?僕はナタリアの近くに他の男が居るだけで嫌なのに。ナタリアが僕以外の男と仲良くするなんて耐えられないのに。ナタリアは平気なの?」

「ナルサス、違うの」

「何が違うの?ナタリアが僕を怖がっていて、僕から逃げたがっているのは知ってるよ。それは仕方ない、生き物は圧倒的強者に対して本能的に恐怖を感じるものだからね。でも、ただ逃げようとするだけなら我慢出来るけど、他の女の子とくっつけようとか、それは僕我慢ならないんだけど」


 ピキピキと小さな悲鳴を上げながら、氷の壁が分厚く私を囲う。頭上から冷気が降りてきて、足元にも氷が這い寄る。ナルサスはまた一歩私に近づき、私の腰に手を回した。ゆっくり私にもたれ掛かると、次第に強く私を抱き締める。


「ねぇ、ナタリア。僕はナタリアにしか興味が無い。ナタリア以外は好きになれない。生まれた時からナタリアしか愛していない。でもナタリアは違うよね。僕以外にも大切な人がたくさん居て、僕が居なくても生きていけるんだよね。それって不公平だ。僕だけが苦しくて僕だけが寂しい。僕は悲しくて苦しくてどうにかなりそうだよ。ナタリアの前では良い子で居たかったけど、もう無理。僕にとってナタリアは唯一だ、ナタリアにとっても僕が唯一になるためには、他の全部を消せば良いのかな?でもそれだと優しいナタリアは悲しむよね、だから僕と一緒に封印されて。このまま僕と二人で、氷漬けになってくれるよね?」


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