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兄とクソガキ共

 国王陛下がナタリアを連れて来てくれて、ナルサスの怒気が霧散した。氷の中にいても痛みを感じるほど放出されていた魔力が、次第に落ち着いてくる。ナタリアの胸で気持ちも落ち着けたナルサスは、子ども達のテーブルに戻ってきた。どうやらナタリアの願いを聞き入れて、氷魔法を解除してやるようだ。


 ナルサスが視線を向けただけで、子ども達を覆っていた氷が砕け散った。ただし上半身部分のみ、下半身は氷に包まれたまま椅子と一体化している。逃げたり暴れたりされないためだろうが、ボクはクソガキ共の口をこそ封じたままにしておいて欲しかった。

 悲鳴と共に、ナルサスへの罵詈雑言が始まる。


「こ、この、化け物!近寄らないで!!」


 さっきまでナルサスに言い寄っていた侯爵家のご令嬢が、金切り声で泣き叫ぶ。こいつがナタリアのことを年増だの何だの言ったせいでナルサスがキレたのに、全く学習していない。口は禍の門って知らないのかな。


「アタシ達にこんな事して、タダで済むと思ってるの!?」

「大魔導士のお爺様に言い付けてやるからな!」

「おれのお姉様は聖女なんだ、お前のような悪魔は滅ぼしてやる!」


 侯爵令嬢を皮切りに、クソガキ共は言いたい放題だ。馬鹿ばっかだな。大魔導士だの聖女だのがどうにか出来るくらいなら、ナルサスは野放しになってないんだよ。

 ボクは氷の中から冷めた目で状況を眺める。この子達の親兄姉は貴族籍剥奪のうえ処罰されることが確定しているが、子ども達は教育次第で貴族に戻す予定だった。でもこいつらを矯正するの、無理じゃないかな?家族共々処罰対象で良いんじゃないかな?


 ナルサスの視線がチラリと投げられた。ボクを覆っていた氷が割れて、身体の自由が戻ってくる。他の衛兵達の拘束も解けたようだ。

 ナルサスとナタリアから離れた場所で青くなっていた国王陛下が、これ幸いと衛兵達を率いて離脱する。大人達のテーブルに行くのだろう。あっちも全員氷漬けだろうから、抵抗も無く捕縛できるはずだ。


 去り際に国王陛下から目配せされた。こちらはボクに任せるとの意味だろう。面倒そうな方を押し付けられてしまった。これ、ボクで何とか出来ると思ってるんですかね?


 相変わらずクソガキ共はナルサスを口汚く罵っているが、ナルサスにはまるで効いていない。ナルサスはナタリア以外は如何でも良いのだ、自分の事さえも。

 ナルサスにダメージが入らない代わりに、ナタリアが泣きそうになっている。ナタリアは社交界に出ていないから、口撃への耐性が無い。ナタリアはナルサスを抱き締めて彼の耳を塞ぐようにしながら、黙って耐えていたのだが。


「いい加減にしなさい!」


 とうとう耐えられなくなって、ナタリアが怒鳴った。そして、ナルサスを離して侯爵令嬢に駆け寄り、


 ドゴッ!!


 ご令嬢の細腕が立てたとは思えない重低音を響かせて、侯爵令嬢の頬を殴り付けた。


 え、待って?物理なのか?物理で解決なのかよナタリア!?


 唖然呆然のクソガキ共を、ナタリアは順に殴ってゆく。一応ご令嬢には手加減しているようで、女の子達は頬がパンパンに腫れるくらいで済んでいるが、ご令息相手には容赦ない。男の子達の歯が何本も宙を舞い、地面に転がる。鼻が折れ、鼻血を撒き散らしている男の子もいる。


 ……ああ、そうだった。ナタリアは拳で語り合う辺境伯家の申し子だった。何事も物理で解決がスタンダードなんだった。すっかり忘れてたよ……。


「な、何すんのよっ!」


 ナタリアが全員を殴り終わった頃、真っ先に制裁を浴びた侯爵令嬢が正気に戻った。そのまま意識を飛ばしてれば良かったのに、つくづく学習しない子だな。


「この暴力女!か弱い女の子に暴力振るうなんて最低ね!」

「自分だって言葉の暴力を振るってるでしょう。私の可愛いナルサスを傷付けておいて、そっちこそ最低じゃないの」

「フンッ、悪魔が傷付く訳な」


 バキッ!


 無事だった方のほっぺたも張られ、侯爵令嬢の顔が悲惨なことになっている。それでも口答えしようとする侯爵令嬢の顔面に、ナタリアの拳が打ち込まれる。


「ナルサスは天使よ!」


 いや人間だから。


「天使なのはナタリアだよ」


 ナルサスお前まで参戦するな、収集がつかなくなるから。ナタリアも顔を赤らめるな、拳が血で真っ赤な天使とかいないから。


 それからはナタリアの独壇場だった。クソガキが口答えしようとする度に、ナタリアの鉄拳制裁が飛ぶ。睨んだだけで往復ビンタ、唾を吐いたら顔面パンチ。そのうち氷が溶けてきて、解放された腕で反撃しようとした愚か者は股間に蹴りを入れられていた。氷でガードされていても激痛だったらしく、泡を吹いて気を失った。そこも手加減してやろうよ。


 クソガキ共にはナルサスに氷漬けにされるより、こっちの方が効果的だった。しかもナルサスがある程度回復しているようなのだ。痛みが引いてまた反抗しようとする奴は、またナタリアに殴られる。回復されて再び反抗、再び殴打、その繰り返し。どうもナルサスは精神系の魔法まで使っているらしく、僅かでも敵愾心が残っていたら態度に出るようだ。完全に心が折れてナタリアに絶対服従するまで、エンドレスバイオレンス。


 やがて大人連中を片付けて国王陛下達が戻ってきた時には、ナタリアの下僕が大量生産されていた。如何すんのこれ。


「ニコラス、手下にする?」

「要らんわ!」


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