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冬の庭と氷像

 お茶会のために王宮に来た私は、何故かお茶会会場ではなく国王陛下の執務室に案内された。執務室には国王陛下をはじめ宰相大臣達が揃い踏みで、大量の書類に埋もれている。

 チェックするそばから事務官が新たな書類を積み上げるので、総出で捌かれているというのに書類の山がどんどん高くなってゆく。そのうず高く積まれた書類の向こうから顔を覗かせて、国王陛下が私に仰った。


「よく来たな、ナタリア嬢。だが、今はこれを捌くので手一杯なのだ。ちょっと待っていてくれ」

「畏まりました。私のことは、どうぞお気になさらず」

「すまんな。こんなに集まるとは思わなくて」


 忙しそうに手を動かす重鎮達の傍らで、私は呑気にお茶とお菓子を頂いた。ちょっと気が引けたが、私にお手伝い出来る事など無い。邪魔になるようなら別室に移ると申し出たが、そのまま留め置かれた。そして到着して1時間も経ったころ、ようやく目処が立ったのか、国王陛下が立ち上がった。


「待たせたな。そろそろ行くとしよう」

 

 私は国王陛下に付き従って、やっとお茶会会場に向かうこととなった。その途中で、歩きながら国王陛下に話し掛けられる。


「あの大量の書類はな、殆どナルサスが集めてきたものだ」

「そうなのですか?いったい何の書類なのでしょう」

「茶会に集めた貴族共の、犯罪の証拠だ。実は今日の茶会は、問題のある貴族共を纏めて断罪するための場なのだ」

「え、私の婚約解消じゃなく?」

「何を恐ろしい事を!そんな事になっては我が国は滅亡だ!」


 先を歩いていた国王陛下が振り返り、私の両肩をガッと掴んだ。鼻息荒く目が血走っていて、ちょっと怖い。

 私が若干身を引くと、目の前で国王陛下の鼻息が凍った。慌てて私から手を離し、2、3歩飛びすさる国王陛下。明後日の方向に向けてペコペコ頭を下げながら、必死に謝り始める。


「すまん、うっかりだ、下心など無い!二度と触らんと誓う!」

「あの、いったい何を」

「ああいや、気にせんでくれ。とにかくだ、其方とナルサスの結婚は最重要の国策だと思ってくれ。解消も撤回も破棄も有り得ん」

「……畏まりました。ですが、ナルサスに他に好きな──」

「グワーッ、ナタリア嬢はわたしを殺す気か?あれの其方への執着は相当なものだ、日々感じておるだろう?それなのに、何故そんな絵空事を。婚約解消もいったい何処から」

「最近ナルサスは秘密の外出が増えまして。それで」

「それは今日のための仕事を手伝ってくれていたのだ。秘密裏に進めねば証拠を隠滅されかねんから、箝口令を敷いていた。今朝も早くから、証拠集めに奔走してくれていた」

「だからエスコート出来なかったのですね」


 私が納得したとみて安心したのか、国王陛下はまた先に立って歩き出した。幾つかの宮を通り抜け、庭を奥へと進む。茶会の会場は、冬の庭と呼ばれている一帯だ。夏場の今はただ青々と、芝生と緑が広がっているはずのその場所だったが、行く手に見えてきた冬の庭は、その名に相応しく様変わりしていた。

 

 一面の銀世界の中、雪の妖精のように可愛らしいナルサスが駆けて来た。


「ナタリア、やっと来た!」


 勢いよく私に抱きついて、私の胸に顔を埋めるナルサス。7歳にしては背の高いナルサスは、私の肩くらいの身長だ。


「僕が贈ったドレス、凄くよく似合ってる。とっても綺麗だね、ナタリア」


 私のドレスはナルサスの瞳の空色、アクセサリーはナルサスの髪色と同じプラチナ、はっきり言って独占欲丸出しのコーディネートだ。ナルサスは私のドレスと揃えた空色のタキシードに、所々私の瞳の紺色が差し色で使われている。


「ありがとう。ナルサスも素敵よ」


 礼儀としてそう返したが、私の声は震えていたと思う。なにせお茶会の会場は雪が積もっているだけでなく、全てが凍り付いていたのだ。テーブルや茶器や周りの木々だけでなく、招待客や、警備に当たっている衛兵達まで。

 その中にニコラスの姿を発見し、私は悲鳴を上げそうになった。


「ナルサス、あ、あそこにニコラスが……」

「うん、兄さんはけっこう衛兵の制服が似合ってるよね」

「そうじゃなくて!お願いナルサス、早くこの氷を溶かして!」

「大丈夫だよ、直ぐには死なないから」

「ナルサス!!」

「……泣かないで、ナタリア。本当に大丈夫なんだ。魔法で出来た氷で表面を覆っているだけだから、息も出来るし意識もある」

「だとしても、お願い、子ども達だけでも……」

「分かった。だけど逃げられると厄介だから、上半身だけね。ナタリア、一緒に来て」

 

 ナルサスは私の手を握って、子ども達のテーブルへと戻る。ナルサスの言った通り、子ども達は意識があるようだ。ナルサスが近寄ると目に恐怖の色が濃くなる。


「この人はナタリア、僕の唯一愛する婚約者だ。ナタリアは優しいから、お前らの氷を溶かして欲しいって泣いて頼むんだ」


 ナルサスは私の腰に手を回し、甘えたような声で言う。そしてひと呼吸置くと、今度は感情の一切篭もらない平坦な声で続けた。


「ナタリアのお願いだから、お前らの氷を半分だけ溶かしてやる。だけど、もしもさっきみたいな事を言ってみろ、今度は永久に溶けない氷で全身覆ってやるからな。分かったか?」


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