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招待状と恋愛小説

「国王陛下主催のお茶会ね……」


 私は手の中の封筒を弄びながら、独りごちた。国が主催する大規模なお茶会は定期的に開かれているが、私は10歳の時から招かれた事がない。招待されたとしても、ナルサスが大人しく留守番してくれるはずがないので辞退するしか無かったが。

 

 それが何故か今回は、私宛に招待状が届いているのだから疑わしいことこの上ない。初めは良くできた偽物だと思って王宮に問い合わせてみた。すると招待状自体は本物で、是非婚約者と一緒に参加をとの返答がきた。ますます疑わしい。個人的な茶会ならまだしも、ナルサスを貴族が大勢集まる大茶会に招くなんて。何かあったら如何するのか。


 怪しさ満点のお茶会に関わりたくなくて、私は不参加の返事をした。元々お茶会なんて好きじゃないし、貴族の知り合いも殆ど居ない。私は学園に通わず、ナルサスと家庭教師に教わっていたからだ。社交界にも顔を出していないので、辺境伯家の一族と、王都の侯爵家に関わる人達だけが、私の小さな世界の全てだ。


 お断りの返事を出して、お茶会のことはすっかり忘れていた。ところが折り返し国王陛下からの親書が届き、続いて王妃様や宰相や内政大臣や、会ったこともない人達から続々と書簡が届き始めた。皆一様に、国王陛下主催のお茶会に是非とも参加して欲しいと書かれている。しかも懇願とか哀願とか切願とか、そんな調子で文章が綴られているのだ。


 国のためを思うならどうか茶会に出席を。貴女が来て下さらなければ我が国は滅びます。まだ死にたくない、後生ですから助けると思って……。

 そんな文面がびっしりのお手紙に、首を傾げざるを得ない。茶会一つで国が滅びるとか大袈裟な。魔王でも参加するの?


 ああそうか、参加するんだ。魔王のような我が婚約者が。


「ナルサス、貴方にも国王陛下主催のお茶会の招待状が来た?」

「うん」

「参加するの?」

「参加するよ。でもごめんね、当日は用事があってエスコート出来ないから、行きは別々になるんだ。でもドレスは僕が一式贈るから、絶対に着て来てね」


 やっぱり参加するのね、だけど一緒に参加するのにエスコートが出来ないって何?もしかして……。


「ナルサス、用事って何?」

「んー、害虫退治?」

「それって私のエスコートより大切な事なの?」

「……ナタリアには申し訳ないけど、将来のためなんだ」


 ほほう、なるほど。思った通りだ。


「分かったわ。残念だけど、ナルサスの将来のためなら仕方ないわね」


 私は物分りの良い婚約者の顔をして了承し、一人になるとひっそり拳を握り締めた。


 私、また婚約解消されるのね、やったわー!!

 

 こっそり拳を振り上げ喜びに浸る。最近感じていた通り、ナルサスには恋人が出来たのだ。その子をエスコートするから、私のエスコートを断ったに違いない。

 害虫退治とか、とっさの言い訳にしても苦しいよ。侯爵家の次男がそんな事する訳がない。でも騙されてあげるし、ナルサスの幸せのためなら喜んで当て馬役も演じてあげるわ!それが私の自由にも繋がるなら一石二鳥よ!

 それにしても、ナルサスも正直に打ち明けてくれれば協力するのに。恥ずかしかったのかな?国王陛下に無理を言って結んだ私との婚約を解消するんだから、言い出し難いのは当然か。だけど大丈夫よ、私は私でちゃんとするからね!


 それからの私は、婚約解消や婚約破棄を題材にした恋愛小説を出来る限り沢山取り寄せ、読み耽った。婚約を解消する側のナルサスとご令嬢が悪く言われないように、でも私もあまり不利益を被らないようにしなければ。様々な物語から考えられるパターンを導き出し、脳内でシミュレーションし、どんなタイプの婚約解消にも対応出来るように対策を練る。


 それにしても、婚約を解消するだけでも大変なのね。私、ニコラスと穏便に婚約解消出来て良かった。ニコラスもニーナも特に問題なく過ごせているようだし、私は──予定外にナルサスが婚約者になっちゃったけど、まあまあ平穏に暮らせてるし。

 前回、ほぼ事前準備なく決行しても何とかなったのだから、バッチリ準備している今回は、もっと上手くいくはず。皆で幸せになるわよ!


「ナタリア様、ずいぶん熱心に読まれていますが、面白いですか?」


 読書に掛かりきりの私に紅茶を淹れに来てくれたアンが、机に積まれた本を手に取る。書名を見て僅かに眉を顰めたアン。これでも辺境伯家の令嬢である私が、庶民向けの本を読むのに抵抗があるのだろう。でもこれは必要な情報収集だ。あと単純に面白いし。


「面白いわよ。それに人生勉強にもなるし。貸してあげるから、貴女も読んでみる?」

「いえ、結構です」

「そう?気が変わったら教えてね」


 アンは黙って一礼すると、私の部屋から下がって行った。扉を閉める間際、アンが可哀想な子を見る目を私に向けていたことに、読書に集中していた私は気付かなかった。


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