過去の回想 二界道編(三)
天上界にて。
「そ、そろそろ我々も助太刀に行った方がいいんじゃないか?」
「…………。」
二界道を見ていたどんぶりうなぎとキング・ジャイアントが話していた。何せ、ペガサスとサンガーが燃え始め、大統領と事務総長に死の危機が迫っているのだ。
「聞いておるのか、キング・ジャイアント!」
「…どうせ行くなら、あやつを行かせたらどうだ?」
「…。フェニックスに真実を伝えるか」
「ああ」
彼らは、一人の女を呼び出した。
フェニックスの結界にて。
「おい、周りの仲間が大変なことになっとるみたいだぞ」
シールドでその身を防いでいる番人が言った。
「構わん。どうせ、俺が勝てないならあいつらも勝てん」
「殺意は人を変えるなー」
「それにしても、『シールド』はかなり堅い守りだな…。」
「あん?言っとくけど、シールドは結界より弱いぜ?俺の防御力が半端じゃないだけだ」
「…………。」
「ただ、それでもやばくなってる」
「え?」
番人の突然の発言にフェニックスは驚いた。
「な…何で結界に変えないんだ?」
「結界は丸星だろ?でも、結界の中に結界を作ったら外側の結界の星が欠けてしまう。今、俺が結界を張ればお前の結界が崩れる」
「別にお前に損はないだろ?そりゃぁ、外の六人は確実に終わるが、お前に損はない。」
「いや…この二界道、千年以上この身をおいた。見ろよ地面。割れていってる」
「あ…。」
フェニックスは地面を見た。フェニックスが感じていたのは殺意だけで、周りをよく見れていなかったのだ。
「そんな事のために…そんな事のために…シールドで防いでいるのか?」
「俺に残る最後の良心が痛むんだよね。いや、良心かどうかは解んねーけど」
「あ…。」
フェニックスは後悔した。友を殺してまで、こいつを殺す必要があるのか?
「名前、フェニックスって言うんだよな。フェニックス、もう終わりにしよう。ここを通してやるから、俺の永住の地をこれ以上壊さないでくれ」
「…解った」
炎を消す。周りを冷静に見渡す。四人が大火傷をしている。大統領達の姿はない。
「すまねぇ…皆…。すまねぇ…!」
フェニックスが突っ伏して泣く。それを見ていた番人がニヤリと笑うと、
「頂き」
大統領と事務総長は炎が突然消えたことに驚いたが、喜びに変わった。
「ニゲキッタ、ニゲキッタ!」
「ホノオガキエタトイウコトハ、ショウハイガツイタノカ?」
前から女性が現れた。
「こんにちは」
「ユーハ?」
「名乗るほどの者ではありませんので。あと、二界道は入口から逃げることは不可能です。私について来てください」
「…………。」
そう言うと、女は何も恐れず前へ進んでいった。
「ふい〜、やっと勝てた勝てた」
「ひ、卑怯だぞ…!」
「あん?喧嘩にルールなんか無ぇんだよ」
「あれは全部嘘だったのか…?」
「おう」
番人はそこで一回切ると、
「シールドは結界より防御力が強い。現にお前の技なんか余裕で守ってたし。ただ、シールドを張っていると結界と違って攻撃が出来ねぇんだよ。だから、炎を消してもらった」
「ぐ…。」
「覇者とも呼ばれる様な奴がこんな嘘も見抜けんとは、全く天上界も堕ち…」
番人の目付きが変わる。その目線の先には、大統領と事務総長、それから一人の女性がいた。
「アンタは…。」
「私はキング・ジャイアントの部下、五人の手当てに来ました」
「キング・ジャイアント…?何で地下界扉の方から?」
フェニックスが驚く。
「あのな、フェニックス。」
番人が呆れて説明し出した。
「地下界扉から入ろうと、天上界扉から入ろうと、入口は向こうなんだよ。入って初っぱなラスボスだなんてあるわけねぇだろ。」
「…………。」
「五人の治療を開始します」
そう言うと女性は塗り薬のような物を取り出した。だが、
「ちょっと待てや。俺はしていいとは言ってないぜ」
そう言って番人は、自分の髪の毛を一本引き抜くと、女性に投げた。それはフェニックス達には解らないが、時速何千キロで女性に飛んでいった。先が鋭利な針となって。だが、女性はパチッ、と指を鳴らすと、その髪の毛を自分の手前で燃やし尽くした。
これをフェニックスにはどう見えたか。番人が髪の毛を引き抜き、女性が指を鳴らすと、それが女性の手前まで来て、燃え尽きた。
フェニックス「ごとき」に、何も理解できることはなかった。
「観念してください。あなたは私に勝てません。」
「抜かせ、」
番人が拳を女性のいる方向に突き出す。二人は離れているので届くはずはないが、波動が女性に向かって進んでいく。無論、二人以外には誰も見えない。
番人は勝ったと思った。だが。
女性は瞬きをした。すると、その波動が拳の波動にぶつかり、相殺した。
「な…!」
「観念してください、あなたは私に勝てません」
そう言いながら女性は一番怪我のひどいペガサスの元に向かう。
「黙…れ、俺はあのどんぶりうなぎ以来、この千年間、誰もこの道を通したことがないんだ!」
「ええ、あなたの部下がね」
「…。」
「あれ以来、あなたは誰とも戦っていませんよね。」
「だが…!」
「しかも、あなた最近誰か通しましたよ」
「なっ…!」
「どんぶりうなぎをね」
「嘘だ!奴はあれ以来天上界になりを潜めていたはず!」
「ハァ、千年もこんな所にいると知能指数が堕ちますね。いいですか、この五人は元は地上の人間。それをどんぶりうなぎが生き返らせたんです」
「だからどうした…まさか!」
「ついこの前、どんぶりうなぎはここを通りました。この五人を連れてね」
「嘘だ…!」
「千年間、屈辱を晴らすため修行していたとしても、敵は皆部下が倒してしまう。実戦経験が無くなっていたあなたにあの方のスピードで見えるはずがありませんよね。」
「あいつは…あの時と同じ方法で俺の横を通りすぎていったと言うのか…?」
「はい」
ペガサスに塗り薬を塗りながら淡々と答える。
「クソォォォォォォォォォォォォ!」
番人が自分の前に膨大な火の玉を作り出す。それを女性に向かって投げる。フェニックスはヤバイと思った。この道が、消える。だが。
「何度も言わせないでください、」
女性のその声が波動となり、火の玉を番人に押し戻す。
「ギャアアアアアアアアアアアア」
番人が燃え尽きる。その燃えかすに向かって女性は、決め台詞のように言った。
「あなたは私に勝てません」




