第3章 ロボットのシロ―①
一 「ロボットのシロ―」
これは、遠いようで近い、未来の不思議なものがたり。
ここは、ロボット王国。ロボットと人間が、仲よく暮らす世界です。
ロボット王国では、命令ひとつでロボットや機械たちがなんでもしてくれます。
ロボット王国には、シンという王子様がいます。シンは、未来の王様です。シンのそばにはいつも、シローという、青い目をしたお手伝いロボットがいました。
ある日、シンは、ロボットのシローに尋ねてみました。
「どこへでも連れて行ってくれる、この便利な空飛ぶ車はだれが作ってくれたんだい?」
「ソイハ、アナタノオトンバイ(それは、あなたのお父さんです。)。」
「じゃあ、いつでもおかしを作ってくれる、この便利なロボットは、だれが作ってくれたんだい?」
「ソイハ、アナタノジイサンバイ(それは、あなたのおじいさんです。)。」
「じゃあ、いつでもお洋服をつくってくれる、この便利な機械はだれが作ってくれたんだい?」
「ソイハアナタノ、ヒイジイサンバイ(それは、あなたのひいおじいさんです。)。」
ロボットのシロ―は、古いロボットなので、言葉遣いが少し変…
でも、ロボット王国の便利な機械やロボットは、全部シンのお父さんや、おじいさんや、ひいおじいさんや、そのまたおじいさんたちが作り上げてきたことを教えてくれました。
最後に、シンはロボットのシローに尋ねてみました。
「どうして、シローはそんなにものしりなの?」
「ソイハ、オイガアナタノジイサンノジイサンノソノマタジイサンノオラストキカラ、ココニオルカラバイ(それは、私があなたのおじいさんのおじいさんのそのまたおじいさんのいるときからここにいるからです。)。」
シンは、ロボットのシローとお話しして「立派な王様になろう」と、心に誓ったのです。
月日は流れ、シンは大きくなって、王様になりました。
でも、ロボット王国では、便利な機械やロボットがなんでもやってくれます。
今日は、初めて、ロボットがロボットを作ることに成功しました。
一番新しいロボットの名前は、「マミー」と名付けられました。
ロボットを作るのも、人間の仕事ではなくなってしまったのです。
王様になったシンも、もうなにをすればいいのかわかりません。
なにもしなくても、機械やロボットがなんでもやってくれます。
なにもしなくても、みんな生きていけます。
悩んだ末に、シンは、ロボットのシローに命令することにしました。
「おい、シロー。お前、王様をやれ。」
ロボットのシローは、いつも通りの少し変な言葉遣いで答えました。
「ソイハ、デケントデス(それは、できません。)。」
「なにを生意気な! ロボットは、人間の命令を聞くものだろう! おれの命令が聞けないのか! 」
「ソイハ、アナタノヤルコッチャイ(それは、あなたのやることだから。)。」
シンは、命令を聞かないロボットのシローが許せません。
シンは、ロボットのマミーにめいれいしました。
「こんなガラクタロボット、ぶっ壊してしまえ!」
「承知いたしました。国王様」
ロボットのマミーは、シンの命令にしたがって、ロボットのシローに襲いかかりました。最新型のロボットのマミーに、古いロボットのシロ―が勝てるはずもありません。
「おれの命令が聞けないやつは、みんなこうしてやる! 」
ロボットのシローが壊されたと思った、まさにそのとき! いつもは青かったロボットのシローの目が、真っ赤な色になりました! そして、ロボットのマミーを払いのけると、こう言いました。
「オマンハ、ナンシヨットカ! (お前は、なにをしているんだ! )」
「早く、こんなガラクタロボット、ぶっ壊してしまえ! 」
シンがいくら命令しても、ロボットのマミーは、シンの言うことをききません。それどころか、ロボットのシローと一緒に、シンに襲いかかってくるではありませんか!
「うわぁ! どうなってるんだ! 」
シンは、慌てて、お城から逃げ出しました。
シンがお城から出ると、なんということでしょうか。ロボット王国の便利な機械やロボットが、人間を襲っています。シンや他の人間が、いくら命令しても、機械もロボットも言うことをききません。
お洋服を作ってくれる機械は、人間を糸でぐるぐる巻きにしています。おかしを作ってくれるロボットは、お砂糖のかたまりを人間に投げつけています。空飛ぶ車は、上へ下へ、右へ左へ、飛び回って、乗っている人間は、目を回しています。
シンは、命からがら、なにも考えずに、走って、走って、走って…遠くまで逃げました。そういえば、自分の足で走るなんて、久しぶりのことです。走って逃げるシンを、ロボットのシローや、他のロボットたちが追いかけてきます。
機械やロボットのいないところに行きたい…でも、だれも連れて行ってくれません。走ってお腹が空いたな…でも、だれもおかしをくれません。汗もかいて、夜になって、寒くなってきたな…でも、寒さをしのぐお洋服も、ありません。
走って、走って、走っていると、シンは、白い、長い、光の筋を見つけました。光の筋は、次第にぐるぐると螺旋を描きながら、大きくなっていきます。そして、最後には、大きな立派な龍になりました。シンが夢中になって、龍に触れると、不思議なことが起きました。
シンのひいおじいさんが、微笑んでいます。シンのひいおじいさんの時代、王国はとても寒い時代でした。寒さをしのぐ服があれば、みんな困らない。そう思って、シンのひいおじいさんが機械を作っています。
シンのおじいさんが、微笑んでいます。シンのおじいさんの時代、食べるものが少なく、子どもたちは、いつも腹ペコでした。おかしを作ってくれるロボットがいれば、子どもたちは、腹ペコではなくなる。そう思って、シンのおじいさんがロボットを作っています。
シンのお父さんが、微笑んでいます。シンのお父さんの時代、大雨が続き、人間は、大洪水から逃げなければなりませんでした。どこへでも連れて行ってくれる車があれば、だれも死ななくて済む。そう思って、シンのお父さんが車を作っています。
他の機械もロボットも、みんな、だれかの幸せを願って、作られています。そんな想いに触れたとき、シンの心が熱くなり、涙がとめどなく流れました。
「本当に、ごめんなさい!! 」
シンは、王国中に聞こえるかのような、大きな声をあげました。
その言葉は、シンの心の底から、自然と溢れ出てきた言葉でした。
すると、シンを追いかけていたロボットのシローの動きが止まりました。ロボットのシローの目も、真っ赤な色から、元通りの青い色に戻っています。
「ハテ? オイハ、ナンシヨッタトデショウ? (はて? 私は、なにをしていたのでしょう? )」
元通りの青い目に戻ったロボットのシロ―は、なにをしていたのか、忘れているようです。シンは、そんなロボットのシローを見て、こう言いました。
「ありがとう。立派な王様になるよ」
シンの心には、命令を聞かなかったロボットのシロ―への怒りは、もうありません。シンの心は、叱ってくれた、ロボットのシロ―への、感謝の心で満たされていました。
こうして、シンは自らのやるべきことを知りました。
「自分の役目から、逃げてはいけない。」
そう思ったシンは、人間とロボットたちのため、たくさん勉強しました。ときには、逃げ出したくなるようなこともあるでしょう。でも、ロボットたちに「王様をやれ」なんて命令することは、もうありません。
こうしてシンは、お父さんやおじいさんやひいおじいさんたちにも負けない、立派な王様になっていきました。そして、その側には、いつも、やさしい、青い目をした、ロボットのシローがいたのでした。




