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時と魔法と  作者: 牡丹
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第9章 防波堤

 久世透が学長室を出たのは、最終下校時刻を過ぎてからだった。


 廊下には誰もいない。


 窓の外では、夏の日が校舎の向こうへ沈みかけている。


 榊原真帆は破損したスマートフォンと脅迫文を職員用の保管袋へ入れ、その口を封印した。


 透明な袋の中で、割れた画面が夕日を細かく反射している。


「端末は学校で預かります。ご家族には、校内で起きた器物損壊の確認が必要だと私から説明します」


「能力のことは」


「もちろん伏せます」


 榊原は、学校の備品だという簡素なスマートフォンを透へ差し出した。


「新しい端末を用意できるまで使ってください。連絡先は最低限しか入っていません」


「ありがとうございます」


 受け取った端末は、透の手に馴染まなかった。


 壊れたものを数秒前へ戻せる力があるのに、借り物を使う。


 以前なら、ひどく遠回りに思えただろう。


 今は、その遠回りが必要なことを理解していた。


「久世君だけ、もう少し残ってくれるか」


 神代宗一郎が言った。


 美月が足を止める。


「私も残ります」


「相沢君にも聞いてもらいたい話だ。ただし、まずは久世君自身の意思を確認したい」


 美月は透を見る。


「廊下で待ってる」


「うん」


 榊原と美月が退室し、重い扉が閉じた。


 神代は机から立ち、壁際の書棚へ向かった。


 取り出したのは、学校の能力測定に関する規程集だった。


 何度も開かれた冊子の角が、白く擦れている。


「鷹宮君が口にした再測定には、2つの段階がある」


 神代が冊子を開く。


「1つは、学校内で行う予備検査だ。測定後の生徒に発現の兆候があった場合、教員が事実を確認するために行う。この段階の記録は校内に留まる」


「もう1つは、中央の測定局が行う登録検査ですか」


「そうだ。予備検査で明確な能力反応が出るか、本人または保護者から正式な申告があった場合に進む。登録検査の結果は国家の管理網へ送られる」


 透は、最初の能力測定の日を思い出した。


 機械の前へ立ち、指示に従い、最後に告げられた言葉。


 固有能力なし。


 あのときは、その判定が自分と能力者を隔てる壁になった。


 今は、同じ判定が国家との間にある壁になっている。


「鷹宮君は、君の保護者でも担当教員でもない。彼1人の要求だけで、登録検査へ進めることはできない」


「でも、万年筆があります」


「異常な劣化があったことと、君が能力を使ったことは同じではない。購入後の保管状況も、修理に出すまでの管理も、第三者によって保証されていない」


 神代は規程集を閉じた。


「証拠としては不十分だ」


「鷹宮先輩は納得しないと思います」


「だから、先に校内の予備検査を行う」


 透の指が、借りた端末の縁を強く握った。


「検査を、受けるんですか」


「君の『時の番人』は既存の測定器では捉えられない。予備検査を受けても、結果は以前と変わらないだろう」


「絶対に、とは言えませんよね」


「言えない」


 神代は即座に答えた。


「君の制御は進んでいる。精神状態によっては、これまで観測されなかった反応が出る可能性もゼロではない」


 安心させるための嘘をつかない。


 その姿勢が、かえって透を落ち着かせた。


「予備検査の結果は、俺が能力者ではない証明になりますか」


「ならない。機械に映らないことは、存在しないことの証明ではない」


「それなら、何のために」


「学校が確認すべき手続きを果たしたと示すためだ。鷹宮君の疑念を消すためではない。疑念だけを理由に、君を国家へ差し出させないために行う」


 神代は机を挟まず、透の前へ立った。


「私は君を守ると言った。だが、君の知らないところで全てを決めるつもりはない。検査を受けるかどうかは、君が選びなさい」


 受けなければ、神代は別の方法を探すのだろう。


 けれど、拒否すれば鷹宮に新しい理由を与える。


 何より、透はもう、自分を守ろうとする人たちへ判断を預けたままにしたくなかった。


「受けます」


「怖くないか」


「怖いです」


 透は正直に答えた。


「それでも、逃げたくありません」


 神代がゆっくりと頷く。


「月曜日、鷹宮君への事情聴取を行う。その後に予備検査の日程を決める。相沢君と榊原先生にも、今の説明をしよう」


 扉を開けると、美月はすぐそばの壁に背を預けていた。


 離れた場所で待つつもりは、最初からなかったらしい。


「終わった?」


「うん。検査を受けることにした」


 美月の顔が強張った。


 透は、神代から聞いた内容を最初から話した。


 守るために隠すのは最後にすると約束したばかりだった。


 不安まで言葉にするには勇気が必要だったが、それも省かなかった。


「怖いけど、受ける」


 話し終えると、美月はしばらく黙っていた。


「私に止めてほしい?」


「違う」


「じゃあ、終わるまで待ってる」


 美月はそれだけ言った。


 透には、その短い言葉がどんな励ましよりもありがたかった。


 土曜日の夜、借りたスマートフォンに着信があった。


 登録したばかりの美月の名前が、無機質な画面に表示されている。


「もしもし」


『ちゃんと眠れそう?』


「たぶん」


『それ、眠れない人の答えだよ』


 透は自室の机に置いた操作記録帳を見る。


 新しく書き足す能力使用はない。


 それでも、旧理科準備室で鷹宮を止めたいと思ったことは記した。


 怒りの中で何を想像したかも、隠さずに書いた。


「美月さんは?」


『コハクが布団の真ん中で寝てるから、私は端に追いやられてる』


「元気そうだね」


『すごく元気。今日もカーテンによじ登って、お母さんに怒られてた』


 子猫の小さな身体を抱いたときの感触が蘇る。


 あの日、禁止を破って能力を使った。


 結果として命を救えたが、正しい結果が全ての行動を正しくするわけではない。


 逆に、能力を使わず傷ついた昨日の選択も、傷ついたから間違いだったわけではない。


『透くん』


「何?」


『昨日、能力を使わなかったこと、後悔してる?』


 同じことを考えていたらしい。


「少しだけ」


 肩と背中には、まだ鈍い痛みが残っている。


「止めて逃げればよかったって、何度か考えた」


『うん』


「でも、あのとき使ったら、たぶん逃げるだけじゃ済まなかった」


 受話口の向こうで、美月が息を呑む。


「鷹宮先輩の時間を進めるところまで想像した。だから、使わなくてよかった」


『それを自分で止めたんだよね』


「榊原先生が来てくれたから」


『来るまで、透くんが耐えたからだよ』


 透は返事をしなかった。


 自分の我慢を褒められることに慣れていない。


 そもそも、自分が万年筆へ報復しなければ起きなかった問題だ。


『今、また全部自分のせいだって考えてるでしょ』


「どうしてわかるの」


『わかるようになったから』


 美月の声が少し笑う。


『万年筆のことは、透くんが悪かった。でも、だからって脅されても仕方ないことにはならないよ。そこは分けて考えないと』


「神代先生みたいなことを言うね」


『褒め言葉として受け取ります』


 その夜、透は眠る直前まで不安だった。


 けれど、1人で不安を抱えている感覚はなかった。


 月曜日、鷹宮怜司は教室へ現れなかった。


 能力者クラスの間では、体調不良だと説明されているらしい。


 通常クラスでは、先週の噂と結びつけた憶測が広がっていた。


「鷹宮先輩、学校で何かやらかしたって本当?」


 昼休み、高瀬颯太が尋ねた。


「知らない」


「久世、お前のスマホが壊れたのと関係ある?」


「今、先生たちが確認してる」


 以前なら、何もないと言って話を終わらせていただろう。


 透は答えられる範囲だけを答えた。


 高瀬は驚いたように目を瞬いたあと、それ以上は聞かなかった。


「わかった。必要なら言えよ」


「何を」


「何かだよ。俺にできることは少ないけど」


 軽い口調だった。


 それでも、その言葉は透の中へ残った。


 放課後、学長室では鷹宮への事情聴取が行われた。


 透は出席しない選択もできた。


 神代からそう伝えられたが、自分の言葉で話すことを選んだ。


 室内には神代、榊原、鷹宮の担任、透、そして鷹宮がいる。


 美月は直接の被害確認が必要な時間だけ別に呼ばれることになっていた。


 鷹宮は透の向かいへ座っていた。


 いつも整っている制服の襟元が、今日はわずかに乱れている。


「では、確認を始める」


 神代の声は静かだった。


「金曜日の放課後、鷹宮君は旧理科準備室へ久世君を呼び出した。間違いないね」


「話をするためです」


「匿名の紙で、1人で来るよう指示した」


「僕が書いた証拠はありません」


「紙の件は、現時点では保留する。準備室で『重圧』を使用したことは」


 鷹宮は1度、担任を見た。


「認めます」


「久世君へ、能力を見せるよう要求した」


「未登録能力者の疑いがあったからです」


「再測定を申請すると告げ、拒否した久世君を能力で床へ押さえつけた」


「必要な確認でした」


 榊原の表情が険しくなる。


 神代は声を荒らげなかった。


「生徒に、他の生徒を能力で尋問する権限はない」


「学校が見逃しているなら、誰かが確かめる必要があります」


「それを正義と呼んでも、行為の責任は消えない」


 鷹宮の唇が固く結ばれる。


「久世君のスマートフォンを破壊したことは」


「盗聴されていると思いました」


「相手の所持品を破壊してよい理由にはならない」


「あの場へ先生を呼び込んだのは、久世のほうです」


「私へ相談したのは、私が指示したからです」


 榊原が言った。


「生徒が脅迫を受けたとき、教員へ知らせるのは正しい対応です」


 鷹宮は何も答えなかった。


 神代が、机の上へ修理費用の見積書と医務室の診断記録を置いた。


 透の肩と背中には打撲が確認されている。


 壊れた端末には、外側から局所的に強い圧力が加わった痕跡が残っていた。


「能力の有無に関する疑いと、君が規則に違反した事実は別々に扱う」


 神代は鷹宮を見る。


「君には本日から5日間の自宅謹慎を命じる。復帰後1か月は、授業と認可された演習を除き、校内での能力使用を禁止する」


 鷹宮の担任が、処分内容の記された書面を前へ出した。


「久世君と相沢君への接触も禁止する。端末の弁償については、保護者を通じて協議する。再度の違反があれば、能力者クラスへの在籍を含めて処分を見直す」


「僕だけを処分するんですか」


「久世君の疑いについても確認する」


 神代は別の書面を置いた。


「本人の同意を得て、明日、校内予備検査を実施する」


 鷹宮の目が透へ向く。


「中央の検査官を呼ぶべきです」


「その必要性を判断するのは学校だ」


「学長が結果を握り潰すかもしれない」


 部屋の空気が変わった。


 榊原が口を開きかける。


 神代は片手を上げて制した。


「疑うことは自由だ。だが、根拠のない言葉で他者の名誉を傷つければ、その言葉にも責任が伴う」


「万年筆は根拠です」


「異常劣化の根拠にはなる。久世君が原因だという根拠にはならない」


「最後に触ったのは、そいつです」


「その後、診断を受けるまで君が所持していた。経路の全てが記録されていない以上、因果関係は確定できない」


 鷹宮は机の下で拳を握っていた。


「予備検査で何も出なかったら、能力がないことになるんですか」


「現行の制度上は、発現を確認できないという結論になる」


「機械に映らない能力なら」


 透の心臓が跳ねた。


 鷹宮は、偶然にも真実のすぐそばへ来ている。


「その存在を証明する資料を持ってきなさい。疑いだけで人を拘束することを、私は認めない」


 神代の声は低かった。


 その言葉の後ろに、数百年前の保持者の姿があることを、透だけは知っていた。


 能力があるかもしれない。


 ただそれだけで自由を奪われた人間を、神代は見過ごさない。


 事情聴取が終わると、鷹宮は担任とともに立ち上がった。


 透の前を通り過ぎる際にも、視線を外さなかった。


「学校の判定が出るまで、久世君へ話しかけてはいけません」


 担任が釘を刺す。


 鷹宮は返事をしなかった。


 扉が閉じたあと、透は自分の手が汗ばんでいることに気づいた。


「よく話してくれました」


 榊原が言った。


「途中で、能力を使いたくなりました」


「使わなかった。それで十分です」


 神代は、鷹宮が座っていた椅子を見た。


「彼の疑念は、予備検査だけでは消えないだろう」


「それでも、やるんですよね」


「ああ。制度は万能ではない。しかし、制度を守る側が正しく使えば、人を守る時間を作れる」


 翌日の放課後、透は能力測定室の中央へ立った。


 入学時以来の場所だった。


 白い壁。床へ描かれた同心円。正面に並ぶ透明な測定板。


 記憶の中より狭く感じる。


 観測室には神代、榊原、能力測定を担当する教員がいる。


 美月は廊下で待っていた。


「校内予備検査を開始します」


 担当教員の声が天井のスピーカーから流れる。


「久世透。生年月日と所属クラスを確認してください」


 透は答えた。


 測定板に淡い光が走る。


 校内予備検査では、結果が出るまでデータは学校の内部領域にだけ保存される。


 能力反応が確認され、登録検査へ移行すると決まった時点で、初めて中央の管理網へ接続される。


 今はまだ、外とつながっていない。


「両手を測定台へ置いてください」


 冷たい板へ手のひらを載せる。


 低い作動音が足元から響いた。


 魔素量を示す数字が増えていく。


 一般的な生徒より少し多い。


 能力者として判定される基準には届かない。


 以前と同じだった。


「深呼吸をして、最も強く記憶に残っている場面を思い浮かべてください」


 透は迷った。


 交差点。


 止まったトラック。


 雨に濡れた子猫。


 旧理科準備室で、自分を押し潰した重さ。


 どれも、能力を呼び起こしかねない。


 透が選んだのは、水族館の大水槽だった。


 青い光の中で、美月が笑っていた。


 危険も、怒りもない記憶。


 ただ守りたいと思った時間だった。


 測定板の光が、ゆっくりと明滅する。


 透は対象を選ばない。


 方向を決めない。


 終点を探さない。


 時間へ命令を届ける扉を、心の中で閉じたままにする。


「魔素を外へ押し出す感覚で」


 指示に従う。


 わずかな魔素が測定台へ流れた。


 一般能力者の発現時に見られる変換反応は起きない。


 警告音も鳴らない。


 世界は、何事もなく進み続けている。


「次に、正面の標的へ変化を起こす意識を向けてください」


 測定室の端に、金属製の円盤がある。


 透は円盤を見る。


 触れていない。


 現段階では、非生物の加速や退行に接触が必要だ。


 時間停止なら、離れた場所からでも行える。


 止めようと思えば止められる。


 透は、動いている時計の秒針へ意識を向けた。


 止めないと決める。


 秒針が1つ進む。


 もう1つ進む。


 測定板には何も現れない。


 静かな時間が、これほど恐ろしく感じられたことはなかった。


「終了します。測定台から手を離してください」


 透は息を吐いた。


 足から力が抜けそうになる。


 観測室の担当教員が、記録を確認している。


 数分が、長かった。


 やがて扉が開き、神代が入ってきた。


 手には結果票がある。


「魔素量、通常域。固有能力に伴う変換反応、検出なし。発現兆候、確認できず」


 神代は結果票を透へ見せた。


 判定欄には、入学時と同じ文字が並んでいる。


『固有能力なし』


 助かった。


 そう思う一方で、胸の奥がわずかに痛んだ。


 本当の自分が、また機械から否定されたような感覚だった。


「複雑な顔だね」


 神代が言った。


「安心しました。でも、少しだけ変な気分です」


「君の力が存在しないと書かれたからか」


 透は頷いた。


「以前は、その文字のせいで自分には何もないと思っていました。今は、その文字に守られています」


「判定が君を変えたわけではない」


 神代は結果票を折らず、封筒へ入れた。


「君を知る人間が増えた。それが以前との違いだ」


 測定室を出ると、美月が廊下の長椅子から立ち上がった。


「どうだった?」


「固有能力なし」


 透が答えると、美月は大きく息を吐いた。


「よかった、って言っていいのかな」


「俺も同じことを考えた」


「じゃあ、今はよかったでいいよ」


 美月は笑った。


「本当のことは、私たちが知ってるから」


 透の鞄には、青いクラゲのストラップがついている。


 測定器に映らなくても、あの日の時間がなくなるわけではない。


 そのことを、透はようやく実感できた。


 校内予備検査の結果を受け、学校は登録検査へ進む必要はないと判断した。


 鷹宮の処分も正式に決まった。


 5日間の自宅謹慎。


 復帰後1か月の能力使用制限。


 透と美月への接触禁止。


 破損したスマートフォンの弁償。


 脅迫文については、鷹宮が関与を否定し、直接の証拠もないため調査が継続されることになった。


 全てが解決したわけではない。


 それでも、教室の机は普通に動くようになった。


 透が廊下を歩くとき、背後の足音に身構えることも少しずつ減った。


 翌週の訓練で、神代は結果票の写しを操作記録帳へ挟んだ。


「今回、私は中央の記録を書き換えていない。検査を偽装したわけでもない」


「わかっています」


「校内に認められた裁量を使っただけだ。防波堤は、海がないことにするためのものではない」


 神代は演習台へ3つの木片を並べる。


「押し寄せるものを受け止め、内側にいる人間が自分で進路を選ぶ時間を作るためにある」


 透は中央の木片へ指を置いた。


「俺は、守られてばかりですね」


「守られることと、何もしないことは違う」


「今回は、何もしてません」


「能力を使わないと決めた。脅迫を報告した。事情聴取で自分の言葉を話し、検査を受けると選んだ」


 神代が中央の木片を指す。


「力を振るうことだけを行動だと思わないほうがいい」


 透は目を閉じた。


 対象は中央の木片。


 方向は停止。


 終点は5秒後。


 意識を細く絞る。


 左右の木片を神代が同時に滑らせた。


 2つは演習台の端で止まる。


 中央の木片だけが、その場に留まった。


 透が指定した5秒後、遅れて滑り始める。


「安定している」


 神代の声が聞こえた。


 透はゆっくり目を開ける。


 時間を使わなかった選択は、能力を捨てることではない。


 使うべきときに使えるよう、持ち続けるための選択だった。


 同じ夜、鷹宮怜司は自室の机へ万年筆の診断書を広げていた。


 学校から届いた予備検査の結果には、能力反応なしと記されている。


 鷹宮は、その紙を信じなかった。


 万年筆の内部だけに生じた8年以上の劣化。


 久世が最後に触れた直後の故障。


 異様なほど久世を守ろうとする学長と担任。


 偶然で片づけるには、出来すぎている。


 鷹宮は端末を開いた。


 能力に関する未確認事例を扱う、会員制の情報掲示板。


 家の関係者から存在だけを教えられた場所だった。


 個人名と学校名を消し、万年筆の写真と診断書の一部を添付する。


『購入から3か月の物品に、部分的な8年以上相当の経年劣化。接触によって物体を劣化させる既知能力はあるか』


 投稿の送信を押す。


 返事が来るとは思っていなかった。


 画面が更新されたのは、数秒後だった。


『発生日時、場所、最後に接触した人物の情報を提示してください』


 差出人の欄は空白だった。


 鷹宮はしばらく画面を見つめた。


 そして、指を入力欄へ置いた。


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