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時と魔法と  作者: 牡丹
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13/17

第13章 写真の隅の灰色

 夏休みに入って1週間が過ぎた週末、美月から4人用の連絡グループへメッセージが届いた。


『明日の夏祭り、予定どおり午後5時に駅前集合で大丈夫?』


 参加者は、美月、透、高瀬颯太、そして藤崎彩花(ふじさきあやか)の4人だった。


 藤崎彩花は1年4組の通常クラスに所属し、美月と入学直後から親しくしている女子生徒だ。


 教室では美月の隣にいることが多く、透も何度か話したことがある。


 写真部に所属しており、学校行事があるたびに小型のカメラを持ち歩いていた。


 美月から親友だと聞いていたが、4人で出かけるのは初めてだった。


『大丈夫』


 透が送ると、すぐに高瀬から返事が来る。


『補習を生き延びた俺に怖いものはない』


『数学の追試は来週だよ』


 美月の指摘に、高瀬から泣いている絵文字が送られてきた。


 最後に彩花が返信する。


『遅刻した人は、全員分の飲み物をおごること』


『久世は30分前に来るから関係ないな』


『どうして知ってるんだ』


『顔に書いてある』


 画面の向こうで、3人が笑っている気がした。


 夏祭りへ行くことは、神代と榊原にも伝えてある。


 人の多い場所へ4人で出かけ、別行動はしない。


 帰宅時刻と経路を事前に共有する。


 不審な人物を見つけても、自分たちで追わない。


 約束は増えた。


 それでも、行くことを止められなかったのが嬉しかった。


 透は端末を置き、机の上の操作記録帳を見る。


 白峰朔の名前を知ってから、黒い表紙を見るたびに、約318年前の記録帳を思い出す。


 同じ形式で、同じ力を記す。


 けれど、同じ人生にはしない。


 そのためにも、能力を使わない時間を捨てたくなかった。


 翌日の午後4時42分、透は駅前へ着いた。


 30分前ではない。


 自分としては、かなり待ち合わせ時刻に近づけたつもりだった。


「やっぱり早い」


 後ろから声がする。


 振り返ると、高瀬がいた。


 紺色のシャツに、動きやすそうな靴を履いている。


「高瀬も早いだろ」


「俺は久世が早く来ると思ったから来た」


「何だそれ」


「1人で待ってるの、気まずいだろ」


 高瀬は何でもないように言った。


 灰色のスーツの男が現れてから、透が1人にならないよう気を配っているのかもしれない。


 詳しい事情を知らないまま、できる範囲でそばにいる。


 透は礼を言おうとして、やめた。


 高瀬は、そういう言葉を向けると照れて余計な冗談を言う。


「補習はどうだった」


「その話をするなら帰る」


「追試、来週なんだろ」


「相沢から聞いたな」


「連絡グループに書いてた」


「逃げ場がない」


 2人で話していると、改札の向こうから浴衣姿の女子生徒が歩いてきた。


 美月は淡い水色の浴衣を着ていた。


 白い朝顔の模様が入り、髪は普段より高い位置でまとめられている。


 隣を歩く彩花は、濃い赤色の浴衣だった。


 肩には黒い小型カメラが下がっている。


 透は美月を見たまま、言葉を忘れた。


「お待たせ」


 美月が目の前で止まる。


「どうしたの?」


「いや、その」


「似合ってない?」


「逆。似合ってる」


 ようやく言うと、美月の頬が少し赤くなる。


「ありがとう」


「はい、今の顔」


 小さな撮影音がした。


 彩花がカメラを構えている。


「撮ったの?」


 美月が慌てて振り返る。


「自然な表情は、撮り直せないから」


「消して」


「良い写真なのに」


「あとで確認させて」


「久世にも送るね」


「聞いてる?」


 美月が彩花の腕をつかむ。


 高瀬は透の肩へ肘を置いた。


「俺たち、必要だった?」


「安全のために4人で来たんだろ」


「それはわかるけど、すでに2人の世界ができてる」


「できてない」


 否定が早すぎた。


 彩花がカメラを下ろし、透と美月を交互に見る。


「ねえ」


「何?」


「2人、付き合った?」


 美月が固まった。


 透も答えられない。


 高瀬だけが数秒遅れて反応した。


「えっ、本当に?」


「声が大きい」


 美月が高瀬を制する。


 彩花は確信した顔で頷いた。


「やっぱり」


「どうしてわかったの」


「美月の顔」


「そんなに違う?」


「久世を見るときだけ、少し安心してる」


 美月は言葉に詰まり、透を見る。


 透にも、その違いはわからなかった。


「いつから?」


 高瀬が興奮を抑えきれない様子で尋ねる。


「昨日から」


「昨日?」


「まだ1日しか経ってない」


 透が答える。


「水族館の時点で付き合ってたんじゃないのか」


「違うよ。あれは最初のデート」


「付き合う前にデート?」


「高瀬くんには順番を説明してもわからないと思う」


「何で俺だけ馬鹿にされるんだ」


 彩花が笑う。


「学校では秘密?」


「わざわざ言うつもりはない」


 美月が答える。


「わかった。誰にも言わない」


「高瀬くんも」


「俺も?」


「一番心配」


「信用がない」


「日頃の行い」


 高瀬は不満そうだったが、最後には約束した。


 4人は駅前から神社へ向かった。


 祭りの通りには、色とりどりの提灯が並んでいる。


 焼きそばのソース、綿あめの甘さ、炭火で焼かれる肉の匂いが混ざっていた。


 浴衣姿の人々が行き交い、遠くから太鼓の音が聞こえる。


 透は人混みの中で、灰色の服を探しそうになる。


 すぐに視線を戻した。


 今日は警戒するために来たのではない。


 警戒しながら、4人で祭りを楽しむために来た。


「まず何食べる?」


 高瀬が屋台を見回す。


「着いたばかりなのに、もう食べるの?」


 彩花が呆れる。


「祭りは食べるためにある」


「神社の人に怒られるよ」


「参拝もする。食べたあとで」


「順番が逆」


 美月が言った。


「今日は順番に厳しい人が多いな」


 最初に参拝を済ませることになった。


 石段を上がる途中、彩花は何度も立ち止まって写真を撮った。


 提灯の列。


 石段を駆け上がる子ども。


 屋台の明かりに照らされた横顔。


「人を撮るの、好きなんだね」


 透が言う。


「景色だけなら、上手な人が撮った写真がいくらでもあるから」


 彩花はカメラの画面を確認する。


「その日に誰といたかが残るほうが、あとで見たとき面白いでしょ」


「俺、写真に写るの苦手なんだけど」


「知ってる。集合写真で毎回、同じ顔してる」


「見てたの?」


「写真部なので」


 彩花は美月の隣へ並ぶ透へレンズを向けた。


「そのうち、自然に笑ってるところを撮ります」


「難しいと思う」


「今日、もう1枚撮れたけど」


 駅前で撮られた写真を思い出し、透は何も言えなくなった。


 参拝のあと、高瀬は真っ先に焼きそばを買った。


 彩花はりんご飴、美月は小さなカップのかき氷を選ぶ。


 透は迷った末、焼きとうもろこしを買った。


「夏祭りで、その選択は渋くない?」


 美月が尋ねる。


「好きなんだよ」


「一口ほしい」


「いいよ」


 差し出しかけて、高瀬と彩花がこちらを見ていることに気づいた。


「何」


「別に」


 高瀬が笑いを堪えている。


「付き合って1日目って感じだなと思って」


「やっぱり高瀬くんは連れてこないほうがよかったかも」


 美月が真顔で言う。


「安全のために必要なんだろ」


「それを言われると追い返せない」


 美月は透からとうもろこしを受け取り、端の部分を一口かじった。


「甘い」


「でしょう」


 透は同じ場所を避けて食べる。


「そこ、避けるんだ」


 彩花が小声で言う。


「聞こえてる」


「聞こえるように言ったから」


 高瀬と同じことを言われ、透は返す言葉を失った。


 境内の奥では、子ども向けの輪投げが行われていた。


 高瀬が挑戦し、5本全てを外した。


「今のは台が傾いてた」


「能力もないのに、言い訳だけ能力者級だね」


 彩花が言う。


「藤崎、さっきから俺に厳しくない?」


「初対面に近いから、距離を縮めようと思って」


「縮め方が間違ってる」


 美月が3本中2本を入れ、小さな猫の飾りをもらった。


「コハクに似てる」


「色は全然違うけど」


「猫なら似てるの」


 美月は飾りを巾着へしまった。


 次に彩花が輪を受け取る。


「写真部の手先の正確さを見せます」


 結果は1本だった。


「カメラと輪投げは関係なかったね」


「美月、今の写真は削除します」


「いつ撮ったの?」


 4人の笑い声が、祭りの音へ混ざる。


 透は、普通の高校生として過ごすという課題を思い出した。


 神代から命じられた日曜日は、能力を使わないことばかり考えていた。


 今日は、考えなくても使わずに笑っている。


 少しだけ、普通が自分のものになった気がした。


 境内の休憩所で一息ついたとき、彩花が透の隣へ座った。


 美月と高瀬は、少し離れた屋台へ飲み物を買いに行っている。


「久世に、謝りたかったことがあるんだ」


「俺に?」


 彩花は膝の上のカメラを見た。


「美月がトラックに轢かれそうになった日、私も一緒にいた」


 透は彩花の顔を見る。


 交差点の歩道にいた、美月の友人たち。


 混乱する美月へ、事故の恐怖で記憶がおかしくなったのではないかと言っていた。


 その中に、彩花もいたらしい。


「美月は、久世が助けてくれたって言ってた。でも、私たちは信じなかった」


「あの状況なら、仕方ないよ」


「久世は能力がないから、そんなことできるはずがないって決めつけた」


 透の胸がわずかに強張る。


 彩花は真実を知らない。


 それでも、自分が能力を持たないという理由で話を否定したことを覚えていた。


「あとで映像を見ても、何が起きたのかわからなかった。だから余計に、事故で混乱したんだって思おうとした」


「映像?」


「近くの店の防犯映像。警察の人が、美月のお母さんに見せたって」


 外部勢力が見つけた交通監視映像とは別のものかもしれない。


 そこにも、位置の連続性が失われた瞬間が残っていた可能性がある。


「何か変だった?」


「美月と久世の場所が、一瞬で変わってた。映像が飛んだんだろうって説明された」


 彩花は透を見る。


「でも、わからないことと、美月の話を聞かないことは別だった。遅くなったけど、ごめん」


「俺も、説明できなかったから」


「それでも」


 彩花は首を振る。


「美月は、わからないことがあっても久世を信じてる。だから、私も決めつけないようにする」


 透はすぐに返事ができなかった。


 能力の秘密を話すことはできない。


 けれど、秘密を知らなくても信じようとしてくれる人がいる。


「ありがとう」


 ようやく答える。


「それと、美月を泣かせたら許さないから」


「急に話が変わった」


「親友として大事な確認です」


「気をつけます」


「気をつけるだけ?」


「泣かせません」


「言ったね」


 彩花が笑う。


 飲み物を持った美月が戻ってきた。


「2人で何を話してたの?」


「秘密」


「私の親友と彼氏が、私に秘密を作ってる」


「大したことじゃないよ」


「それを決めるのは私です」


 美月が頬を膨らませる。


 透と彩花は顔を見合わせ、同時に笑った。


 空が暗くなると、提灯の明かりがはっきりと浮かび始めた。


 境内の放送が、午後8時から花火を上げると告げる。


 彩花は石段の途中で3人を呼び止めた。


「花火の前に、集合写真を撮ろう」


「誰が撮るんだ?」


 高瀬が尋ねる。


「三脚を持ってきた」


「祭りに?」


「写真部なので」


 彩花は鞄から折り畳み式の小さな三脚を取り出した。


 石灯籠の脇へ立て、カメラを固定する。


「背景に提灯を入れたいから、そこに並んで」


 言われたとおり、4人で石段へ並ぶ。


 美月と彩花が中央に立ち、透と高瀬が両端へ入った。


「10秒後に撮るよ」


 彩花が設定し、急いで列へ戻る。


「久世、笑え」


 高瀬が言う。


「笑ってる」


「いつもの集合写真の顔だぞ」


 美月が隣から透を見る。


「水族館のときみたいに」


「急に言われても」


 美月が、袖の陰で透の小指をつかんだ。


 誰にも見えない小さな接触だった。


 透が驚いて美月を見る。


 撮影音が鳴った。


「今のは自然だった」


 彩花がすぐにカメラへ駆け寄る。


「美月のおかげ」


「何をした?」


 高瀬が尋ねる。


「秘密」


 美月が答える。


 彩花は同じ場所から、構図を変えて数枚撮った。


 人通りが増えたため、背景には祭りの客が何人も写り込んでいる。


 その中の1人へ、誰も注意を向けなかった。


 石段の下。


 屋台の明かりが届かない場所に、灰色のスーツの男が立っていた。


 手には、銀色の懐中時計がある。


 男は透から50メートルほど離れ、黒い針が動かないことを確認していた。


 透は能力を使っていない。


 監視遺物第3号も、何の反応も示さない。


 男は4人の行動を記録するだけで、近づかなかった。


 午後8時、夜空へ最初の花火が上がった。


 白い光が開き、遅れて大きな音が届く。


 人々が一斉に空を見上げる。


 透も美月も、高瀬も彩花も、その瞬間だけは周囲を警戒することを忘れていた。


 彩花のカメラが、花火に照らされた3人の横顔を写す。


 透は夜空を見ながら、時間を止めたいとは思わなかった。


 きれいなものを長く見たい気持ちはある。


 それでも、消えるから次の花火を待てる。


 美月と過ごす時間も、止めて閉じ込めたいわけではない。


 一緒に次へ進みたい。


 最後の花火が消えるまで、4人は同じ場所にいた。


 帰り道は、駅まで人の流れが途切れなかった。


 高瀬と彩花が前を歩き、透と美月が少し後ろを歩く。


「楽しかった」


 美月が言う。


「うん」


「途中から、灰色の服を探してなかったでしょ」


「忘れてた」


「私も」


「怒られるかな」


「1人になってないし、不審な人に近づいてもない。大丈夫だよ」


 美月は1度、前を歩く2人を見る。


「彩花と高瀬くんに話せて、よかった?」


「付き合ってること?」


「うん」


「高瀬がうるさいのは困るけど、隠すより楽かもしれない」


「彩花は絶対に言わないから、大丈夫」


 透は、休憩所で交わした会話を思い出す。


「藤崎さん、いい人だね」


「私の親友だから」


 美月が誇らしそうに答えた。


 駅で4人は別れ、それぞれ家族へ到着予定を連絡した。


 彩花が写真を確認したのは、帰宅してからだった。


 撮影した枚数は、200枚を超えている。


 失敗した写真を消し、似た構図から一番良いものを選ぶ。


 駅前で美月と透を撮った写真。


 参道を歩く4人。


 屋台の前で笑う高瀬。


 石段で撮った集合写真。


 彩花は、同じ人物が何度も背景にいることへ気づいた。


 灰色のスーツを着た男。


 駅前の写真では、柱の横に立っている。


 参道の写真では、屋台の隙間からこちらを見ている。


 集合写真では、石段の下にいた。


 どの写真でも顔は暗く、はっきり写っていない。


 けれど、服装と体格は同じだった。


「何、この人」


 彩花は集合写真を拡大する。


 男の右手に、丸い銀色の物がある。


 反射で細部は見えにくい。


 画像処理で明るさを調整する。


 銀色の蓋へ刻まれた、3重の同心円が浮かび上がった。


 彩花は迷わず、美月へ写真を送った。


『この人、知ってる?』


 数秒後、既読がつく。


『知らない。どうしたの?』


『今日の写真に何回も写ってる』


 続けて3枚を送る。


 返事が止まった。


『彩花、この写真、誰かに送った?』


『美月だけ。まだ投稿もしてないよ』


『消さないで、そのまま残して。公開もしないでほしい』


『何か知ってるの?』


 美月はすぐには答えなかった。


『学校で、不審な人に気をつけるよう言われたでしょ。その人かもしれない』


『わかった。元のデータも全部残す』


『ありがとう』


『久世にも送る?』


『私から連絡する』


 美月から電話を受けた透は、写真を見た瞬間に息を止めた。


 顔はわからない。


 けれど、灰色のスーツと、銀色の懐中時計。


 白峰朔の記録帳に刻まれていた3重の同心円。


 偶然とは思えなかった。


「榊原先生へ連絡しよう」


『うん。彩花には能力のことは何も話してない』


「それでいい。写真は、そのまま残してもらおう」


『彩花まで巻き込んじゃった』


「写真を撮っただけだよ」


『でも、相手が気づいたら』


 透は言葉を探す。


「今度は、隠さず先生たちへ知らせる。藤崎さんを守る方法も、一緒に考えてもらおう」


 以前なら、自分たちだけでどうにかしようとしたかもしれない。


 今は、何をするべきか迷わなかった。


 翌朝、彩花が撮影した元画像は、榊原を通じて神代へ渡された。


 彩花には、学校へ侵入した不審者と同一人物の可能性があるため、写真を公開しないでほしいと説明した。


 彼女は理由を深く追及せず、必要なら全ての撮影データを提出すると答えた。


 学長室の大きな画面に、集合写真が表示される。


 神代は、男の手元を限界まで拡大した。


 3重の同心円。


 画像は粗い。


 それでも、白峰朔の管理計画で使われた識別章と配置が一致していた。


「監視具ですか」


 透が尋ねる。


「断定はできない。しかし、同じ識別章が個人の所持品へ偶然刻まれている可能性は低い」


「所在不明の3点のうちの1つ?」


 美月が言う。


「その可能性が高い」


 神代は、学校へ来た男の監視映像と、彩花の写真を並べる。


 顔はどちらも判別できない。


 身長、肩幅、歩くときに右肩が少し下がる癖。


 複数の特徴が一致する。


「学校を訪れた男と同一人物と考えていいだろう」


「やっぱり、昨日も見られてたんですね」


「ああ」


 美月が両手を握る。


「彩花は大丈夫ですか」


「現時点では、彼女が男を意図して撮ったと相手が認識しているかはわからない。だが、保護対象として考える」


「秘密を話すんですか」


「まだその必要はない。情報を増やせば、それだけ彼女が背負う危険も増える」


 神代は写真データを保護領域へ移す。


「榊原先生から、本人と家族へ不審者対策を説明する。夏休み中の部活動も、可能な限り複数で行動させる」


 透は画面の中の彩花を見る。


 美月の隣で笑い、高瀬の冗談に呆れ、自分へ信じると言ってくれた。


 秘密を知らない人まで、秘密の周りへ巻き込まれ始めている。


「俺が、祭りへ行ったから」


「違うよ」


 美月がすぐに言った。


「4人で行くって決めた。写真を撮るって決めたのは彩花。悪いことをしたのは、勝手に見ていた相手だけ」


 神代も頷く。


「責任の場所を間違えてはいけない」


 透は息を吐いた。


 自分を責めるだけでは、彩花を守れない。


 必要なのは、残った写真を証拠に変えることだった。


「この写真で、相手を捕まえられますか」


「尾行だけでは難しい。だが、私たちにとっては大きな意味がある」


 神代は銀色の懐中時計を指す。


「相手が白峰朔の管理計画に関係する遺物を持っている。これは、これまで推測でしかなかった外部勢力と過去の資料を結ぶ最初の物証だ」


「国家の人間なんですか」


「現役の国家機関なら、偽の身分証を使って学校へ来る必要はない」


「昔の国家計画に関わった人たちの、子孫とか?」


「可能性はある。計画の関係者が組織を残したのか、所在不明の遺物を別の集団が手に入れたのか。今はどちらとも言えない」


 神代は写真を閉じず、画面へ残した。


「ただし、1つだけ確かなことがある」


 3重の円が、粗い画像の中に浮かんでいる。


「彼らは最近になって偶然、君を見つけたのではない」


 神代の声が低くなる。


「白峰朔が消えたあとも、次の『時の番人』を探す準備を残していた」


 透は、止まった針を持つ銀色の時計を見つめた。


 自分が生まれるより、はるか昔から待っていた誰かがいる。


 夏祭りの写真の隅で、その時間が初めて形を持った。


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