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時と魔法と  作者: 牡丹
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12/16

第12章 最初の記録帳

 夏休みに入って最初の月曜日、校舎は不思議なほど静かだった。


 運動部の掛け声は聞こえる。


 けれど、授業のない教室棟には、生徒たちの話し声も椅子を引く音もない。


 透は人の少ない昇降口を避け、職員玄関から校舎へ入った。


 事前に神代から指定された経路だった。


 今日の訓練予定を知っているのは、透、美月、榊原、神代の4人だけだ。


 開始時刻も、昨夜届いた連絡で初めて知らされた。


 管理棟へ向かう途中、背後を2度振り返った。


 誰もいない。


 灰色のスーツも、見覚えのない来校者もいなかった。


 それでも、見られていないという確信は持てない。


 透の知らない場所から、自分の行動を数えている誰かがいるかもしれない。


 その想像は、夏の日差しよりも重く背中へ張りついていた。


 地下第二演習室へ入ると、神代宗一郎が長机の上で書類を整理していた。


 机の中央には、透の操作記録帳が開かれている。


「おはようございます」


「おはよう。尾行は」


「わかりません。気づいた範囲では、いませんでした」


「それでいい。見つけようとして普段と違う行動を取るほうが危険だ」


 神代は操作記録帳へ視線を落とす。


 土曜日の欄には、動物病院での能力使用が記されていた。


 日時。


 対象は、医療用品を積んだ台車と積載物。


 方向は、停止。


 終点は、幼児と母親が進行方向から離れるまで。


 推定停止時間、3秒未満。


 使用理由は、人命保護。


 結果は、怪我人なし。


「停止時間は、外部の時計で測ったわけではないね」


「はい。感覚だけです」


「停止した対象の内部では時間が進まない。君自身が範囲の外にいる場合、体感で測るしかない」


 神代が鉛筆で、推定という文字へ丸をつける。


「記録としては、これで問題ない」


「能力を使った判断は?」


「使用しなければ、幼児が重傷を負う可能性が高かった。対象を台車と積載物へ限定し、周囲の人間や医療機器へ干渉していない。使用後の報告も即時だ」


 神代は顔を上げた。


「適切だった」


 透の肩から、少し力が抜ける。


「ただし、能力の制御と秘密の保全は別問題だ」


「誰かに見られた可能性があります」


「ああ。病院や周辺店舗の監視映像もある。外部の人物が君を観測している現状では、能力を使った事実が拾われる可能性を考えなければならない」


「でも、あのときは」


「責めているのではない」


 神代が静かに遮る。


「助けるために使うことと、見られる危険を理解することは両立する。どちらかを考えない理由にはならない」


 透は頷いた。


 正しい行動をすれば、必ず安全な結果が得られるわけではない。


 それでも、危険があるから正しいと思う行動を諦めるのも違う。


 選ぶたびに、両方の責任を引き受けるしかない。


「相沢君は、あと5分ほどで来る」


 神代が言った。


「美月さんも訓練するんですか」


「今日は訓練の前に、2人へ見せるものがある」


「2人に?」


「外へ持ち出せない資料だ。彼女だけに別の説明をするより、同じ場所で同じ情報を共有したほうがいい」


 透は演習室の扉を見る。


 これまで、美月が地下第二演習室へ入ったことはない。


 能力の秘密は知っていても、訓練の詳細までは必要な範囲だけを話してきた。


 守るために情報を減らす。


 その考え方が、少しずつ変わり始めている。


 時刻どおりに扉が開いた。


 家族に校門まで送られた美月が、榊原に案内されて入ってくる。


「失礼します」


 美月が室内へ入り、すぐに周囲を見回した。


 遮断処理の施された灰色の壁。


 棚へ並ぶ古い訓練器具。


 床に固定された演習台。


「ここで訓練してたんだ」


「思ってたのと違う?」


「もっと秘密基地みたいな場所かと思ってた」


「十分、秘密基地じゃない?」


「ちょっと倉庫っぽい」


 神代が小さく咳払いをする。


「設備が古いことは否定しない」


「すみません」


 美月が慌てて頭を下げる。


 神代の口元には、わずかな笑みがあった。


「終わる頃に迎えに来ます。それまで、お願いします」


 榊原は神代へ告げ、演習室を出た。


「座りなさい」


 3人は長机を囲んだ。


 神代が壁面の操作盤へ鍵を差し込む。


 低い作動音とともに、室内を覆う遮断具の表示が赤から青へ変わった。


「ここからの会話は、私の許可なく記録も持ち出しもできない」


 神代は机の下から、平たい金属箱を取り出した。


 鍵は3つあった。


 1つずつ違う形をしている。


 神代は順番に鍵を回し、最後に自分の指を認証板へ置いた。


 金属箱の蓋が開く。


 中にあったのは、黒い革表紙の冊子だった。


 紙の端は茶色く変色し、表紙には細かなひびが入っている。


 しかし、それが本物ではないことは透にもわかった。


 古い紙を精密に写した複製だった。


 表紙の中央には、3重の同心円が刻まれている。


「それは?」


 美月が尋ねる。


「最初の『時の番人』が残した操作記録帳の複製だ」


 透は息を止めた。


「過去の保持者の?」


「現存が確認されている記録の一部だけだ。原本は国家の最深部に保管され、閲覧記録そのものが機密指定されている」


「どうして学長先生が持っているんですか」


「国家魔法局にいた頃、高位能力者の管理史を調べる任務に就いた。その際、正式な閲覧許可を得て作成した研究用複製だ」


 神代は革表紙を開いた。


 最初のページには、細い筆跡で名前が記されている。


白峰朔(しらみねさく)


「しらみね、さく」


 透が読む。


「約318年前に確認された、最初で唯一の『時の番人』だ。能力が判明したのは16歳のとき。町を襲った土砂崩れを止め、多数の住民を救った」


「透くんと似てる」


 美月が言った。


 危険を見て、誰かを助けようとした瞬間に力を使った。


 力の始まりだけなら、確かに似ている。


「能力を知られた白峰朔は、当時の国家機関に保護された」


 神代は、保護という言葉を重く発音した。


「最初の半年は、自宅へ帰ることも許されていた。次の半年は、外出に許可が必要になった。その後は研究施設の中だけで暮らすことになった」


「少しずつ自由を取られたんですね」


「一度に全てを奪えば、本人も周囲も抵抗する。安全のため、訓練のため、国民を守るため。理由を1つずつ積み重ねた」


 美月の表情が曇る。


「それで、消息を絶った?」


「能力判明から9年後だ。施錠された居室から、護衛にも監視装置にも気づかれず姿を消した。遺体も、その後の能力使用記録も見つかっていない」


「時間を止めて逃げたんじゃないですか」


「当時の調査もそう判断した。だが、外へ出たあとの足取りが1つもない」


 神代は数ページをめくった。


 記録帳には、日付、対象、方向、終点が並んでいる。


 透の操作記録帳と同じ形式だった。


「俺の記録帳は、これを参考にしたんですか」


「そうだ」


 神代は1つの記録を指す。


『対象。北塔の振り子時計。方向。停止。終点。10秒後。結果。成功』


 別のページには、失敗が書かれている。


『対象の指定が広すぎた。部屋全体を47秒停止。解除後、強い頭痛と出血』


 透は自分の最初の訓練を思い出す。


 中央のメトロノームだけを止めようとして、何度も周囲へ範囲を広げた。


 数百年前にも、同じ力を持つ人間が同じ失敗をしていた。


「神代先生が教えた、対象、方向、終点の3つも」


「彼が自分の能力を整理するために作った考え方だ。私は、その記録を君へ借りた」


「どうして、今まで教えなかったんですか」


 神代はすぐに答えなかった。


「君が白峰朔と自分を重ねすぎることを恐れた」


「同じ能力だから?」


「同じ力を持っていても、同じ人生を生きる必要はない。彼の記録は助けになる一方で、君の選択を縛る可能性がある」


 神代は古いページへ手を置く。


「過去の保持者が失敗したから、自分も失敗する。過去の保持者が選んだから、自分も選ばなければならない。そう思わせたくなかった」


「今は、違うんですか」


「外部の誰かが、時間の異常を知っている可能性が出た。君を探している相手が、この記録や白峰朔に関わる資料を持っているかもしれない」


 神代が美月を見る。


「知らないまま危険へ近づくより、知ったうえで選ぶ段階に来たと判断した」


 美月は表紙の3重円を見る。


「この印には、意味があるんですか」


「当時、白峰朔の管理と研究を行った国家計画の識別章だ。3つの円は、対象、方向、終点を表すとされている」


「この記録帳を作った人たちの印?」


「正確には、彼の考えを国家側が標章として流用した。関連する実験器具や監視具にも、同じ印が刻まれていた」


 透は革表紙へ触れなかった。


 複製だとわかっていても、そこに白峰朔の時間が残っているように感じる。


「監視具は、今も残っているんですか」


「大半は失われた。残っているものも、国家の封印庫にあるはずだ」


「はず?」


「私が在籍していた時点の記録では、3点が所在不明だった」


 演習室の空気が冷えた気がした。


 学校へ来た灰色のスーツの男。


 時間の不一致を知る掲示板の相手。


 所在不明の監視具。


 まだ、線で結ぶ証拠はない。


 けれど、無関係だと切り捨てることもできなかった。


「この記録には、能力を隠す方法も書いてあるんですか」


 美月が尋ねる。


「隠す方法より、使った結果と失敗が多い」


 神代が終わりに近いページを開く。


 前半の整った筆跡に比べ、文字が細く、行の間隔も狭くなっている。


『時間退行は、存在した状態へしか戻せない』


『だが、対象は物体だけとは限らない』


『境界を見つけられるなら、形のないものにも始点がある』


 透は最後の文を読み返した。


「形のないもの」


「白峰朔が何を指していたのかは、記録にない」


 次のページは、途中から破れていた。


 残った上半分に、1行だけ文字がある。


『能力にも、始まる前がある』


 その先はない。


「能力そのものを、時間退行させようとした?」


 美月が呟く。


「可能かどうかはわからない」


 神代は慎重に答えた。


「実行記録はなく、理論も完成していない。追い詰められた彼が、自由を奪った能力そのものを憎んで書いた可能性もある」


「もし、できたら」


 透は自分の手を見る。


「能力が生まれる前へ、戻せるんでしょうか」


「その問いに、今の私から答えを与えることはできない」


 神代は透をまっすぐ見る。


「そして、白峰朔が答えを求めたからといって、君が同じ答えを出す義務もない」


 透の力がなければ、美月は交差点で命を落としていたかもしれない。


 コハクも、台車の前にいた子どもも救えなかった。


 一方で、能力の有無が教室を分け、鷹宮のような選民意識を生み、白峰朔の自由を奪った。


 能力がない世界は、本当に平和なのか。


 能力によって救われた命は、どうなるのか。


 答えを出すには、透はまだ何も知らなすぎた。


「今は、覚えておくだけにします」


「それでいい」


 神代が頷く。


「これは未来を決める命令書ではない。過去の1人が残した記録だ」


「でも、残ってくれたから、透くんの訓練に使えたんですよね」


 美月が言った。


「ああ」


「だったら、記録することにも意味はあるんだと思います。答えが間違ってても、失敗してても」


 透は自分の操作記録帳を見る。


 万年筆へ使った私的な報復。


 コハクを救った無断使用。


 使わずに耐えた旧理科準備室。


 台車を止めて子どもを救った記録。


 きれいな成功だけではない。


 それでも、次に選ぶときの自分を助けている。


「俺も、全部残します」


「そうしなさい」


 神代は白峰朔の記録帳を閉じ、再び金属箱へ収めた。


 3つの鍵が逆の順番でかけられる。


 過去は箱の中へ戻った。


 だが、知ったことまで閉じることはできない。


「相沢君。ここからは訓練に移る。見学していくか」


「いいんですか」


「今日だけだ。君の帰宅経路を変える時間調整にもなる」


「見たいです」


 美月が即答する。


 透は少し緊張した。


「何?」


「いつもより失敗しそう」


「私がいると?」


「見られてるから」


「昨日は人がいる前で成功したのに」


「あれは考える余裕がなかった」


「じゃあ、考えないでやればいいんじゃない?」


「簡単に言うな」


 神代は2人のやり取りを聞きながら、棚から2つの砂時計を取り出した。


 同じ大きさの透明なガラス容器。


 片方には白い砂、もう片方には黒い砂が入っている。


「今日の課題は、砂だけを止めることだ」


 神代が2つの砂時計を同時に返す。


 白と黒の砂が、細い線となって落ち始めた。


「砂時計ごとではなく?」


「ガラス容器と周囲の時間は進めたまま、白い砂だけを停止させる」


「粒は、いくつあるんですか」


「数えてはいない」


「対象が多すぎませんか」


「1粒ずつ選ぶ必要はない。白い砂という共通の境界で、1つの対象として捉えなさい」


 物体の形ではなく、共通する条件で対象を切り分ける。


 台車と積載物を1つの危険として止めたときと似ている。


 ただし、砂は互いにつながっていない。


「白い砂。方向は停止。終点は5秒後」


 透は声に出して指定する。


 時間へ命令を送った。


 白い砂時計の流れが止まる。


 同時に、ガラスの表面を滑っていた光も動かなくなった。


 隣の黒い砂は落ち続けている。


「容器まで止まってる」


 美月が言った。


「わかる?」


「窓の光が、白いほうだけ動いてない」


 透は停止を解く。


 白い砂が再び落ち始めた。


「観察者がいる利点だ」


 神代が言う。


「能力者本人は、指定した対象へ意識を集中する。周囲へどこまで干渉したかを見落としやすい」


「美月さんは、俺より気づくのが早かったですね」


「初めて止まった世界を一緒に見た人なので」


 美月が少し得意そうに言う。


 2回目。


 透は、白い砂とガラスの境目を意識した。


 ガラスは容器。


 砂は、内部を流れる粒の集まり。


 触れ合っていても、同じ時間である必要はない。


 止まれ。


 白い砂の流れが止まる。


 しかし、上部に残った砂だけは細い穴へ落ち続けた。


 途中で止まった粒へぶつかり、小さな山を作る。


「下半分しか止まってない」


 美月の指摘が飛ぶ。


「見えてます」


「なら直して」


「神代先生より厳しくない?」


「見学者なので」


 透は上部の砂を停止対象へ加えた。


 白い砂の全てが静止する。


 指定した5秒後、砂だけが再び流れ始めた。


「途中修正はできた」


 神代が記録する。


「次は最初から全体を選びなさい」


 3回目。


 透は粒の数を考えない。


 白い砂という1つのまとまりを思い浮かべる。


 同時に、透明なガラスとの境目を線として引く。


 対象は白い砂。


 方向は停止。


 終点は5秒後。


 命令を届ける。


 白い砂が空中で止まった。


 ガラス表面の光は、透がわずかに動くたび位置を変える。


 黒い砂も落ち続けている。


 壁の時計の秒針が進む。


 美月が5秒を数えた。


「1、2、3、4、5」


 数え終わると同時に、白い砂が再び流れ始める。


「成功」


 美月が笑う。


 透は息を吐いた。


 こめかみに軽い痛みがある。


 けれど、鼻血も視界の揺れもない。


「離れた複数の物体でも、共通する境界を指定すれば1つの対象として扱える」


 神代が言った。


「ただし、対象の定義が曖昧なら、似たものまで巻き込む危険がある」


 神代は隣の黒い砂時計を指す。


「今の指定を白い砂ではなく、砂とだけ考えていたら、こちらも止まった可能性がある」


「言葉の違いだけで?」


「言葉は意識を整える道具だ。実際に時間へ届くのは、君がどこまでを同じ対象だと認識したかだ」


 透は白い砂を見る。


 形のないものにも、境界がある。


 白峰朔の記録にあった言葉が、頭へ浮かぶ。


 今止めたのは、形のある砂粒の集まりだ。


 能力そのものとは違う。


 それでも、対象という考え方が、物体1つの外へ少し広がった。


「今日はここまでだ」


 神代が砂時計を止める。


「操作記録帳へ、3回分を記録しなさい」


「はい」


 透は机へ戻った。


 美月が隣の椅子へ座る。


「毎回、こんなに書くの?」


「使った回数分」


「大変そう」


「書かないで失敗を忘れるほうが怖いから」


 透は最初の失敗から順番に記した。


 ガラス容器まで停止。


 白い砂の下部だけ停止。


 白い砂全体の停止に成功。


 3つ目の記録を書き終える。


「白峰朔も、こうやって書いてたのかな」


 美月が言った。


「最初は、たぶん」


「最後は?」


 透は、文字が細くなっていた後半のページを思い出す。


「誰かに読ませるためじゃなく、自分を見失わないために書いてた気がする」


「透くんは?」


「両方」


 透は記録帳を閉じる。


「自分のためと、俺が間違えたときに止めてもらうため」


「じゃあ、私も読む役?」


「見せていいか、神代先生に聞かないと」


「そこは勝手に決めないんだ」


「決めないよ」


 美月が嬉しそうに笑った。


 演習室を出る前、神代は2人へ別々の帰宅経路を示した。


 別々といっても、1人にするわけではない。


 透と美月は榊原とともに職員玄関から出て、人通りの多い通りまで送られる。


 そこから駅へ向かう道だけを、前回とは変える手順だった。


「付き合い始めて最初に一緒に来た場所が、地下の演習室になるとは思わなかった」


 校門を離れてから、美月が言った。


「昨日の公園じゃないの?」


「あれは付き合い始めた場所。付き合ってから一緒に来たのは、ここが最初」


「細かいな」


「順番は大事です」


 美月は真面目な顔で言い、すぐに笑った。


 榊原が少し前を歩いている。


 2人は学校の外でも、手をつながなかった。


 誰かが見ているかもしれないからではない。


 担任の前では、さすがに恥ずかしかったからだ。


 灰色のスーツの男は、離れたビルの室内で古い懐中時計を机へ置いていた。


 銀色の蓋に刻まれた3重の同心円。


 黒い針は、動物病院で反応した位置から動いていない。


 端末には、白峰朔に関する古い記録が表示されていた。


 能力判明、16歳。


 国家管理開始。


 9年後、所在不明。


 男は記録の末尾を開く。


『監視遺物第3号。対象の時間干渉を検出するため配備』


 製造責任者も、詳しい構造も黒く消されている。


 残っているのは、運用記録だけだった。


 懐中時計の黒針が最後に動いた日付は、白峰朔が姿を消した日と一致している。


 それから318年間、針は1度も動かなかった。


 男が上位者へ報告を送る。


『監視遺物第3号の反応履歴を照合。前回反応は白峰朔消失日。今回の反応と同一形式』


 返答が表示されるまで、いつもより時間がかかった。


『候補者の能力を時間停止系統と仮定する』


 次の指示が続く。


『対象、方向、終点の指定能力を確認せよ』


 男は画面と、動かない懐中時計を見比べた。


 その3つの言葉は、一般に公開された能力理論には存在しない。


 白峰朔の操作記録にだけ残された、時間へ命令を届けるための鍵だった。


 透はまだ知らない。


 自分を守るために学んだ言葉を、追う側もまた知っていることを。


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