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「配信など破廉恥な!」と言っていた古風な最強呪術師様、現代っ子の俺にバズ術を教え込まれて登録者100万人を突破してしまう  作者: すかいはい
第1部:【新星爆誕編】

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第9話:【特殊案件(スペシャリティ)】

 増上寺地下迷宮。将軍家の墓所を思わせる古風な石造りの通路で、俺はスマホの画面をにらみつけた。


「――チッ。蓮のやつ、開始十分でもう同接二万か。……さすがに強いな」


 画面端に表示された『一条蓮』の配信カウンターは、俺たちの同時接続者数8000人を嘲笑あざわらうかのように、とてつもない速度で上昇し続けている。


「颯太郎。何を弱気になっておる。私が本気を出せば、この程度の地下迷宮、一瞬で最深部まで――」

「ダメです。眞白さんの呪力は強すぎる。この迷宮は古くてもろい。一歩間違えれば、蓮もろとも生き埋めです。……それじゃあ、どの道俺たちの負けだ」


 蓮と同じやり方をしていてはどうあっても勝ち目はない。俺たちは、蓮とは別のルートを選んだ。


 一条家の『解析理論』は、最短ルートを導く。対して俺は、式神型ドローン『まなこ一号』のセンサーをフル稼働させ、蓮が通らない呪力のほころびを探していた。


 一条家では決して教えない探索術だ。異端といえば異端だろう。


 その時。


 迷宮の奥から、不気味な羽音が響いた。


 ブォォォォォン……。ズズッ……。


「羽虫の音か? いや、これは……」


 眞白さんが眉をひそめる。


 俺のスマホのセンサーが、未知の呪力波形をとらえてアラートを鳴らした。


「――っ、何だ、あれは」


 通路の奥からい出てきたのは、これまでに見たどの怪異とも違っていた。


 それは、巨大な人型をしているが、肉体を持たない。


 浮遊する無数のスマートフォンやタブレット、ノートパソコンが寄り集まり、それが人の形を成している。


 各端末の画面には、SNSのアンチコメントや誹謗中傷、そして誰にも見られずに埋もれた『いいね』ゼロの投稿が、呪詛のように高速で流れ続けていた。


「ネット上の悪意がり固まった存在。令和版の怨霊ってところか。……現代の噂が具現化した、特殊案件スペシャリティだな」


 俺は唾を飲み込んだ。


 こいつは、実体を持たない。情報の奔流そのものが、呪力をまとって襲いかかってくる。


「ええい、鬱陶うっとうしい! 此のような玩具の化け物、我が雷にて塵となるがいい!」


 眞白さんが、俺の構築したUIユーザーインターフェースをタップする。


 0.1秒の遅延もなく、青白い雷光がウェブ怨霊へと直撃した。


 ――ドォォォォォン!!


「――やったか?」


 土煙が晴れる。


 だが、そこには、何事もなかったかのように浮遊する、ウェブ怨霊がいた。


「なっ……!? 私の雷を、受け流したと申すか!」

「ダメだ、眞白さん! こいつには伝統的な呪術は効かない! こいつの本質は『情報』だ。貴女の雷は、情報の霧にただ透過されただけです!」


 怨霊の画面が一斉に赤く染まり、そこから無数のアンチコメントが、物理的な弾丸となって俺たちに降り注いだ。


「――うわぁぁっ!!」

急急如律令きゅうきゅうにょりつりょうッ!」


 眞白さんが即座に金剛界結界を張り、俺をかばう。


 だが、結界はアンチコメントの弾幕を受け、悲鳴を上げるようにきしんでいた。


「くっ、此の……! 呪力が、吸い取られていく……!?」

「こいつ、貴女の呪力を燃料に変えてるんだ! 眞白さんが攻撃すればするほど、こいつは強くなる!」


 絶体絶命。


 一条家でも、こいつを倒すには数人のエリート呪術師による儀式が必要だろう。


 蓮の配信カウンターは三万人を突破。俺たちの配信は、アンチの弾幕に翻弄される俺たちの姿を映し、同接は逆に五千人へと下がっていた。


【D-Live リアルタイム・チャット】

アンチガチ勢: ほらやっぱり。底辺がトップランカーに勝てるわけないだろww

魔術マニア: このタイプの怨霊は概念攻撃しか効かない。颯太郎の技術じゃ無理だな。

一条家信者: 蓮きゅんは最短ルートでボスに到達! この勝負、蓮きゅんの勝ちだ!


 コメント欄も暗い言葉で染まっていく。


 眞白さんが、悔しげに唇を噛み締めた。


「……すまぬ、颯太郎。私の力が足りぬばかりに」

「……いえ、違います」


 俺は、震える手でスマホを握りしめた。


 一条家では、呪術は『与えられたもの』だった。血筋によって定められた、伝統的な力。


 だが、俺の呪術は違う。


「伝統が効かないなら、俺たちで、新しい術式ルールを作ればいいだけだ」

「颯太郎……? 何を申しておる」

「眞白さん。身体能力や思考能力を向上させる類の呪術は使えますか?」

「使えるに決まっておろう。だが、それをどうするというのだ?」

「最大出力で俺にかけてください。前に言っていた『とっておき』をこの場で完成させます」


 眞白さんは目を見開く。


「颯太郎。其の方の体はただの人間とさして変わらぬ。強すぎる呪術をかければその反動でどうなるか分からぬぞ」

「…… 約束しましたよね。俺が貴女を、世界で一番『輝く』英雄にするって。それまでは絶対に死んだりなんかしません。もちろんこんなところで惨めに負けるのも嫌だ。だから、お願いします……!」


 俺は、眞白さんの瞳を真っ直ぐに見つめた。


 彼女は観念したように小さく首を振る。


「……承知した。私はとんだたわけ者と契約してしまったようだ」


 眞白さんが印を結ぶ。


「……信じるぞ、颯太郎」


 俺の周囲に呪力が渦巻く。


 その瞬間、普段では考えられないほど思考が研ぎ澄まされていくのが分かった。同時に体の奥底からは活力がみなぎってくる。


 だが、その代償も半端ではない。


 肉体が内側から引き剥がされるような激痛。血液が血管の中で沸騰しているのではないかと思えるような熱。


 油断すればあっという間に気を失ってしまいそうだった。


 俺は、歯を食いしばり必死にその痛みに耐えた。


 震える指先でスマホの画面に自作のハッキングアプリを表示。最上階層で展開した。


 目の前で軋む眞白さんの結界、怨霊の情報の奔流。俺たちの配信に流れ続ける、アンチと、そしてじっと勝利を信じるファンのコメント。


 この場で、術式を、最適化アップデートする。


 プロトコル、オーディエンス・リンクを緊急実装。


 俺の指が、スマホの画面を高速で叩き、コードが展開されていく。


 間に合わせでも、これからの数分間だけ動けばそれでいい。


 体中が痛い。吐きそうだ。涙が出る。


 でも、そんなことには構っていられない。


 ドローン『眼一号』が捉える視聴者の熱量、その『注目』という概念を、俺のシステムが解析し、呪力へと変換し始める。


「眞白さん! こいつの弱点は『注目』です! みんながこいつを『恐れ』、そして俺たちを『叩く』。その注目こそが、こいつの力の源になっている!」

「だからといって、どうすればよい! 我らを攻撃する想いなど、私の呪力には――」

「俺が、その『注目』という概念をハックしました! 今、この瞬間、俺たちの配信を見てくれているアンチも、ファンも、一条蓮の視聴者も……みんなの『視線』を、貴女の呪力に変換します!」


 俺はスマホを眞白さんに向けた。


 スマホの画面から、光の粒子が立ち上がり、彼女の周囲に、これまでに見たことのない、七色に輝く呪力が渦巻き始めた。


「――っ!? なんという……温かく、そして巨大な呪力か……っ!」

「これが、現代の呪術。SNSの『バズ』を、呪力に変える術式です! 眞白さん、そいつの『情報の呪い』を、みんなからの『注目』で上書きしてください!」


 俺のスマホ画面に、新しい術式UIが展開される。


 それは、キーボードではなく――一つの大きな、虹色の『グッド』ボタンだった。


【D-Live リアルタイム・チャット】

考察ニキネキ: おい待て、今、颯太郎が何やった!? 呪力が視聴者から供給されてる!?

ファンX: 颯太郎、信じてたぞ! 眞白様、いけぇぇぇぇ!!

眞白様ガチ恋勢:眞白様、やっちゃってください! この配信が終わったら結婚しましょう! 颯太郎は眞白様から離れろ!

名無しさん: 何これ超熱いww アンチの注目も全部眞白の力になるの!?


「ガチ恋勢の人、なんか俺のアンチみたいになってなかった!? いや、いいんだけど、この流れで!!? 俺、血を吐きながらめっちゃ頑張って……ああ、もういいや! 眞白さん! 今です!」


 同接カウンターが、一気に二万人へと跳ね上がった。


 眞白さんが、虹色の呪力を纏い、俺の方を振り返って、不敵に、そしてこの上なく美しく微笑む。


「――承知したぞ、颯太郎。民の想い、この九曜眞白……しかと受け取った!」


 平安の最強呪術師が、現代の『バズ』を纏い、虹色の指先を情報の化け物へと向けた。

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