第8話:【急襲】
数日後。俺と眞白さんは、都内でも有数の高難易度エリア『芝公園・増上寺地下迷宮』の入り口に立っていた。
「すみません、眞白さん。前に言っていた『とっておき』は結局開発が間に合いませんでした。次の配信まで持ち越しということで……」
「構いはせぬ。もとより私の術が怪異に遅れを取るはずもないからな」
「それはそうですね。じゃあ、今日は前回のおさらいということにしましょうか」
配信開始の準備を整え、ドローンを飛ばそうとしたその時。
「――おや、見覚えのある顔だと思えば。一条家の『出来損ない』じゃないか」
背後から響いたのは、上から叩きつけるような傲慢な声だった。
振り返ると、そこには数機の高級大型ドローンを従え、漆黒の魔術礼装に身を包んだ青年が立っていた。
「一条、蓮……」
俺の従兄弟であり、一条家の次期当主候補だ。イギリスの魔術学校への留学経験もあり、呪術と魔術を同時に操る秀才。そして現在、D-Liveの総合ランキングで常にトップ10に君臨するエリート呪術配信者である。
「……颯太郎。この無礼な輩は知り合いか?」
眞白さんが眉をひそめ、俺の横に並ぶ。蓮は眞白さんを一瞥すると、鼻で笑った。
「ああ、君。そこの男は一条家の面汚しとして追放された、呪力なしの欠陥品だよ。……しかし、驚いたな。新しい詐欺の相棒は、随分と手の込んだ『コスプレ女』じゃないか。それとも最新の立体投影かな?」
「貴様……! 私を偽物と申すか!」
眞白さんの周囲の空気が一気に凍りつく。だが、蓮は動じない。彼は背後のドローンをこちらに向け、自分の配信を開始した。
『【緊急で動画回してます】詐欺配信者の現場を直撃。真の呪術を見せてやる!』
蓮の配信に、一瞬で数万人の視聴者が流れ込む。
「昨日の動画も見たよ、颯太郎君。拡張現実(AR)を駆使した安っぽい手品だ。今のミスティック界隈は、君のようなペテン師のせいで質が落ちているんだよ。その女も、どうせどこかの劇団員だろう?」
「……蓮。言葉を慎め。眞白さんは、お前なんかよりずっと――」
「君こそ黙りたまえ。才能のない者がいくら小細工をしたところで、血筋と伝統に裏打ちされた本物の呪術には勝てないよ。その女性が本物の呪術師だと言うなら、今ここで証明してみせてくれ。できないなら、今すぐアカウントを削除して業界から消えるんだな」
蓮の挑発に、眞白さんが今にも指先を弾きそうな勢いになる。彼女の力が解放されれば、この一帯ごと蓮を消滅させてしまうだろう。
だが、それで蓮を消し飛ばせたとしても俺を嘲笑う連中にとっては思うツボだ。
配信者同士の私闘は即座にBAN、最悪の場合は逮捕。俺たちが積み上げてきたバズが、一瞬で『暴力事件』として闇に葬られる。
俺は眞白さんの前に立ち、彼女の手を優しく制した。
「……颯太郎?」
「分かったよ、蓮。証明してやろう。ただし、呪術での殴り合いじゃあ面白くない。……ここは配信者らしく、『数字』で決着をつけよう」
俺は自分のスマホを掲げ、蓮の高級ドローンを真っ向から見据えた。
「今から一時間。同じこのダンジョンで同時に攻略配信を始める。一時間後の『最高同時接続者数』が多かった方の勝ちだ。俺たちが勝ったら、眞白さんへの発言を撤回し、君の全視聴者の前で謝罪してもらう」
「ははっ! 面白いね。底辺がトップランカーに挑むか。……いいだろう。負けたらその安っぽいドローンもろとも、二度と配信できないように削除してやる」
蓮は嘲笑を残し、取り巻きのスタッフと共にダンジョンの奥へと消えていった。
「……よいのか、颯太郎。奴のような不届き者、我が一撃で塵にしてやれば済むものを」
「ダメですよ。暴力で勝っても、貴女の凄さは証明されません。……眞白さん、準備はいいですか? 平安の最強が現代のエリートを数字で踏み潰すところ、世界に見せてやりましょう」
「ふむ……。よく分からぬが、其の方がそう言うのなら付き合おう。……して、勝てばまた『おにぎり』が食えるのだな?」
「おにぎりどころか、最高級の懐石料理を用意しますよ」
俺は配信開始のスイッチを入れた。
タイトルは――『【VSエリート】伝統呪術師に喧嘩を売られたので、本物の呪術を見せてやる』。
一条家の誇る『伝統』と、俺たちの『バズ』。
現代の戦場において、どちらが真に『最強』なのか。その証明が始まった。




