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「配信など破廉恥な!」と言っていた古風な最強呪術師様、現代っ子の俺にバズ術を教え込まれて登録者100万人を突破してしまう  作者: すかいはい
第1部:【新星爆誕編】

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第7話:【教育】

 俺の安アパート。


 六畳一間の真ん中で、九曜眞白は新品のスマートフォン――最新型の『EXperia(イーエックスペリア) 10 VII』を睨みつけ、全力で身を引いていた。


「……断る。断じて拒否する! 此のような禍々《まがまが》しい板、持つだけで魂を吸い取られるに決まっておる!」

「いや、魂は吸い取られません。ただの通信機器です。眞白さん、言ったでしょ? 俺が貴女のプロデューサーです。なら、連絡手段がないと困るんですよ」

「連絡……? 伝令なら式神を飛ばせば済む話であろう。何故、わざわざこのような黒い鏡に指を触れねばならぬのだ」


 眞白さんは、まるで呪物でも扱うかのように、おそるおそる指を伸ばす。


 設定は既に終わらせてある。俺の連絡先と、彼女専用の『D-Live』管理用アカウントも作成済みだ。


「いいですか、現代ではこれを使いこなせないと『おにぎり』にも『寿司』にも辿り着けませんよ」

「……ぐ。其の方は、卑怯だぞ」


 食べ物の名前を出した瞬間、彼女の指がぴくりと動いた。


 覚悟を決めたように、震える指先で液晶画面に触れる。


 ――ポーン。


「っ!? 鳴った! 今、鳴ったぞ颯太郎! 私の指から光が出て吸い込まれた……っ!」

「ただの起動音ですって。それに光っているのは液晶画面です。大丈夫、爆発なんかしませんから」


 俺はため息をつきながら、彼女の隣に座り込んで操作を教え始めた。


 タップ、スワイプ、スクロール。平安時代の最強呪術師は、初等教育を受ける子供のように必死な顔で、現代の呪術――ユーザーインターフェースと格闘している。


「……ふむ。このように指を滑らせると、絵が動くのか。……ほう、これはこの間の鮭おにぎりではないか! この板の中に、食料を貯蔵しておるのか!?」

「それは写真です。食べられません」


 どうにか基本操作を教え込み、彼女専用のメッセージアプリを開いた。


 試しに、俺のスマホからスタンプを送ってみる。


 ――ピコン!


 その瞬間だった。


「――っ! 敵襲か!!」

「えっ」

急急如律令きゅうきゅうにょりつりょうッ!」


 凄まじい呪力が部屋に満ちる。


「あっ、これは死んだかも」


 眞白さんが反射的に印を結び、彼女の周囲に、物理的な質量を伴う結界が展開された。不動にして不壊の金剛界結界だ。


 その衝撃で、机の上にあった空のマグカップが吹っ飛ぶ。ついでに俺も吹っ飛んだ。


「待っ、眞白さん! 落ち着いて! 攻撃じゃない、攻撃じゃないから!」

「何を言う! 今、確かに耳元で鋭い警告音がしたぞ! 暗器か!? 姿の見えぬ式神による不可視の呪詛か!?」


 彼女はスマホを『呪いの板』として床に投げ捨て、臨戦態勢で部屋の隅々を警戒している。その瞳は、上級怪異を相手にしている時よりも真剣だ。


「通知音です。俺からのメッセージが届いた合図ですよ。……ほら、画面を見て!」


 俺は冷や汗をかきながら、床に落ちたスマホを拾い上げて見せた。


 画面には、柴犬が「お疲れ様!」と言っている可愛いスタンプが表示されている。


「……この、犬の絵が、ぬしなのか?」

「そうとも言えますね。正確に言えば俺が送ったスタンプですけど」


 眞白さんは、ゆっくりと結界を解いた。


 顔が耳まで真っ赤に染まっていく。


「あ、あまりに音が突飛すぎるのだ。かつての世では、不意の音は死に直結した。致し方あるまい……」

「まあ、そうですよね。すみません、音量は小さくしておきます」


 その後も、眞白さんへの現代常識講座は続いた。


 彼女はテレビを「中に人が閉じ込められている箱」と呼び、掃除機を「魂をすする怪鳥」と呼んだ。


 挙句の果てには電子レンジの『チン!』という音に再び結界を張り、俺はもう一度吹き飛んで腰をしたたかに打った。


 だが、そんな苦労をしつつも後のことを考えると期待に胸が膨らんでいた。


 眞白さんの許可を得た範囲で、式神型ドローン『まなこ一号』にこのカオスな光景を録画させていたからだ。


 彼女の純粋無垢な反応をネットに上げればきっとバズる。その確信があったのだ。


 今度はスマホの使い方を自分一人でおさらいしたいと言い出したので、俺は静かに見守っていた。


「――颯太郎。今、この板に顔が映っておるが……これは、今の私か? なんだか、少しだけ……楽しそうに見えるな」


 インカメラを通して映った自分を見つめて、彼女がポツリとつぶやく。


 俺は、彼女の詳しい事情までは知らない。自分から話そうとしない限りはあえて聞くつもりもない。


 だが、彼女が数百年の封印によって孤独に苛まれてきたのは間違いないのだ。そんな彼女にとって、これからはこの『呪いの板(スマホ)』が外の世界と繋がるための窓になる。


「これからもっと楽しくなりますよ、眞白さん。……あ、それやるとまた通知音が鳴りますよ」


 ――ピコン!


「ひゃうんっ!? ……っ、こ、此の無礼者め! 驚かすなと言ったであろう!」


 情けない声を上げて飛び上がる眞白さん。


 その様子を切り抜いたショート動画が、数時間後、SNSで再び『世界一可愛い呪術師』として爆発的に拡散されることを、彼女はまだ知らない。

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