第22話:【光と闇の果てしないバトル】
タワーマンションのリビングに、凛の明瞭かつ喧しい声が響き渡る。
「――却下ですわ! そんな無骨なサーバーラック、眞白様の視界に入る場所に置くなんて正気の沙汰ではありませんわよ!」
彼女はどこから手配したのか、数人のスタッフに最高級のカシミヤソファや、特注のドレッサーを運び込ませていた。
『……却下なのは、その趣味の悪いピンクのクッション。……眞白様の銀髪を際立たせるのは、モノトーンの機能美だけ。……陽のオタクは、色彩設計の基礎からやり直して』
スピーカーから潤の電子音声が、いつになく攻撃的なトーンで応戦する。
「な、なんですって!? この『御園重工』が誇る色彩心理学に基づいた『絶対勝利のピンク』を否定する気!? これだから引きこもりは困りますのよ!」
「……二人とも、そこまでにしてくれ。……というか、俺の作業スペースをこれ以上削るな」
俺は山積みになった衣装箱と、潤が這わせた新しい光ファイバーケーブルの間に挟まれ、溜息をついた。
ふと見ると、部屋の隅で眞白さんが、凛が持ってきた美顔ローラーを不思議そうに頬に当てて転がしている。
「……颯太郎。此のコロコロとした法具、まことに不思議だ。顔の肉を挟み込み、何やら邪気を吸い出しておるような……」
「それはただの美容器具ですよ、眞白さん。……凛さん、眞白さんをあんまりオモチャにするなよ」
「失礼な! これは将来の『化粧品案件』に向けた土台作りですわ! 見てくださいませ、この肌の透明感! 潤さんのライティングじゃあ、この輝きを半分も伝えられませんわよ!」
『……ボクのライティングは、眞白様の毛穴一つ、呪力の迸り一箇所まで完璧に補正してる。……凛の言う「輝き」は、ただの白飛び』
「なんですってぇぇ!?」
火花を散らす二人。だが、凛がふと真剣な顔をして、眞白さんの前に膝をついた。
「眞白様。貴女は、この時代の『神』になれるお方です。……でも、そのためには、人々が『憧れる姿』を演じる必要もありますの。……私が貴女を、世界で一番幸せな、世界で一番美しいお姫様にしてみせますわ」
「……姫、か。……ふむ。凛殿。其の方の瞳には、私の古き友人であった巫女と同じ熱があるな。……よかろう。其の方の勧める『ふぁっしょん』とやら、試してみよう」
「本当ですか、眞白様!? それじゃあ、早速こちらのフィッティングルームに!」
凛が歓喜の悲鳴を上げ、眞白さんをマンション内のウォークインクローゼットへ連れ去る。
「あの、そこはフィッティングルームっていうか……うちのクローゼットなんだけど……。あっ、聞いてないですね」
マンションの部屋が知らぬ間にどんどん魔改造されていく。俺はガックリと肩を落とすしかなかった。
――十数分後。
出てきた眞白さんは、白のブラウスにタイトなロングスカートという、洗練された現代のお嬢様風の格好をしていた。
「……どう、だろうか。……少々、脚が落ち着かぬのだが」
恥ずかしそうに裾を押さえる眞白さん。その瞬間、リビングが静まり返った。
「……っ」
俺は絶句し、スピーカーからは潤の激しいタイピング音が響く。おそらく無意識にスクリーンショットを撮りまくっているのだろう。
「どうですの! これが私のプロデュースですわ!!」
凛が誇らしげに胸を張る。
潤の技術力、凛の演出力、そして眞白の圧倒的な素材力。バラバラな四人が、一つの『美』という目的のために動き始めた。いや、目指す先がそこでいいのかは分からないが、とにかく動き始めたのだ。
「……よし、潤。今の眞白さんのビジュアルに合わせた配信背景を構築するんだ。凛は広報用の写真をセレクト。……俺は、この『新・眞白さん』の動きを阻害しないよう、ウェアラブルな術式端末を調整する」
俺の言葉に、二人の少女が同時に「了解」と頷く。
喧嘩は絶えない。だが、眞白さんを最強にするという一点において、このチームは無敵になりつつあった。




