第21話:【一番の信者】
タワーマンションの広々としたリビング。俺は新しい機材のセットアップを終え、ようやく一息ついていた。
「……さて、Jも仲間に加わったことだし、今後の配信スケジュールを練り直さないとな」
モニターの端には、J……一条潤が構築した監視プログラムが静かに動いている。
『……颯太郎兄、エントランスに「不審者」一、接近中。……排除する?』
部屋のスピーカーから、潤の気だるげな声が響く。彼女は現在、自室からリモートでこの建物中のセキュリティを全て掌握しているのだ。
「排除って、物騒なこと言うなよ。……誰だ、こんな時間に」
インターホンのモニターを確認する。そこには、俺たちの新しい住所をどうやって突き止めたのか、制服姿の女子高生が、鼻息も荒く立っていた。
「不審者……ではないよな。たぶん」
さすがに門前払いするのも可哀想だ。会って話だけでも聞いてみよう。室内からパネルを操作して玄関を開けてやる。
「――っ、開いたぁぁぁ!! 眞白様ぁぁぁ! お迎えに上がりましたわぁぁぁ!!」
ロックを解除するやいなや、突風のような勢いでリビングに飛び込んできたのは、プラチナブロンドの髪を揺らした少女だった。
「な、何だ、此の小娘は!? 颯太郎、新手の刺客か!?」
ソファでおにぎりを食べていた眞白さんが、驚きのあまり海苔を口につけたまま立ち上がる。
「刺客だなんて滅相もない! 私は御園凛! 前回の配信を三千回見返して確信しました……眞白様、貴女には『有能な秘書』が必要です! つまり、この私が!」
「……御園? まさか、国内最大手の呪術具メーカー『御園重工』の……」
「はい! そこの末娘ですわ! 眞白様をこの世で最も輝かせるため、家柄も財力も、私の全てを捧げに来ましたの!」
凛は俺を完全に無視して、眞白さんの手を取った。その瞳は、潤の『静かな執着』とは対極にある、ギラギラとした『陽の熱狂』に燃えている。
「あ、あの……凛とやら? 近い、顔が近すぎるぞ……」
「お静かに、眞白様! その御髪、少し乱れておりますわ! それにその服! 颯太郎さんのセンスは悪くありませんが、眞白様の高貴さを引き出すにはとても足りません。総合評価で三十二点です! 私が今すぐ、最高級のシルクを用いた新作呪束衣を手配いたします!」
凛は鞄から最新型のタブレットを取り出すと、驚異的な指捌きで何かを次々と発注し始めた。
「SNSの運用、ファンクラブの規約策定、そして眞白様の美貌を損なわないスケジュール管理……全て私にお任せを! 颯太郎さんは、あの……なんか、こう……あなたにできることをなさってください!」
「俺に興味なさすぎでしょ!?」
スピーカーから潤の毒づく声が漏れる。
『……ムカつく。……光のオタク、死ねばいいのに』
「あ、今喋ったのはどなた!? 悪くありませんわね、その『影のプロフェッショナル』な感じ! でも眞白様の隣に立つのは、この私ですわ!」
「……颯太郎。……此の者、まことに騒がしいが……悪い奴ではなさそうだ」
いつの間にか、凛に手際よく髪を整えられ、キラキラしたアクセサリーまで付けられた眞白さんが、戸惑いつつも鏡を見て嬉しそうにしている。
「いや、それはそうかしれないんですが……。凛さん、見たところキミは未成年だよね。ご両親にちゃんと許可は取ってるの?」
「その点はご心配なく! 我が御園家は良く言えば子供の自主性を尊重する家風、悪く言えば放任主義! 自ら使う資金は自らビジネスをして稼ぐように幼少のみぎりより言いつけられておりますの。私の経済活動はお父様とお母様も承知の上ですわ!」
凛は堂々と胸を張る。眞白さんも彼女のことを悪く思ってはいないようだ。こうまで言い切られてしまってはもはや認めざるを得ない。
「……はぁ。分かったよ、凛さん。ただし、俺のプロデュース方針には従ってもらうからね」
「もちろんですわ! 眞白様を『世界の推し』にするためなら、泥水だって啜ってみせますわ!」
こうして、俺たちのチームに最強の運営担当が加わった。眞白さんを愛でることに関しては妥協のない美少女オタクがさらに増えた。
俺のタワマン生活は、静かになるどころか、とんでもない嵐の予感に包まれていた。




