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「配信など破廉恥な!」と言っていた古風な最強呪術師様、現代っ子の俺にバズ術を教え込まれて登録者100万人を突破してしまう  作者: すかいはい
第2部:【チーム結成編】

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第17話:【バズの果実】

 裏サイト『Depth』での歴史的なゲリラ配信から一夜。俺と眞白さんは、朝日が差し込むいつものボロアパートにいた。


 一晩経って復旧したD-Liveのチャンネル登録者数は七万人を超えていた。


 爆発的に増えはしたものの、個人的には一気に十万人、二十万人を超えるかと期待していたので少し拍子抜けだった。


 裏サイトでバズっている間中ずっとD-Liveのメインアカウントが凍結されていたことが災いしたのだろう。それに加えて公権力ににらまれているという事実からチャンネル登録を躊躇ためらう視聴者もいたのかもしれない。


 いずれにせよ現実はそこまで甘くはないということだ。ここからはまた定期的にダンジョンに潜って配信をし、着実にリスナーを増やしていくしかない。


 ――問題は、そこではないのだ。


「……颯太郎、顔色が悪いぞ。もしや、昨晩の戦いで呪詛じゅそでも受けたか?」


 眞白さんが心配そうに俺の顔を覗き込む。風呂上がりで髪を拭きながら、彼女は俺の安物の座椅子に腰掛けていた。


「……いや、呪詛より恐ろしいものを見てるだけです」


 俺の手の中にあるスマホの画面。そこには、昨夜の配信結果の最終レポートが表示されていた。


 広告収益、投げ銭(スパチャ)、そして裏ルートでのギフトの日本円換算……。


「……三、八、〇、〇……三千八百万円……?」

「さんぜん、はっぴゃく? それは、多いのか?」

「多いなんてもんじゃないです! 公務員の年収何人分だと思ってるんですか!? たった一晩ですよ!? 手数料と税金で半分持っていかれるとしても、信じられない額だ……」


 俺の指がガタガタと震える。一条家を追放された時、手元にあったのはわずかな貯金だけだった。それが、一晩の『バズ』で一財産を築き上げたのだ。


「ふむ……。よく分からぬが、それは『おにぎり』に換算すると、いくつ分だ?」


 眞白さんは指を折り始めた。


「最近はおにぎりも値上がりしてるからなぁ。一個二百円として……。三千八百万割る二百……。ええと、十九万個ですね」

「じゅうきゅうまん……っ!!」


 眞白さんが座椅子に座ったままひっくり返りそうになるほど目を見開いた。


「そんなに食べて良いのか!? 一生分のおにぎりが、昨晩の一戦で手に入ったというのか!? 颯太郎、其の方はやはり神仏の類か!」

「違います。ただの配信者で、貴女のプロデューサーです。……でも、これだけあれば――」


 俺はスマホを置き、窓の外を眺めた。薄いカーテンの隙間から見えるのは、何の変哲もない住宅街。だが、今この瞬間も、ネット上では俺たちの正体を探ろうとする『特定班』が血眼になっているはずだ。


 昨夜の裏サイトでの配信には七万人近い視聴者が集まった。その中には、柊のような役人も、一条家の刺客も、そして熱狂的すぎて何をしでかすか分からないファンもいる。


 このアパートの壁は薄い。玄関の鍵も、俺が術式で強化したとはいえ、物理的な暴力の前にはあまりに脆弱だ。


「……眞白さん。今日、ここを出ます」

「えっ、せっかく馴染んできたのにか? 此の、冷たい風が吹き込む隙間も、趣があって良いと思っていたのだが」

「ダメです。貴女はもう、一国の姫君以上の価値がある存在なんですよ。……昨日の柊みたいな奴らが、いつまた玄関を蹴破ってくるか分からない。貴女の安全を守るのも、プライベートを守るのも、プロデューサーである俺の仕事です」


 俺は立ち上がり、クローゼットからキャリーケースを取り出した。こいつを使うのも一条家を追い出された時以来だ。


「十九万個のおにぎりを安心して食べられる、最強の『城』に引っ越しましょう」

「……城か。うむ、其の方がそう言うのなら、私はどこへでも行こう。……して、その城には、鮭以外の具もあるのだな?」

「明太子でもツナマヨでも、好きなだけ頼めますよ」


 俺は、一条家や呪術庁の連中が絶対に手を出せない、現代の技術と資金力で固めた『鉄壁の拠点』を探し始めた。


 ボロアパートでのドギマギした同居生活は、こうして一晩の熱狂とともに、唐突に終わりを告げた。

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