第15話:【覚醒】
俺の指がスマホの画面を叩くと同時に、ドローン『眼一号』が放つレンズの光が、七色のプリズムとなって眞白さんを包み込んだ。
「――実行、開始。これで終わりだ、時代遅れの柊さん」
「何をやっても無駄だ! 罪人の穢れは、より深い闇によってのみ封じられる!」
柊が叫び、三枚の『重層封印鏡』がさらに速度を上げて回転する。黒い光が凝縮され、眞白さんの存在をこの世界から消し去ろうと重圧がのしかかる。
だが、その闇を内側から突き破ったのは、俺のスマホから溢れ出した無数の『声』だった。
「術式アップデート――アポクリファ・サルベイション」
俺が構築した最終コードが、裏サイト『Depth』に接続された五万人以上の視聴者の『デバイス』を中継点として同期させる。
「眞白さん! この光は、貴女を蔑んだ奴らの影じゃない! 君が美味しいものを食べて、笑って、戦う姿を……『大好きだ』と願った人たちの祈りだ!」
スマホの画面上に、未だかつてないほど複雑で美しい曼荼羅のようなUIが展開される。
【システム警告:呪力特性の反転を確認】
変換効率:99.9% ―― [同期完了]
眞白さんの鎖骨に刻まれた、あのどす黒い罪人の刻印。
それが、視聴者から送られる膨大な『肯定のエネルギー』を燃料として、眩い白銀の輝きへと変色していく。
「……温かい」
眞白さんが、自身の胸に手を当てる。
彼女を苛んでいた痛みは消え、代わりに身体の奥底から、凍てついた大地に春が来るような、圧倒的な生命の躍動が溢れ出した。
「柊とやら……。其の方らが私に押し付けた『罪』など、此の者たちの『愛』の前には……塵に等しいわッ!!」
眞白さんの瞳が、深紅から神々しいまでの金の双眸へと変わる。
彼女の背後から、かつては『禍々しい闇』だった呪力が、今は『浄化の光』となって翼のように広がった。
「ば、馬鹿な!? 穢れを反転させたのか!? 呪術の歴史に、そのような法など存在しない! 貴様、何を変えた……!?」
「変えたのは俺じゃない。……世界中のみんなですよ」
俺は柊を指差し、不敵に笑った。
「一族の伝統や血筋っていう『狭い箱』でしか呪力を測れないあんたたちには、五万人のネットワークが繋がったこの『祈り』の重さは分からない!」
「――砕けよ、古き縛鎖!」
眞白さんが両腕を突き出した。
凄まじい衝撃音と共に、柊たちが作り出していた『重層封印鏡』が、まるで脆いガラス細工のように一瞬で粉砕された。
破片が夜の街に飛び散り、光の余波が柊たちを吹き飛ばす。
「ぐ、あああああぁぁぁっ!?」
鏡から放たれていた黒い光が晴れていった。
街灯の光が戻り、夜の静寂が再び訪れる。
そこには、虹色の光の残滓を纏い、凛として立つ眞白さんの姿があった。
彼女を縛っていた鎖はもうどこにもない。
【裏サイトDepthリアルタイム・チャット】
名無しさん: よっしゃあああああ!! 破壊した!!
考察ニキネキ: 待て、今の術式……全視聴者のスマホを『式神』にして演算補助させたのか!? 颯太郎、マジかよ……。
限界オタク: 眞白様……マジ女神……俺、一生ついていく……。(スパチャ¥10,000)
アンチ卒業: 疑って悪かった。これは本物だ。本物の『救い』だ。眞白様の存在によってのみこの世界は救済される……。
「アンチの人、それはそれでヤバい領域に突入してない……? あっ、スーパーチャットありがとうございます!」
眞白さんがゆっくりと振り返り、俺を見つめた。
「……颯太郎。こんな時まで“すまほ”など見るな」
ふてくされるように言う眞白さん。彼女の瞳には、もう自分を責める色は一欠片も残っていない。
「して、私の勝ちでよいのだな? プロデューサー殿」
「ええ。……最高の配信でしたよ、眞白さん」
俺はスマホのカメラを彼女に向け、とびっきりの笑顔で親指を立てた。
裏サイトDepthの同接カウンターは、ついに六万人を超え、歴史的な『奪還作戦』の成功を世界に告げていた。




