第90話 ダンジョン
サフラームの王室に招待されたウェーノ家一同。
アトレイア王国やゼルディア帝国とは違う、砂漠の国特有の風通しの良い、それでいて荘厳な一風変わった建築様式に、ソーヤは興味津々だった。
「へえ、この柱の構造、理にかなってるな……。風の通り道が計算されてるし、装飾も幾何学的で面白い!」
職人気質なソーヤは、壁や柱をペタペタと触りながらぶつぶつと分析を始めていた。
ソーヤの没頭している姿をトーヤは苦笑しながら見守っていた。
大広間ほどの大きさの王宮食堂に通されると、サフラームの長であるナディルが、満面の笑みで彼らを迎えた。
「ウェーノ家の皆様、この度は我が国を救っていただき、本当に感謝の言葉もありません。ささやかですが、お礼にお食事を提供させていただきたく……。」
テーブルには、すでに砂漠の国ならではの料理が所狭しと並べられていた。
スパイシーな香りが食欲をそそるタンドリーチキンや、串焼きにされたケバブっぽい肉料理。さらには、カレーのような香辛料たっぷりのスープに、ナンのようなものまである。
デザートの皿には、ドラゴンフルーツやスイカ、グレープフルーツのような色鮮やかな果物が山盛りに積まれており、どうやって食べるのか、どう見てもサボテンにしかみえないものまで並べられていた。
「うわぁ〜! とっても美味しそうね〜。」
ふんわりとした笑顔でアインが微笑み、さっそくウェーノ家は食事に手を伸ばす。
「いただきまーす!……んぐっ、かれええぇぇぇぇっ!?」
カレースープを一口飲んだユーヤの口から、カレーの辛さで文字通りゴォォォッと火を吹いた。
「熱っ!? 辛っ!? 炎属性のダメージ判定あるよこれ!」
慌てて横にあったトロピカルジュースを一気に飲み干して消火するユーヤ。
一方、アインは、タンドリーチキンのあまりの美味しさに目を輝かせていた。
「まぁ〜、このチキン、とってもスパイシーで美味しいわ! ナディルさん、後でレシピを聞かせていただけるかしら〜?」
「ええ、もちろん喜んで!」
アインが新しいレシピにウキウキしてる中、トーヤとソーヤは、一緒にレタスのようなものでケバブを巻いて食べていた。
「うん、美味い。野菜と一緒に食べるとさっぱりしてて最高だな。」
「これならいくらでも食べられそうだね。」
和やかな食事が進み、ナディルが少しだけ表情を引き締め、砂嵐の原因について、心当たりがあるとウェーノ家に告げた。
その言葉に、トーヤたちも食事の手を止めて耳を傾ける。
そして、ナディルが静かに話し始める。
「我が国に古くから伝わる伝承では、『地中に隠されたダンジョンが活性化すると、砂嵐が発生する』とあります。もし、今回の砂嵐がそうなのだとすれば、完全に砂嵐を鎮めるには、その『古の砂塵宮』と呼ばれるダンジョンをクリアするしかありません……。」
「ダンジョン!!」
その単語を聞いた瞬間、ユーヤの目がカッと見開き、ゲーム脳特有のワクワクした輝きを放った。
「マジで!? ボスとかお宝とか隠し通路とかあるやつ!?」
食い気味に身を乗り出すそんなユーヤをなだめながら、ナディルが続ける。
「落ち着いてください。ダンジョンはとても危険なところです。内部には物理攻撃を一切透過する流砂の巨兵や、鋼鉄をも噛み砕く大百足がうろついております。しかもそれだけではなく、砂地獄などのトラップも存在し、我が国の精鋭部隊をもってしても第一階層すら突破できず、撤退せざるを得ませんでした。言い伝えでは、10階層もあるというのに……。」
ナディルが絶望に打ちひしがれた様子でうなだれているが、テンションの上がったユーヤの勢いは止まらない。
「マジで!? 物理無効のギミックに、砂漠系お約束の巨大モンスター!? 父さん、分かってるよね? 行くよね? これ、完全新規の隠しイベントじゃん!」
身を乗り出して興奮するお調子者の弟の首根っこをソーヤが冷静に掴んで引き戻した。
「ユーヤ、遊びじゃないんだから少しは緊張感を持てよ。物理攻撃が効かないってことは、構成物質が流動体の魔物だろう。だったら、水分を含ませて固めるか、構造そのものを組み替えるのが手っ取り早そうだな……。」
ソーヤは、ユーヤを抑えながらも、すでに頭の中で魔物の『攻略および解体方法』を分析し始め、自分の思考へと没頭していく。
そんな兄弟たちを横目で見ながら、トーヤがナディルに会話を続けるよう促す。ナディルは悔しそうに目を伏せ、
「今はウェーノ家の皆様のお力で砂嵐がおさまっていますが、ダンジョンをクリアしない限り、いずれはまた砂嵐が発生するでしょう。ですが、我々サンドリア族の力では、到底クリアは不可能です……。お子様もいらっしゃるご家族に、このようなことを申し上げるのは、非常に心苦しいのですが、どうか我々に力をお貸しいただけませんでしょうか?」
懇願するような視線をトーヤたちに向けると少し空気が張りつめた。
そんな中、ニヤリと笑いながら、ユーヤが隣に座るトーヤの顔をじーっと見つめる。
(父さん、分かってるよね? 行くよね? 行くしかないよね?)という、無言の圧である。
「……はぁ。」
トーヤは深ーいため息をつきながら、しょうがないと言って、自分たちがダンジョンをクリアすると断言する。
「乗りかかった船だ。俺たちがそのダンジョンをクリアしよう。」
「やったぁぁぁぁ!! 初ダンジョンキターーー!!」
「僕も頑張るよ〜!」
ユーヤが両手を挙げてガッツポーズをした。なぜかクロもノリノリで、果物を食べながら、ダンジョンへ行く気満々のようだった。
その様子を見て、トーヤはさらに深いため息を吐いた。
ナディルは、感謝の意を込めて、ウェーノ家に深々と頭を下げていた。
◆
食事が終わり、準備を整えるため、いったん客室へと案内される。一通りの準備とユーヤのテンションをニュートラルに戻したウェーノ家一同は、ダンジョンの入り口に案内してもらう。
「こちらです。」
案内されたのは、なんと王宮の最深部だった。
ナディルが玉座の裏にある隠しギミックを操作すると、玉座の下にぽっかりと口を開けた隠し通路が現れた。
ダンジョンの入り口は、なんと玉座の下の隠し通路にあったのだ。
「玉座の下にダンジョンの入り口……! 王道RPGすぎる……最高!」
感動に打ち震えるユーヤ。
「暗いから足元に気をつけてね〜。」と、遠足にでも行くようなテンションのアイン。
「古のトラップの構造とか、建築の参考になりそうだな。」と、マイペースなソーヤ。
そして、トーヤが、彼らを守るように先頭に立つ。
「よし、みんな準備はいいか? 行くぞ!」
ウェーノ家が異世界に来て初のダンジョン攻略が、今、始まる!




