第87話 スマホゲーム
ウェーノ家を中心に、エルフ族、ドワーフ族、マーメル族などが住み着いて自然発生的にできたウェーノ村は、今日ものどかな日常が繰り広げられていた。
少し秋めいた涼しげな風が吹き抜けるある日のこと。
縁側でソーヤとユーヤが二人で何やら話し込んでいた。
「元々、作ったのは、俺たちウェーノ家の四人と、リル、ミラ、それにセレスティアの七人分だけだったんだけどな……。」
ソーヤが縁側で茶をすすりながら、遠い目をしてつぶやく。
以前、アトレイア王国のセレスティア王女が、リルとミラとの別れを惜しんだ際に、遠く離れていてもお互いに連絡が取れるよう、ソーヤとユーヤがお互いのスキルの力を合わせて「スマホ」を作り出していた。この世界の技術ではないため、そのときは七人分しか作らなかったのだが……。
娘がスマホを使う様子を見ていたアトレイア王国のレオニス国王が騒ぎ出し、それを聞きつけた親友であるぜルディア帝国のオルディナス国王も便乗して、スマホを欲しがった。さらには、竜王国を治める黒竜王であるアルグレオス王までもがスマホの催促をしてきたのである。
そこで、トーヤは渋々許可を出して、ソーヤとユーヤが三人分のスマホを追加で作成することになったのである。
そして、そのついでに、今までスマホを持っていなかったリィナの分も忘れずに一緒に作ってあげていた。
三人の国王は、遠隔でも連絡の取れるスマホを手にすると、満足げに自国に帰っていった。
だが、ここで生粋のゲーマーであるユーヤが、スマホに暇つぶし用の「通信対戦ゲーム」を実装してしまったことが今回の騒動の引き金になるであった。
◆
そして現在。
三国の王都中枢は、かつてない危機に瀕していた。
◆アトレイア王国ではーー
レオニス国王の居室にて、レオニスが机に背を向けて、何やらゴソゴソしている。そこへ、レオニス国王の優秀な右腕であるラザルド宰相が部屋に入って来るなり、頭を抱えていた。
「レオニス国王! 政務を後回しにして、何を……って、またその『スマホ』なる板を擦っているのですか!」
ラザルドが大声で嘆いていたが、その声はレオニスの耳には届いていなかった。
◆ぜルディア帝国でもーー
「オルディナス国王! 復興の件ですが……。」
オルディナス国王の優秀な右腕であるヴァルター宰相が呆れ顔で呼びかけるも、オルディナス国王は聞く耳も持たず、画面を鬼の形相でタップし続けていた。
◆竜王国アル=ヴァルハではーー
「アルグ。あなた、また政務をサボって……。」
赤竜妃エルヴァリアが冷ややかな視線を送る中、アルグレオスは居室にて引きこもって、一日中スマホに夢中であった。
ラザルド宰相、ヴァルター宰相、そしてエルヴァリア王妃が、深いため息をつきながらこの状況を嘆いていることを気にもとめず、三国のトップたちはユーヤが仕込んだ通信対戦ゲームにすっかりドハマりし、政務をサボって毎晩オンラインで白熱のバトルを繰り広げるようになっていた。
そして、オンラインでの煽り合いが限界に達した数日後。ついに「直接対決で決着をつける!」と、三国のトップがウェーノ村に集結してゲーム大会を開催する流れになってしまった。
◆
「なんで俺たちの村でやるんだよ……。」とトーヤが頭を抱える中、ソーヤとユーヤが協力して、みんなが対戦の様子を見れるように、巨大スクリーンを作り出し、スマホの映像が映るようにする。
村の広場には特設ステージが設けられ、三人の国王が円になって座り込み、凄まじい眼光でスマホを睨みつけていた。
「ゆくぞレオニス王、アルグレオス王! 今日こそ私が覇者となる!」
「ふん、オルディナス王よ、その驕りを打ち砕いてくれるわ!」
「地上の王など、竜王である我の指捌きの前には無力と知れ!」
ピコピコピコ! ドドーン!
「ああっ! そこでなぜガードが間に合わんのだ!」
「貴様、今のはラグだ! 回線のせいだぞ!」
「ええい、ハメ技とは卑怯な!」
三人の国王の間に飛び交う言葉は、どこで覚えたのか、もはやゲーマーそのものであった。巨大スクリーンを見ている村人たちも黄色い声を上げながら、それぞれを応援していた。
そして、ゲームが白熱するあまり、国王たちが発するゲーマー特有の怒りといった負の感情が広場に充満していく。
しかし、ここで活躍したのが、全身白い毛で覆われた丸っこい生き物であるモフだった。
モフは、人の負の感情を吸収し、生命エネルギーとして放出することが可能である。モフが国王たちの怒りを吸収して生命エネルギーに変え続けることで、村の自然がどんどん豊かになっていく。
その光景を見ていたアインが、「まぁ〜、モフちゃんのおかげでとっても空気が美味しいわね〜。」とふんわりと微笑む。
なかなか決着がつかぬまま、大会は終盤へ。
「ふふん、素人の戦いはここまでだね。ここからは僕が直々に相手をしてあげるよ!」
ユーヤが、ラスボス風のセリフを呟きながら、スマホを片手に参戦を表明した。
誰もがユーヤのぶっちぎりの優勝を疑わなかった。
しかし、そこに静かに歩み出た少女がいた。
「……マスター。私も、参戦してよろしいでしょうか?」
今回新たにスマホを手にしたリィナだ。
「いいよリィナ! 僕の胸を貸してあげる!」
まるで弟子の相手をする師匠のように、ユーヤが言い放った。
――数分後。
「……う、嘘、だろ……?」
ユーヤはスマホを取り落とし、膝から崩れ落ちた。画面には、リィナの圧倒的な勝利が輝いていた。
こうして、記念すべき第一回スマホゲーム大会は、リィナの優勝で幕を閉じたのだった。
「くっ……悔しい!第二回の開催を希望する!」
すっかり熱を上げ、再戦を要求する三人の国王たち。しかし、彼らの背後に、地獄の底から響くような声が落ちた。
振り返るとそこには、青筋を立てたラザルド宰相、冷ややかな笑顔のヴァルター宰相、そして、怒りを通り越して逆ににこやかな笑顔のエルヴァリア王妃が立っていた。
「「「当分の間は、ゲーム禁止です!!!」」」
そう言われ、ラザルド宰相とヴァルター宰相、エルヴァリア王妃たちにスマホを取り上げられる三人の国王であった。




