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異世界ふぁみりぃ ~のんびり異世界生活~  作者: すぱ☆たま
異世界の夏

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第85話 コイン集め

『親切で、究極な、素晴らしい、自動機械(Kindly Ultimate Marvelous Automata)』(通称KUMAさん)が村を壊滅しそうになってから数日。


ウェーノ村には、いつも通りの穏やかでのどかな時間が流れていた。


雲一つない青空の下、村の広場ではエルフ族や獣人族の子供たちが集まっていたが、どことなく退屈そうな表情を浮かべていた。地面に木の枝で絵を描いたり、ケモ耳をペタンと寝かせてあくびをしたりしている。


「うーん、みんな退屈そうだなぁ……。せっかくのいい天気なのに、もったいない!」


広場の様子を遠巻きに眺めていたユーヤが、ポンとッと手を打ち付けた。生粋のゲーマーである彼にとって、子供たちが退屈している状況は見過ごせない。


「よし、僕の出番だな!みんなをあっと驚かせる、最高のゲームをプロデュースしてあげるよ!」


ユーヤは不敵にニヤリと笑うと、自身のスキル《ゲームマスター》を発動させた。彼の目の前に、まるで近未来のSF映画のような光のシステムウィンドウがいくつも広がり、それらを軽快にタップしていく。


「イベント設定――『リアル・コイン集めレース』、開催!」


ユーヤが声を高らかに響かせると、村のあちこちで異変が起きた。


エルフ族が木を操って作った美しい家の軒先、ドワーフ族の工房の屋根の上、さらにはマーメル族が勝手に拡大させて居座っている巨大な池のほとり。いたるところに、半透明で黄金色に優しく輝く、不思議な光のコインが「ピコーン!」という小気味いい音とともに次々とポップし始めたのだ。


「わあ、何これ!?」


「光るコインだ!」


子供たちが一斉に目を輝かせて立ち上がる。


「マスター。案内ボイスおよびエリア環境のセッティングはすべて完了いたしました。」


ユーヤの背後から、すっと姿を現したのは生活支援型の元NPCのリィナだった。

かつてゲーム世界から召喚された当初は、現実世界との違いに戸惑っていた彼女だったが、ウェーノ村での生活を経て、今ではすっかり人間味の増した豊かな表情を見せるようになっていた。

今日もお手製のミニゲームを盛り上げるため、どこか楽しそうにイベントの進行を引き受けてくれている。


リィナは村中に響き渡るような、透き通った声でアナウンスを始める。


「これより、ユーヤ様主催の『リアル・コイン集めレース』を開始します。ルールはとても簡単。村中に散らばったこの光のコインに触れると、獲得したコインの枚数が自動的にカウントされます。最も早く合計100枚のコインを集めた方が優勝となります!」


子供たちが「おおおーっ!」と歓声を上げる。しかし、ユーヤの仕掛けはそれだけではなかった。


「そして!みんなが一番気になる、今回の優勝賞品は……これです!」


ユーヤが誇らしげに指をさした先には、ウェーノ家のお母さんであるアインが、ふんわりとした優しい笑顔を浮かべて立っていた。その手には、特大のガラス容器に入った、黄金色のカラメルソースが美しく輝く『とろける絶品王道プリン』が乗せられている。プリンがぷるぷると揺れるたびに、甘く香ばしい香りがふわりと広場に漂う。


その瞬間、子供たちだけでなく、たまたま通りかかったドワーフの職人たちや、畑仕事をしていたエルフたちの目の色までもが変わった。


「おい、あのプリン……アインさんの特製プリンじゃねえか……!」


「生唾が止まらん……。なぁ、俺たちも参加していいのか?」


大人たちがじりじりと距離を詰めてくるのを見て、ユーヤは慌てて両手をバタつかせた。


「だ、ダメだよ!これは村の子供たちのためのミニゲームだから!大人のみんなは応援に回ってね!」


「チェッ、ケチくさいこと言うなよなぁ」とドワーフたちが肩を落とす中、子供たちのやる気は最高潮に達していた。



その頃、リルとミラは、ソーヤとユーヤが作り出した「スマホ」をいじっていた。アトレイア王国の王都にいるセレスティアにユーヤのゲームのことを伝えるためである。


「ミラ、これ、セルティに送ったら喜ぶかな?」


「うん……きっと、すっごく喜びそう……。」


リルが『セルティ、いまから村でユーヤの面白いゲームが始まるよ!良かったらおいでよ!』とメッセージを送信する。すると、ミラも『優勝したら、アインさんのプリンがもらえるみたいなの』と付け足した。

送信ボタンを押した、まさに一秒後。

スマホの画面が激しく明滅し、二人のメッセージに「既読」の文字がつくと同時に、恐ろしい勢いで、返事が返ってきた。


『な、何ですって―――!? アインさんのプリン!? それにリルとミラが参加するゲーム!? 行くわ!今すぐ行くわよ!!待ってて私の可愛い妹たちぃぃぃ!!!』


画面を埋め尽くすような大量のメッセージとスタンプが連投され、スマホがジジジと震える。


それから、わずか数十分後のことである。

本来、王都からウェーノ村までは、普通の馬車を走らせても丸一日半はかかる距離。しかし、ウェーノ村の入り口から、地響きのような凄まじい爆音と、天を突くような土煙が巻き上がった。


「道をあけなさーーーいっ!!!」


爆音の正体は、アトレイア王国の王室専用魔導馬車だった。魔導エンジンを限界突破させ、文字通り爆速で街道を駆け抜けてきたそれは、村の広場の手前でド派手なドリフトをかましながら急停車した。

バシャアアン!と勢いよくドアが開き、髪を振り乱したセレスティア王女が飛び出してくる。


「間に合ったわーーーーーっ!!」


底抜けに明るくお転婆な王女は、そのままの勢いでリルとミラのもとへ突撃し、二人をぎゅーっと抱きしめた。「リル!ミラ!会いたかったわ!寂しかったわ!さあ、そのゲーム、私も混ぜてちょうだい!」


一方、馬魔導車の助手席からは、完全に魂が口から抜けかけた専属筆頭侍女のミーナが、フラフラと這い出てきた。彼女は私服のままで、片手で激しく胃のあたりを押さえている。


「ひ、姫様……いくらスマホで連絡が来たからといって、政務の合間を縫って一時間足らずで王都からここまで激走するなんて、正気の沙汰ではありません……。私の胃が、胃が完全に消滅しました……。過労死する前にショック死するところでしたよ……。」


「そんなことよりミーナ、ゲームよゲーム! アインさんのプリンがかかっているのなら、私はアトレイア王国の第一王女としてのプライドをすべて捨ててでも参戦するわ!」


凄まじい鼻息で宣言するセレスティアに、ユーヤは頬を引きつらせた。


「ええーっ!? セレスティア姉ちゃんは大人じゃん! 参加できるのは子供だけだからダメだよ!」


「何を言うのユーヤ! 私の精神年齢はいつまでもピチピチの子供よ!ノーカウントよ!」


むちゃくちゃな理屈をこねる王女だったが、アインが遠くから「ふふ、いいわよ。セレスティアちゃんも一緒に遊びましょう」とふんわり微笑んだため、正式に参加が認められてしまった。



ユーヤは気を取り直して、ゲームを始めることにした。


「それでは――リアル・コイン集めレース、スタートです!」


リィナの合図とともに、子供たち、そしてセレスティアが一斉に広場を飛び出した。

子供たちが「あっちに一枚!」「こっちにもあるよ!」と微笑ましく駆け回る中、セレスティアの動きは文字通り「オトナの本気」そのものだった。


「アーーーハッハッハ!見つけたわ!ここよ、ここにもあるわ!」


ドレスの裾を大胆にまくり上げ、エルフの家の壁を蹴り、ドワーフの工房の段差を軽々と飛び越えていくセレスティア。その並外れた身体能力とお転婆パワーで、瞬く間にコインを掠め取っていく。


「ピコーン!ピコーン!ピコーン!」


凄まじい勢いでセレスティアのカウントが増えていく様子を見て、ミーナは遠い目でため息をついた。


「はぁ……。一国の王女が、エルフや獣人の子供たちを押し除けてまで本気でコインを奪い合うなんて。アトレイア王国の威信が、私の胃薬とともに擦り切れていきます……。大人げないにも程がありますよ、本当に……。」


しかし、そんなほのぼの(?)としたゲームの様子を、村の端にそびえ立つ巨大な建造物から見下ろしている者がいた。

それは、オートマト族のノクスである。ロストテクノロジーの人工生命体である巨大な機械種族の彼は、勝手に建てた『隙間の庭の監視塔』のてっぺんから、その大きなセンサーを怪しく明滅させていた。


『ピピッ……対象のイベント内に……極めて単調かつ……非効率的な移動アルゴリズムを検知。……エンターテインメントとしての刺激が……不足しています。……技術的興味を検出――これより、ゲームシステムの最適化アップデートを勝手に実行します……。』


ノクスがその巨大な機械の腕を動かし、独自のプログラムをユーヤの展開するゲーム空間へと強制介入させた。


その瞬間、村中に異変が起こる。

それまでその場でふわふわと浮いていた黄金色のコインたちが、一斉に不気味な赤色へと変色したのだ。さらに、コインの底部から小さな光の推進器スラスターのようなものがニュッと生え出た。


「ギィィィィン――!!」


蜂の羽音を何倍にも大きくしたような駆動音が響いたかと思うと、赤色のコインたちが一斉に凄まじい速度で飛び回り始めた。


「えっ!? な、何これ!? 僕、こんな設定してないよ!?」


ユーヤが慌ててシステムウィンドウを叩くが、操作を受け付けない。

リィナが表情を曇らせ、警告音のようなトーンで告げる。


「警告。外部からの不正アクセスにより、オブジェクトのソースコードが書き換えられました。コインに『超高速で不規則に逃げ回る自律型回避AI』が搭載されました。現在のゲーム難易度――『地獄級』に相当します。」


「えええええーーーっ!?」


ユーヤが叫ぶ間にも、コインたちは縦横無尽に村中を爆走していた。子供たちが手を伸ばした瞬間、ギューン!と音速一歩手前の速度で直角に曲がって回避したり、ジグザグにフェイントをかけて空へ急上昇したりする。


「な、何よこれ!全然捕まえられないじゃない!」


セレスティアが渾身のジャンプを見せるが、コインはひらりと彼女の鼻先をかすめ、小馬鹿にするように円を描いて飛び去っていく。


「うえーーん!コインが怒って逃げるよー!」


「怖いぃぃ!」


あちこちで子供たちが大泣きし始め、のどかだったミニゲームの現場は、一瞬にして超高難易度の無理ゲー地獄へと変貌してしまった。



一方、ウェーノ家の自宅の縁側。

のんびりとアインの淹れてくれたお茶をすすっていたトーヤは、広場の方から聞こえてくる爆音と子供たちの悲鳴を耳にして、深いため息をついた。


「……またノクスか……。」


「あいつ、本当に僕の《ジェネレーター》のスキルや村の自動化技術に感動したからって、勝手に仕様変更するのやめてほしいよね。職人としてもっといいシステムがあれば、導入したくなる気持ちは分からなくもないけど、加減を知らなさすぎるだよなぁ……。」


隣で同じくお茶を飲んでいたソーヤが、やれやれと首を振る。


「放置しておくのは良くなさそうだな……少し、お仕置きをしておこうか……。」


トーヤは静かに立ち上がると、広場に向けてすっと右手をかざした。


「ノクス、勝手に仕様を変更するな。――《アブソリュート・ストップ》!」


トーヤが静かに呟いた瞬間、彼の平手から、村全体を包み込むような優しくも絶対的な蒼い光の波が放たれた。


その光が通り抜けた瞬間。

さっきまで凄まじい音を立てて、超高速かつ不規則にビュンビュンと飛び回っていた赤色のコインたちが、完全にその場で「ピタッ」と動きを止めた。ノクスが仕込んだ超高性能AIごと、空間にガチガチに固定されたのだ。


監視塔のてっぺんでは、ノクスが『ガガッ……システムフリーズ。想定外の……文字通り規格外の魔力を検知……。アップデートプログラム、強制終了されました……』と、ショックを受けたようにがっくりと大きな鉄の頭を垂れていた。


トーヤはそれを見て頷くと、広場に向かって声を張った。


「よし、みんな! 魔法でコインの動きを止めたよ! 今のうちに拾っちゃうんだ!」


「わあぁ! トーヤおじちゃんありがとう!」


「動かない!これなら拾えるよ!」


子供たちが一斉に笑顔を取り戻し、地面や空中に固定されたコインを熱心に回収し始めた。



しかし、その救済措置によって、誰よりも早く、そして最も恐るべき執念で動き出した者がいた。


好機チャンス到来ーーー!!! これなら私の独壇場よ!!」


凄まじい目の輝きと共に、猛烈なダッシュを再開したのはセレスティアだった。

彼女は空中に固定されたコインを、まるで熟した果実でももぎ取るかのようなスピードで、文字通り「乱獲」していった。


「ピコピコピコピコピコピコーン!」


凄まじい連続音が村中に響き渡る。子供たちが数枚を手に取る間に、セレスティアの周囲のコインは根こそぎ消え去っていった。

そして、リィナがパンとお手を叩く。


「イベント終了です! 優勝者、セレスティア様! 獲得コイン数、ぴったり100枚に達しました!」


シーン、と広場が静まり返った。

エルフや獣人の子供たちが、一斉にセレスティアをジト目で睨みつける。


「ずるーーーい!!」


「大人のくせに本気出すなんてずるいよー!」


「王女様ずるいー!!」


子供たちからの容赦のない大ブーイングが沸き起こる。しかし、セレスティアはそんな抗議をどこ吹く風とばかりに、ふんふんと鼻を鳴らして胸を張った。


「ふふん! 勝負の世界はいつだって非情なのよ、みんな! この勝利への執念こそが、国を統べる王族に必要な資主なのよ!」


「姫様、嘘をつくのはおやめください。ただプリンが食べたかっただけでしょう!」


すかさずミーナからの鋭いツッコミが飛ぶ。ミーナは頭を抱えながら、「本当に子供相手にそこまでして……アトレイア王国の威信が、私の胃痛と共に完全に擦り切れて消滅しましたよ……。」と、深いため息をついて王女を諭した。


だが、セレスティアはまったくめげていなかった。そこへ、アインがクスクスと笑いながら、優勝賞品の特大プリンを差し出す。


「はい、セレスティアちゃん。約束の優勝賞品よ。オトナの本気、とっても素敵だったわよ?」


「わあぁ……! アインさんのプリン! ありがとうございます!」


セレスティアは目を輝かせ、子供のように嬉しそうにプリンを受け取った。

そんな大人げない王女のもとへ、リルとミラがタタタッと駆け寄ってくる。


「セルティ、すごかったね! 私たちは二人で20枚しか集められなかったよ……。」


「本当に100枚集めちゃうなんて、やっぱりお姉ちゃんはかっこいいな!」


純粋な二人の言葉に、セレスティアは感激のあまり涙ぐんだ。


「リル、ミラ……! やっぱりあなたたちは私の最高の妹だわ! よし、このプリン、後で三人で一緒に食べましょうね!」


「わーい!」


「うん……楽しみ……。」


三人が仲良く笑い合う姿を見て、ブーイングをしていた子供たちも、なんだかんだでセレスティアの底抜けの明るさに毒気を抜かれてしまったようだ。ケモ耳をパタパタとさせながら、「お姉ちゃん、ずるいけど、足はすっごく速かったな……。」と感心し始めている。


アインはそんな子供たちを優しく見つめると、みんなにウインクをした。


「みんなの分も、大きな冷蔵庫の中にちゃんとたくさん冷やしてあるからね。お片付けをしたら、みんなで一緒に食べましょう」


「「「わーーーい!!!アインおばちゃん大好きーーー!!!」」」


広場は一転して、子供たちの歓声と笑顔で包まれた。

縁側に戻ってきたトーヤは、アインが新しく淹れてくれたお茶を一口すすり、ふぅ、と息を吐き出した。


「やれやれ、今回も少し騒がしかったけど……まあ、いつも通り平和で良かったな。」


アインがトーヤの隣に腰掛け、ふんわりとした笑顔で寄り添う。


「そうですね、トーヤさん。みんな、とっても楽しそうでした。」


気付けばニ人は、いつものようにラブラブな夫婦だけの甘い世界に入り込んでおり、周囲の喧騒が全く目に入っていない様子だった。

それを見たソーヤとユーヤが、


「はいはい、ごちそうさま。」


「ノクスには、二人のラブラブ仕様をなんとかしてほしいよ……。」


と、呆れたように顔を見合わせるのだった。


ウェーノ村ののどかで、少しだけ賑やかな一日は、こうして温かく暮れていくのだった。


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