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異世界ふぁみりぃ ~のんびり異世界生活~  作者: すぱ☆たま
異世界の夏

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第77話 ウェーノ村夏祭り

肌を刺すような厳しい日差しもいくらか和らぎ、ウェーノ村を吹き抜ける風に、ほんの少しだけ涼しさが混じるようになってきていた。


長かった夏が終わりへと向かっている。そんな季節の移ろいを感じさせるある日のこと。


「あ〜……なんか、日本の祭りが恋しいなぁ……。」


「わかる~。夏と言えば祭り。あの屋台の匂いとか、お囃子はやしの音とか、無性に恋しくなる時があるよな。」


縁側で涼みながら、ユーヤとソーヤがぽつりとこぼした。異世界にやってきてチートスキルを使って充実した日々を送っている彼らだったが、ふとした瞬間に故郷の風物詩を思い出すらしい。


子供たちの背後で、その言葉を耳ざとく聞きつけたトーヤが、ポンッと手を打って満面の笑みを浮かべた。


「だったら、村の広場で縁日を開こうじゃないか!」


トーヤのその一言から、ウェーノ村のみんなを巻き込んだ一大イベント『ウェーノ村夏祭り』の準備が始まった。


言い出しっぺのトーヤの指揮のもと、まずはソーヤが自身のスキルをフル稼働させる。

広場にはあっという間に木組みの屋台が立ち並び、さらには日本の祭りに欠かせない「わたあめ器」や「かき氷機」といった専用機材まで精巧に創り出してしまった。


それに負けじとユーヤも召喚スキルを発動する。色とりどりの水風船ヨーヨーやスーパーボール、さらにはどこの世界線から持ってきたのか、見覚えのあるアニメキャラクターやヒーローのお面まで大量に召喚し、屋台の景品としてずらりと並べた。


着々と屋台の準備が進む中、


「よし、会場の雰囲気はこんな感じでどうかなぁ?」


そう言いながら、ソーヤが次に作り上げたのは、広場の中央にそびえ立つ立派な盆踊りのやぐらだった。周囲には紅白幕が張り巡らされ、連なった提灯の暖かな明かりが村を幻想的に照らし出し始めていた。


しかし、ウェーノ家の祭りはこれだけに留まらなかった。なんとソーヤがスキルを駆使して、村人全員と招待客分の『浴衣』も用意したのである。大人から子供まで、派手なデザインから質素なものまで、ありとあらゆるバリエーションの浴衣が準備されていた。もちろん、『草履』の準備も忘れないのが完璧主義のソーヤである。


この世界には着物の文化が存在しないため、初めて袖を通す涼しげで美しい和装に、村中が大興奮に包まれていた。


この頃には、セレスティアとミーナも村に到着して、さっそく浴衣に着替えていた。ウェーノ家を始め、リル、ミラ、リィナに、ミカエル、ルシファーも浴衣に着替えて準備万端。


着替えを終えたアインたちは、さっそく飲食屋台の準備に取り掛かる。アインは、リル、ミラ、リィナの三人に手伝ってもらいながら、祭りの定番メニューである焼きそば、たこ焼き、フランクフルト、そしてりんご飴の屋台の準備をしていた。鉄板でソースが焦げる香ばしい匂いが広場中に漂い、それだけで食欲が刺激される。りんご飴特有の甘い匂いに釣られて、早くも子供たちが屋台の前に集まり始めていた。



あらかたの準備が整い、日が落ち始めると、屋台の提灯にも灯りがともり、いよいよウェーノ村の夏祭りが開幕した。


ウェーノ家だけではなく、村の各種族も、それぞれ自分たちの特色を活かした屋台を出店しており、会場はかつてないほどの賑わいを見せていた。


エルフ族とトレント族は合同で、美しい自然の魔法を活かした「花飾りの屋台」を出店。

行き交う人達がみな頭に色とりどりの花冠を着けて行き交っていた。


マーメル族は、水を張った巨大な桶で独自の「人魚すくい(※本当の人魚ではなく、可愛らしい水の精霊の魚)」を出店し、子どもたちの人気を集めていた。子供たちは「僕は三匹すくったよ!」「私は一匹しかすくえなかった……。」と一喜一憂しながら、みんなで楽しんでいた。


エーテル族の屋台では、彼らの魔力を込めた「光るブレスレット」が幻想的な輝きを放ってた。みんなが腕につけたり、足につけたりして、人々が歩くたびに、さまざまな色違いの光の輪が宵闇のあちこちに美しく浮かんでいた。


オートマト族は精密な技術を活かした「電子銃射的」というハイテクな屋台で男たちの闘争心に火をつけていた。通常の射的とは違い、銃からレーザービームが出て、景品を覆っているカプセルを壊せば賞品ゲットなのだが、レーザーの出力が弱いとカプセルを壊せず、逆に強すぎるとカプセルごと景品が落下してしまうので、狙いだけではなく、絶妙なレーザーの出力調整の難しさも相まって、みんながムキになって何度も挑戦を繰り返していた。


そしてどの屋台よりも一際大きな歓声と熱気が立ち込めているのが、ドワーフ族と竜人族の合同屋台であった。「漢の鉄板焼」と豪快に書かれた看板の下で、これでもかという巨大な肉が豪快な炎と共に焼き上げられていた。その匂いに釣られて、ドワーフ族や竜人族、獣人族が、酒を片手に押し寄せ、ほろ酔いで気分よく巨大な肉の塊にかぶりついていた。



広場のあちこちからは、初めて見るウェーノ家の屋台料理に対する驚きと歓声が上がっていた。

特に子どもたちには、見た目も可愛いりんご飴と、甘くて不思議な食感のわたあめが大人気だった。


そして、それはリルとミラも同じだった。


「ん〜っ。 これ……お口の中でふわって消えちゃう……。 まるで雲を食べてるみたい……!」


リルは顔より大きなわたあめをちぎって口に運び、目を丸くして感動している。

隣では、ミラが真っ赤なりんご飴を両手で持ち、どこからかじればいいのか分からずに「あむっ、あむっ」と表面を舐めたり軽く噛んだりして、少し食べにくそうに悪戦苦闘していた。口の周りが真っ赤になっている。


そんなニ人を見て、またしてもセレスティアのテンションが上がる。


「なんて可愛いんでしょう、ニ人とも! 浴衣も超似合ってるし、やっぱり妖精に違いないわ!」


「絶対似合うから、今度はエルフ族の花飾りを見に行きましょう! そして、その次はエーテル族のブレスレットね。」


ニ人をもっと可愛くしたいセレスティアは、リルとミラの意見は聞かず、あちこち連れ回すのであった。



そんな中、少し離れた屋台の影でコソコソと動く不審な二人組の姿があった。


「おい、この『ふらんくふると』という肉、めちゃくちゃ美味いぞ!」


「こっちの『たこやき』とやらも絶品だ。外はカリッと、中はトロッと……んんっ、熱いっ!」


顔を隠すようにお忍びでやってきて、美味しそうに屋台の飯を頬張っているのはレオニスとオルディナスだった。ニ人ともこっそり祭りを満喫しているようであったが、その至福の時間は長くは続かなかった。


「……そんな格好をして何をしておる? レオニス王に、オルディナス王よ。」


背後から急に声をかけられ、ビクッと肩を揺らすニ人。そろ~りと振り返るとそこには、浴衣姿の黒竜王アルグレオスと赤龍妃エルヴァリアが涼やかに立っていた。


「こ、これはこれは、アルグレオス王にエルヴァリア王妃。本日もご機嫌麗しゅう。」


「べ、別にやましいことは何もなく……。わ、我らは、視察の一環でこの村に来ていて……。」


しどろもどろになりながら言い訳を並べようするニ人を遮り、


「そのような格好で、従者も付けず視察とは、地上の国の視察は変わっておるな。」


アルグがニヤリと笑いながらニ人をからかう。それに対して、


「あら? そういうあなたも公務を放り出して祭りに参加してるのだから、お二人とそう変わらないのでは?」


とエルに鋭くツッコまれ、「むぐっ」と黙り込むアルグであったが、


「ま、まぁ、なんだ。せっかく来たのであれば、浴衣とやらに着替えて、楽しむほうがよかろう?」


と、ごまかしながら、どうせなら一緒に祭りを楽しもうとニ人を誘うアルグであった。



一方、ミカエルは、焼きそばにたこ焼き、フランクフルトに綿あめ、それにりんご飴まで、見たことのない食べ物をコンプリートしていた。両手いっぱいに抱え込み、持てないものはルシファーに持たせて、祭りを堪能していた。


「どの料理も今まで食べたことのない味で、いつも食べてるアインさんの料理とは、また違ったおいしさがあるわね。ルー。それはすべて私のだから、勝手に食べちゃダメよ!」


ミカエルに念押しされ、ルシファーは深いため息をついた。


(いくらなんでも食べ過ぎだろう……。普段もアインの料理を大量に食べているし、海でも思ったが、ミカエルは最近少し太った気がする……。もちろん、そんな事を言えば、何をされるか分からんから、間違っても口には出せんが……。)


『雄弁は銀、沈黙は金』の言葉通り、不必要なことは言わず、静かに耐え続けるルシファーであった。



ほうぼう駆けずり回った挙句、かき氷の屋台で何とかセレスティアを見つけたミーナが息を切らしながら駆け寄る。


「王女……様。ようやく……見つけました……。」

「ミーナ、見て! これ! 冷たくてイチゴの味がしてすごく美味しい!口に入れたらすぐに溶けていくらでも食べれ……あ、あ、痛たたたた! 頭がっ!」


「王様!? 大丈夫ですか、一体どうされたのですか!?」


「セルティ! 大丈夫……?」


「頭が痛いの?」


初めて食べるかき氷の触感とそのおいしさに、一気に掻き込んだセレスティアが、キーンとくる頭痛に涙目になっていた。リルもミラも心配そうに見守り、ミーナが慌てふためいて背中をさすっていた。



その頃、クロとハクは、火傷しそうなほどの熱々のたこ焼きをものともせず、「ハフッ、ハフッ」とご機嫌な様子で尻尾を振りながら食べていた。


そして、それだけでは満足できず、「漢の鉄板焼」の巨大な肉もかぶりつく。焼きそばをペロリと平らげ、フランクフルトを一飲みにする。デザートとして、かき氷を食べるもセレスティア同様、一気に搔き込み頭がキーンとなって、仲良くニ人で転げ回っていた。


その隣では、自分と同じ形に興味を持ったのか、なぜかモフがたこ焼きの周りをコロコロと転げ回っていた。



「いやあ、やっぱりお祭りの屋台料理は最高だね!」


「ああ。異世界に来てまで、こんな完璧な夏祭りが楽しめるとは思わなかったよ。」


ユーヤとソーヤが懐かしい屋台料理に大満足していた。

トーヤとアインも、屋台料理を手に、久しぶりの故郷の味と雰囲気にお祭りデートの気分を味わっていた。


夜もすっかり更け、祭りの熱気も最高潮に達した頃。


やぐらの上から太鼓の音が響き渡り、ウェーノ家の面々が中心となって盆踊りが始まった。村人たちも初めて聞く奇妙なリズムに最初は戸惑っていたが、見様見真似で手足を動かすうちに、いつの間にか種族の垣根を越えた一つの大きな踊りの輪が出来上がっていた。誰もが笑顔で、夜風の中で踊り続ける。

その光景は日本で見る盆踊りの風景と見比べても、まったく遜色ない情景であった。


やがて踊りが一段落すると、夜空に「ヒュ〜〜……ドオォーーンッ!」と腹の底に響くような音が轟いた。

ダグルスがこの日のために特別に用意してくれた日本風の打ち上げ花火だ。赤、青、緑、黄金と、大輪の花が夜空に咲き乱れるたびに、広場からは割れんばかりの歓声と拍手が巻き起こった。


踊り疲れて、縁側で花火を見ていたアインは、隣に座るトーヤの肩にそっと頭を預ける。色とりどりの光のシャワーに照らされるニ人の空間は、綿あめよりも甘い甘い空気が流れていた。


打ち上げ花火が終わると、今度はユーヤが召喚した「手持ち花火」の出番だ。

子どもたちは両手に色とりどりの火花を散らす花火を持ち、キャッキャとはしゃぎながら広場を駆け回っている。片手で持ったり、両手で持ったりして、暗闇に様々な光の軌跡を描いていた。


そして、祭りの締め括り。

先ほどまでの賑やかさが嘘のように、村中がシーンと静まり返り、それぞれがチリチリと儚く燃える手元の線香花火を見つめていた。小さな火の玉が落ちないように息を殺し、火花が散るその僅かな時間に、去り行く夏の余韻を重ね合わせる。


子供たちは誰が一番長く消さずにいられるか競い合っていた。

その静かな余韻の中、


「……いい夏だったな……。」


誰かがぽつりと呟いたその言葉に、誰もが静かに頷いた。


それはウェーノ村にやってきた新しい季節の匂いと、確かな絆を感じさせる、忘れられない夜だった。


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