第70話 リザレクション
「さて……」と言って、ミカエルは、人目のつかない広場の一角にウェーノ家とルシファーを呼び集め、深刻な面持ちで口を開いた。
「――結論から言いますが、まず、完全なる死者の蘇生が可能な『リザレクション』は、私一人では行使できません。リザレクションを……、いえ、正確には疑似的にリザレクションを行使するためには、ウェーノ家のみなさんのお力が必要なのです。」
「私たちは何をすればよいのですか?」
トーヤが真剣な顔で問う。一方でルシファーは神妙な面持ちをしていた。
「リザレクションは私のスキルツリーにも乗っていない死者が蘇る人知を超えた神聖魔法ですよね? そんな神がかりな魔法に私たちの力が役に立つのでしょうか? そもそも、疑似的に行使するとはいったいどういう……。」
困惑しながら問いかけるトーヤを遮って、ミカエルが「そうですよね……。」と話し始めた。
「みなさんが困惑されるのも当然です。そもそも、リザレクションとはトーヤさんのおっしゃる通り、神のみが行使できる絶対的な奇跡の魔法です。何度も言うようですが、大天使である私であっても、そのような魔法を単独で行使することは不可能です。……というか、そもそも神の許可がおりません。」
ミカエルは少し考えるような仕草をして話を続ける。
「そこで、あなたたちウェーノ家四人の規格外なチートスキルを掛け合わせることで、擬似的にリザレクションの効果を再現しようと考えています。」
そう言って、ミカエルは全員の顔を見渡し、前代未聞の術式の手順を説明し始めた。
「まず、最初はユーヤくん。君の≪ゲームマスター≫で黄泉の国へつながるポータルを開けてもらいます。」
「えっ!!」
ミカエルの予想外の言葉にユーヤが素っ頓狂な声を上げた。
「僕のスキルが繋げられるのは、ゲーム世界だけなんだけど……。しかも、黄泉の国って死者の国でしょ? そんなの絶対無理だよ……。」
自信なさげに呟くユーヤに、ミカエルがそっと優しく話しかける。
「ユーヤくん。あなたの≪ゲームマスター≫が繫ぐことのできる世界は、ゲームの世界だけじゃないわ。その気になればこの世界のどんな場所でも……ううん、別の世界にだって繋げることができるわ。だって、ゲームの世界だって、元の世界にあったものじゃない?」
「言われてみれば、そうかも。なんとなくできるような気がしてきた!」
ミカエルに褒められ、何となくできそうな気がしてくるユーヤであった。
ユーヤが自信を持ったところでミカエルが続ける。
「次に、ルーがその強大な魔力で黄泉の国へ干渉し、死者の魂をこちらへ呼び戻します。」
「任せておけ。必ずや、失われたすべての魂を深淵から引き上げてみせよう。」
かつての威厳を取り戻したかのように、ルシファーが力強く頷く。
「その後は、それぞれの魂の情報から、ソーヤくんが《ジェネレーター》を使い、死者が戻るための『元の肉体』を寸分違わず構築してね。」
「なるほど。魂から個人情報を読み取って、それをもとに肉体を再構築すればいいんだね。任せて!」
ミカエルの言葉に、それぐらい朝飯前といった様子で、頼もしく親指を立てるソーヤ。
「そして、アインさんが《ネイチャー・リンク》を使って、ソーヤくんが作った肉体と魂をリンクさせます。」
「わかりました。みんなの肉体と魂の声をちゃんと聴いて、間違えないように繋ぎますね。」
ミカエルはアインの返事に頷きながら、自分の役割についても説明する。
「そこまで完了して初めて、私が神聖力を用いて肉体に魂を完全に定着させ、安定させることができます。……ですが、これほど複数の強大な力が交差する儀式です。少しでもバランスが崩れれば大暴走を引き起こしかねません……。」
ミカエルはそこで言葉を区切り、最後に残った一人に視線を向けた。
「トーヤさん。あなたは全体のすべての事象を監視し、様々な魔法を駆使して暴走を防ぎ、術式全体のバランスを取り続けてください。」
「わかりました。何としてもこの術式が成功するよう全力を尽くします。」
トーヤは苦笑しながらも、その目には頼もしい光が宿っていた。
「さて……ここからが最も重要な話です。」
ミカエルの声が一段と低く、張り詰めたものになる。
「この術式において、最も重要かつ危険なのは、黄泉の国と繋がるルーの役割です。一つ間違えれば、魂を呼び戻すどころか、逆にあなた自身が黄泉の国に引きずりこまれることになります……。」
「…………。」
「そうなってしまえば、いかにあなたでも永遠にこちらの世界には戻ってこられません。さらに恐ろしいのは、術者である私や、術式を形成しているウェーノ家の四人も巻き込まれ、連鎖的に黄泉の国へ引きずり込まれる可能性があるということです。」
ミカエルは深く息を吸い込み、全員の顔を真剣な表情で見渡した。
「これは命賭けの術式になります。少しの綻びが、全員の永遠の死を意味します。……それでも、やる覚悟はありますか?」
重い沈黙が場を支配する——かと思われた。
「じゃあ、さっそくポータルを開けるね!」
さっそくユーヤがスキルを発動しようとしている。
「えっ!」
ユーヤの想定外の返答に、ミカエルが一瞬固まっていると、
「まだみんなの準備ができてないだろ! まずは、みんなの準備できてからにしろ!」
今度はソーヤがユーヤを制止して、自分もスキルの発動準備をする。
「今日の晩ご飯はハンバーグにしよっか! みんながんばろうね~。 」
そんな子供たちの様子を見ながらアインはニコニコしている。
「じゃあ、早く終わらせて、久しぶりの我が家でおいしい夕飯を食べよう!」
トーヤはまるで街中で買い物でもしているかのようなテンションでみんなに笑いかける。
そして、最も危険な役割を背負うはずのルシファーまでもが、さも当たり前といった様子で答える。
「ミカエルよ。我も含めて、ウェーノ家の者たちも覚悟は決まっているようだ。時間が惜しい。早く始めよう。そして、絶対の成功させよう。」
「…………。」
悲壮な決意を促したはずのミカエルは、一切の躊躇もなく儀式を急かす五人を前に、ポカンと口を開けて固まってしまった。
(この人たち……本当に今の状況をわかっているのかしら……?)
誰一人として失敗を疑わず、死の恐怖すら抱いていない。
「はぁ…………。」
ミカエルは自分一人がまじめに考えていたのかと深いため息を吐いた。
「分かりました……。あなたたちに常識を説いた私が馬鹿だったわね。」
呆れ果てながらも、ミカエルの口元には信頼に溢れた笑みが浮かんでいた。そして、
「あなたを信用して光の首輪を外すけど、暴れたり、逃げたりしないでね?」
と言いながら、ルシファーの光の首輪を外す。ルシファーも呆れながら答える。
「我を見くびるな。この期に及んでそんなことするはずがないだろう。」
ルシファーの覚悟に満足したミカエルは、茶目っ気たっぷりの笑顔で付け加える。
「もし、今回のことがバレて神の天罰が下ったら、みんなで一緒に謝ってね♡」
かくして、神すらも想定外であろう、規格外な面々による前代未聞の蘇生儀式が幕を開けたのである。




