番外編 その日、ギルドは静かに壊れた
リベルタス冒険者ギルド 受付担当・エルフ族 ミレイアの場合
その日は、いつも通りの朝だった。朝一番に入ってきたのは、常連の剣士。次に薬草採取の依頼を終えてきた見習い魔法使い。いつものように特に問題もなく、平和で、少し退屈な午前中――の、はずだった。
「……あれ?」
ギルドの扉が開いた瞬間、空気が変わった。まず視界に入ったのは、整った身なりの男性。
次に、にこやかな女性。そして、その後ろに、二人の子供。
――家族連れ?
ここは冒険者ギルド。酒臭い戦士と血気盛んな若者が夢とロマンを追い求めて集まる場所だ。決して、家族で来る場所ではない。
そして決定打。女性の肩の上。
「…………。」
小さな、黒い、翼のある生き物。
(……え?え?まさか……、ドラ、ゴン……?)
一瞬、脳が現実を拒否した。
「え、え~と……本日は、どのようなご用件で?」
声が裏返らなかっただけ、自分を褒めたい。
「冒険者登録をお願いできますか?」
男性が、ごく普通に言った。しかも、子どもも含めた全員登録したいと…。
――あ、無理。
――情報処理が追いつかない。
だが私は受付職員。逃げることはできない。
最初に測定したのは、父親らしき男性。
(落ち着いて、いつも通り……。)
水晶に手をかざした瞬間、
――ギィィ……。
水晶が、まばゆい光とともに、音を立てて悲鳴を上げた。
(待って待って待って待って。)
表示されたステータスを見て、私は一瞬、文字が読めなくなった。
(魔法の全属性がSSって何?一つでも国家魔導士級なのに?え? 時空? 時空って何???)
「で、では、登録手続きを進めさせていただきますね。」
返答に、声が震えたのは許してほしい。
次は、母親であろう女性。正直、もうすでにこの時点で、早々に心が折れかけていた。
女性が水晶に手を触れた瞬間、文字が浮かび上がったかっと思うと、すぐに消え――代わりに光が走る。
【竜の加護】
【魔獣の加護(多数)】
(……多数?)
「……テイマー、の方でしょうか?」
「はい。牛と羊とニワトリと……」
(家畜じゃない……!?)
肩のドラゴンが「キュイ」と鳴いた瞬間、私は悟った。
あ、これ、世界観が違う人たちだ。
兄であろう少年は、さらに別方向におかしかった。技術職員が応援に来て、全員が固まった。なぜかドワーフたちも興味津々で集まってきた。
(創作SSS?なにそれ?初めて見る……。)
その後は、技術職員とドワーフたちに揉みくちゃにされていた。
最後の男の子。
「ユニークスキル……ゲーマー?」
……ゲーマー?
(職業? 趣味? スキル?)
説明を聞いても、理解できなかった。理解できなかったが――本能が叫んでいた。
(これは理解しなくていいやつだ。)
そこで、私は考えるのをやめた…。
ギルドマスターに状況を説明すると、裏で緊急協議が始まった。
結論は満場一致。
「普通の冒険者として登録してはいけない。」
できあがったのは、前例のない【非戦闘・特別冒険者枠】だった。
ギルドマスターがそれを家族に伝えると、彼らはほっとした顔で言った。
「それでお願いします。」
一番小さな男の子だけが、少し残念そうだったのは、気のせいだろう。
家族の反応を見て、私は確信した。
――この人たち、冒険者としてではなく、本気で平和に暮らすつもりだと。
登録が終わり、冒険者証を受け取り、家族がギルドを出ていく。去り際、肩のドラゴンが私の方を見て、
小さく手を振った。
「……キュイ。」
(かわいい)
……かわいい、が先に出てしまった自分が、少し怖い。静かになったギルドで、私は深く椅子に座り込んだ。
「……今日の報告書、どう書こう……。」
でも、一つだけは確かだ。あの家族がいる限り、リベルタスは、たぶん、すごく安全だ。私はそう思うことにした。




