第6話 上野家、冒険者ギルドに登録する!
ウェーノ家のリビングで、トーヤは腕を組んで考え込んでいた。
「……やっぱり、正式な身分証がないのは不便だな。」
最近は街での顔見知りも増え、リベルタスでトーヤたちの顔を知らないものはほとんどいないし、買い物にも困らなくなってきた。
しかし、不便なこともある。身分証がないため、行商人との取り引きができないのである。最近は、畑の作物が順調に育ちすぎて、家族だけでは食べきれない量が収穫できるようになっていた。余っている作物を売りに出せればと考えていたのだが、作物を売るためには、身分証が必要で、
冒険者証はお持ちですか?
と、必ず聞かれるのである。どうやらこの世界の身分証は、冒険者証のようである。
「冒険者かぁ……。」
トーヤの独り言に、ソファに転がりながら、漫画を読んでいたユーヤが目を輝かせて答えた。
「冒険者!?討伐とか行くの?魔物バッサバッサ?」
「やらない。」
トーヤが即答で返す。
「そもそも、危ないことをするために登録するわけじゃない。」
「身分を証明するのためだ。」
「じゃあ、登録だけして、のんびり依頼を選べばいいのね。」
にこにこと微笑むアインの肩で、クロが「キュイ。」と小さく鳴いた。
「討伐はともかく、収穫やお手伝いのような依頼なら受けてもいいかもな。」
「とりあえず、ギルドに行って、相談してみよう。」
こうして、ウェーノ家は冒険者ギルドへ向かうことになったのである。
◆
冒険者ギルドは、今日も賑やかだった。剣と鎧のぶつかる音、冒険者たちの喧騒、酒の匂い。歴戦の猛者たちが集まる場所に、完全に場違いな一家が現れた。
「……家族連れ?」
「子どもがいるぞ?」
「え、あれって本物のドラゴン?」
周りがざわついているのも気にせず、受付に近づいていくウェーノ一家。受付の女性に声をかけると、女性が訝しげに答えた。
「えーと……本日は登録でしょうか?」
「はい。家族全員でお願いします。」
ざわっ、と空気が揺れた。
「えっと、お子様もでしょうか?」
[はい。4名分お願いします。もしかして、子供は登録できなかったりします?」
トーヤが困っていると、
「い、いえ。できないことはないのですが、あまりいらっしゃらないもので、つい…。」
「登録自体は可能なので、能力測定を行います。順番にこちらの測定水晶に手をかざしていただけますか?」
受付職員に言われるままに、最初にトーヤが水晶に手をかざす。
すると、水晶がまばゆい光を放ち、空気が震えた。測定結果が水晶の上にホログラムのように表示された。
【魔法適正:炎:SS 水:SS 風:SS 土:SS 光:SS 闇:SS 時空:SS】
「……あ、あのぅ~。」
受付職員が震えた声で確認する。
「これ……王宮魔術師級です……。」
「そうなんですか?もしかして、登録できないですか?」
「いえ。そういうことではなく、測定結果が異常でして…。」
「そうなんですね。まぁ、冒険者証がもらえるのであれば、なんでもいいです。」
「で、では、登録手続きを進めさせていただきますね。」
受付が狼狽していることは気にもとめず、本人は登録してもらえることに安堵している。
次に、アインが水晶に手をかざすと、触れた瞬間に文字が表示され、そしてすぐに消えた。
「……?」
「……???」
しばらくして、浮かび上がったのは、
【竜の加護】
【魔獣の加護(多数)】
受付職員が驚きを隠せず、
「え?」
「……テイマー、の方でしょうか?」
「加護、多すぎませんか?」
という職員の問いに、
「牛と羊とニワトリと、クロちゃんくらいだけど……?」
「たまに、小鳥たちとのお話するから、あの子たちも入っているのかしら?」
とアインが答える。そのアインの言葉を受けて、肩の上でクロが誇らしげにエッヘンと胸を張っていた。
ソーヤの番では、技術職員やらドワーフが集まってきて、ソーヤを取り囲んでいた。
「創作適性SSSって……。」
「こんなの見たことないぞ……。」
「兄ちゃん、うちの工房で働かないか?」
本人よりも周りの大人たちの方が大騒ぎしている。
「いろんな物作ったり、壊れた道具とかを直したりしてるだけなんだけど…。」
と、当の本人は、大したことでもないと首をかしげていた。
最後にユーヤの結果だが、
【ユニークスキル:ゲーマー】
「……ゲーマー?」
「えーと……ゲーム?で遊ぶ、のですか?」
「うん。遊ぶ。」
「あと、ゲームから召喚できるよ。」
とあっけらかんと答えるユーヤに、受付職員は頭を抱えていた。
受付職員では判断ができないとのことで、ギルドの最高責任者であるギルドマスターが現れた。
「……結論から言います。」
「皆さんを、通常の冒険者として登録するのは……危険すぎます。」
「えっ!それじゃあ、冒険者証はもらえないんですか?」
「それは困ります。そんな大したことはないと思いますし…。」
「大ありです!」
「こんな規格外の能力で、討伐依頼やダンジョン攻略されると、他の冒険者の仕事がなくなります!」
「そもそも、SSの魔法なんて一瞬でこの街が壊滅する威力なんですよ!」
「竜の加護なんてのも前代未聞ですし…。」
「でも、登録できないと冒険者証を発行してみらえないのでは…。」
「それは安心してください。その代わりと言っては何ですが、【特別冒険者枠・非戦闘専門】として登録させていただきます。」
「討伐義務なし。依頼は生活支援・修理・護衛などとなりますが、いかがですか?」
「「「それ、理想です!」」」
ユーヤ以外の家族が声をそろえて、答えた。
こうして、無事に冒険者登録を終えたウェーノ家は、さっそく掲示板に貼ってある依頼を物色する。それぞれが、
『掲示板の修理』や『倉庫の整理』、『水汲み場の改善』など、討伐以外の依頼もたくさんあった。
「……平和だね。」
「いい依頼だな。」
「うん、これでいい。」
「僕はモンスター討伐してみたいな…。」
と、それぞれの感想を口にしている。依頼は改めて受けることにして、ギルドを出ると、街にはすでに夕日が差し込んでいた。
「今日の晩ごはん、何にする?」
「畑の野菜たっぷりシチューかな。」
そんな会話をしながら、
ウェーノ家の“戦わない冒険者生活”が、静かに始まった。




