第5話 上野家、祭りに参加する!
リベルタスに初めて訪れてから、すでに1ヶ月が経とうとしていた。遊也のスキルで金のなる木を植え、ダルを得ることに成功した上野家は、街での買い物にも困らなくなっていた。最近では、一週間に一度のペースでリベルタスに買い物に行っている。街の人たちとも親交が深まっており、最近では家に遊びに来る人たちも現れ始めた。ちなみに、この世界では、日本語の発音は難しいらしく、ウェーノ・トーヤ、アイン、ソーヤ、ユーヤと呼ばれていいる。
「よし。今日もリベルタスに行くか。」
「「「はーい。」」」
「キュイ。」
十夜の呼びかけに、みんなが答える。
いつものように、クロの背に乗って移動する。
いい加減、受付のエルフのお姉さんも上野家にも慣れたようで、最近はクロも撫でれるようになってきた。
いつものように買い物をしていると、なにやら広場の方がにぎわっているので、確認しに行ってみることにした。
すると、そこには大弾幕が張られており、今夜は年に一度のリベルタス生誕祭と書かれてあった。
(そういえば、この前来た時に、八百屋のおじさんがそんなことを言ってたな。)
「よし。せっかくだから、今日はみんなで祭りに参加して帰ろう。」
という十夜の提案に、家族みんなのテンションが上がる。
「やった~! 祭りだ~!おいしい屋台はあるかなぁ~。」
「異世界の祭りかぁ~。」
「楽しみだねぇ~。」
「とりあえず、夕方までに買い物を済ませよう。」
と、それぞれ必要な物を買いに走った。
◆
夕方になり、広場に向かうと、光の提灯が浮かび、花の香りが漂い、音楽隊が軽やかに演奏していた。エルフ族、ドワーフ族、獣人族、竜人族に妖精族まで、今まで街で見かけたことのない種族まで集まっていた。 屋台も普段街で見かけるものとは違っており、出店のような屋台が所せましと並んでいた。
「見たことない食べ物だらけだ!どれもおいしそう!」
「見たことない種族もいる!あれは竜人族かな⁉」
と子供たちが周りをきょろきょろしていると、獣人族の子どもたちが駆け寄ってきて、
「ユーヤ兄ちゃん!一緒に魚の串焼き食べよー!」
まずは、遊也が獣人族の子供たちに連れ去られた。
「竜の加護を授かりし、アイン様。お目にかかれて光栄です。」
と、アインに花冠をプレゼントしながら、妖精族がアインの周りを取り囲んでいた。
「ありがとう~。すごくきれいな冠。大切にしますね。」
その様子を見ていたトーヤのところには、エルフの魔法音楽団がやってきて、
「トーヤ殿。貴殿の魔法は美しく壮大であると仲間から聞いておりまする。」
「ぜひ、われらと一緒に魔法演奏をお願いできぬか?」
「いやいや。私なぞにそのような大役は務まりませんよ…」
と断りの言葉を口にしている間にも、ステージに引っ張り上げられるトーヤ。
渋々ながらも、卒なく演奏用の魔法を行使していく。
それによって、会場も大盛り上がりである。
◆
一方、屋台エリアでは、ソーヤが珍しい鍛冶道具を見ていたところ、ダグルスに声をかけられていた。
「おぉ坊主! この前の火炉の礼だ! 酒場に来い!」
「いや、僕、未成年なんでお酒飲めないです…。」
「ジュースもあるから心配するな!」
と、ソーヤの意見は無視して、酒場に強制連行する。酒場では、大勢のドワーフたちが酒を飲み交わしていたが、ソーヤが現れると、待ってましたとばかりに、みんなでソーヤを取り囲んだ。
「坊主! この工具どう思う⁉」
「この金具の加工方法はどうだ⁉」
「今度うちの火炉も直してくれよ!」
終わらない職人トークに巻き込まれ、ソーヤはヘトヘトになっていた。挙句の果てには、職人たちの道具の修理も頼まれ、あまりの勢いに断り切れず、その場にいた数十人の道具を修理する約束までしてしまったのである。
ソーヤにとって、ドワーフとの会話は興味深く、新たな創作のアイデアにつながりそうな話もたくさんあるのだが、地球と比べるとまだまだ知識や道具が発展していない様子だった。
(せっかくの技術力がもったいないなぁ~。でも、あまり超越した知識や道具を伝えるのも良くないよなぁ~。)
(可能な範囲で徐々にアドバイスしていけばいいかぁ…。)
(あとは、道具を修理するときに、少しずつ性能を強化していけば、自然と知識も向上していくかな?)
と、今後の算段を付けるソーヤであった。
◆
ひとしきり、お祭りを楽しんだウェーノ家は、そろそろ祭りのフィナーレが近づいているということで、再び広場に集まっていた。アイン以外が少しぐったりしているのは、気のせいではないだろう。
「お祭り楽しかったね!獣人族の子供たちもすごく喜んでた!」
「今度、ドワーフの道具を修理しなくちゃいけなくなったよ…。ダルはキッチリもらうけどね!」
兄弟たちがそれぞれに起こった出来事を話していると、一人のエルフの男性がトーヤの方に近づいてきた。
「トーヤ様でいらっしゃいますでしょうか?」
「はい。そうですけど…。何か御用でしょうか?」
「あの~。実は、お願いがございまして…。」
「どうしたんですか?」
「非常に申し上げにくいのですが、フィナーレのために準備していた花火が先日の雨でダメになってしまったようで、打ち上げできないということが分かりまして…。」
「そうなんですね。それで?」
「そこで、トーヤ様に魔法で花火を上げていただけないかと思いまして…。」
「・・・・」
「い、いえ。難しいようであれば、け、結構です。今年はフィナーレなしで終わらせますので。」
「ふぅ~。しょうがないか…。分かりました。やりますよ。」
「えっ!ほ、本当ですか!本当にご協力いただけるのですが?」
「はい。どこからどう上げる予定だったか教えていただけますか?」
「もちろんです!こちらにお願いします。」
「やっぱり、父さんは困っている人を放っておけないよね。」
「父さんは優しいよね~。」
と誇らしげな兄弟とは反対に、
「さっきも演奏で結構魔法使ってたのに、さらに花火を上げるために魔法を使うなんて、大丈夫かしら?少し心配だわ…。」
珍しくアインが本気でトーヤを心配していた。
「大丈夫だよ、母さん。魔法使うには、本来はMPっていうのを使うんだけど、父さんの場合はスキルで魔法を使っているから、MPは使わないって言ってた。」
「だから、いくら魔法を使っても問題ないって。多少疲れるとは思うけど…。」
心配しているアインに、ソーヤがトーヤのスキルを説明すると、
「そうなの?じゃあ、安心ね。だったら、花火を堪能しないとね♪」
とさっきまでの心配は何だったのかと思うほど、切り替えのアインであった。
◆
トーヤは、広場の噴水の上に浮かんでいた。本来は、噴水の周りから花火を上げる予定だったのだが、どうせならより見やすい方がいいということで、少し高い場所から花火を打ち上げることにしたのである。
本来、この世界に花火を発生させるような魔法はないのだが、そこはトーヤが機転を利かせて、火魔法を中心に風魔法や土魔法、水魔法なども組み合わせて、色とりどりの花火を打ち上げていく。
トーヤが花火を打ち上げている最中、
「僕も手伝うよ!」
と言って、ユーヤがスキルで花火を召喚してくれたので、それを風魔法で打ち上げ、火魔法で着火させる。それはそれで、魔法で作った花火とは違って、昔ながらの日本の打ち上げ花火といった様相で、異世界の住人たちは、初めて見る日本風の花火に心を奪われていた。ウェーノ家のおかげで、今年のお祭りは例年以上に大盛況で幕を閉じたのであった。
◆
祭りが終わり、家族はゆっくり家路についた。城門を出たところで、クロが元の大きさになり、その背中にみんなで乗り込む。満天の星空を眺めながら、
「今日はめっちゃ楽しかったね~!」
「俺はドワーフに捕まって疲れたけど……それはそれで楽しかったよ。今度お小遣い稼ぎもできるしね。」
「みんなが喜んでくれるなら、来た甲斐はあったな。」
「また来年もみんなで行こうね〜。」
「キュアァ!」
「クロちゃんが、来年はお店だしたいって。」
「「「さすがにそれは無理だよ~。」」」
家族の笑い声が夜空に響き、異世界の温かい夜は静かに更けていった。




