表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界ふぁみりぃ ~のんびり異世界生活~  作者: すぱたま
異世界転移

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
4/163

第4話 上野家、街に行く!

「あはははは! 楽しいー! もっとスピード上げて、クロ!」


「ひゃあぁあ! 早すぎる! 止めてくれー! 落ちる、絶対に落ちるって!」


翌朝、十夜はまたしても上空から響き渡るけたたましい絶叫と歓声で目を覚ました。


(今度は一体何事だ……。)


溜息をつきながら寝室を出て庭へ向かうと、そこには元の雄大な巨体に戻ったクロが、背中に子供たちを乗せて大空を縦横無尽に旋回している光景があった。


遊也は風を受けながらテンションMAXでバンザイしていたが、創也は生きた心地がしないといった様子で、クロの背中に必死にしがみついている。

もっとも、創也の《クリエイター》によって、クロの背中には人間が絶対に落ちない安全ベルト付きの特製シートが装着されていて、危険は皆無だった。


「怪我の心配はなさそうだな……」


十夜はそっと胸を撫で下ろし、朝食の準備を手伝うために静かに家へと戻った。



サクサクのトーストと新鮮な牛乳で朝食を終え、十夜は家族をリビングに集めて本題を切り出した。


「クロの飛行能力があれば、これまでの徒歩とは比べ物にならない広範囲の探索が可能になる。そこで今日は、少し遠出をして周辺の状況を本格的に調べようと思う。」


十夜は表情を引き締めた。


「しかし、何があるか分からない。危険を伴う可能性もあるため、まずは私一人で行く。みんなはバリアの外に出ず、家で待機していてくれ。」


十夜が身支度を始めようと席を立つと、一斉に大ブーイングが沸き起こった。


「ずるい!僕も絶対に行く!クロに乗って遠出したい!」


「そうだよ、父さんだけずるいって!俺たちだって戦えるし、素材の採取ができるかもしれないじゃん!」


「そうよ、あなた。私も一度、クロちゃんの背中に乗って大空をドライブしてみたいわ。」


愛までがピクニックにでも行くかのような笑顔で参戦してくる。


「いや、しかしだな、未知のモンスターや言葉の通じない好戦的な種族がいる可能性も……。」


「「絶対に一緒に行く!!」」


「一緒に行きましょう? あなた♡」


三人の凄まじい熱意と、愛の断固たる(しかし可愛い)おねだりの圧に押され、十夜は早々に白旗を上げた。


「……はぁ、分かったよ。全員で行こう。ただし、私の指示には絶対に従うこと!」


「やったー!」


そうと決まれば上野家の行動は早かった。

愛は一瞬で家族全員分の特製サンドイッチ弁当をこしらえ、子供たちはリュックにお気に入りの水筒や道具を詰め込んでいる。

その姿は完全に週末の行楽そのものだった。

十夜がクロのシートに乗り込み、全員の安全を確認した後、空気抵抗と突風を完全にシャットアウトする《エアー・バリア》を周囲に展開した。


「よし、出発だ。クロ、頼んだぞ!」


「キュイィーー!」


クロが力強く地面を蹴り、巨大な翼を羽ばたかせると、上野家を乗せた巨体は一瞬で雲の上へと突き抜けた。



「まぁ、素晴らしい眺めねぇ。雲がいろんな形してるわね。」


「サイコー!地球の飛行機より何倍も気持ちいいや!」


「……バリアのおかげで風が来ないから、なんとか耐えられるな……。」


三者三様の感想を言い合いながら飛行すること約30分。

いくつかの険しい山脈を越え、広大な大草原を通り抜けた先、小高い丘の向こうに、そびえ立つ壮大な石造りの城壁が見え隠れし始めた。


「……街があるな。それもかなり規模が大きいそうだ。」


十夜は目を細めた。


「このままクロの巨体で乗り付けたら、街中が大パニックになりかねん。少し離れた街道の物陰に降りて、そこからは歩いていこう。クロ、あの森の裏手に降下してくれ。」


「キュアァ。」


見事なコントロールで着陸したクロは、十夜の指示に従って一瞬で可愛い肩乗りミニサイズへと変形した。

十夜は家族全員に、あらゆる言語を完璧に理解し発動できる《トランスレーター》の魔法を付与し、いざ城門へと歩き出した。

20分ほど歩くと、巨大な鉄製の門構えと、それを見守る鎧姿の衛兵たちの姿が見えてきた。

門の脇には入国管理を行う受付があり、そこには長い金髪と、ツンと尖った耳を持つ、息を呑むほど美しいエルフの女性が座っていた。


十夜が代表して進み出、にこやかに話しかける。


「こんにちは。家族で旅をしている者ですが、こちらの街に入らせていただくことは可能でしょうか?」


エルフの女性は事務的ながらも、美しい笑みを浮かべて応じた。


「ようこそ、自由都市リベルタスへ。街の治安維持のため、まずはそちらの水晶に順番に手をかざしてください。悪意や敵対的な魔力を持つ者を検閲しております。ご協力をお願いしますね。」


言われるまま、十夜、創也、遊也が順番に手をかざす。

水晶は静かに澄んだ青色に輝くだけだった。

しかし、最後に愛がそっと手を触れた瞬間、水晶がビクンと大きく脈打ち、見たこともない複雑な極彩色に乱高下した。

エルフの女性の顔から笑みが消え、驚愕で引きつった。


「……あの、お母様? あなたの魂から、信じられないほど濃密な『竜の加護』と、カウントしきれないほどの『上位魔獣の加護』が検出されているのですが……。失礼ですが、伝説級のテイマー様でいらっしゃいますか?」


「え?ん〜、ええと……。うちの牛さんや羊さんは魔獣じゃないと思うし、そんなにたくさんテイムした覚えはないんですけど……。あ、竜の加護って、もしかしてクロちゃんのことかしら?」


愛が自分の肩に止まっているミニドラゴンに顔を向けた。

クロは「キュイッ!」と誇らしげに鳴いて翼を広げた。

エルフの女性は完全に硬直した。

瞳孔が限界まで開き、指がガタガタと震え出す。


「ド、ドラゴン……!? そのサイズで、その純度の魔力……古代竜の幼体……それを、肩に乗せてペットのように……ッ!? ひぃ、光栄です! どうぞ、どうぞ、審査は無条件でパスです!街へお入りくださいませ!」


口から魂が抜けかけているエルフのお姉さんにお礼を言い、上野家は何事もなかったかのように活気あるリベルタスへと足を踏み入れた。



街の中は、中世ヨーロッパの美しき街並みを彷彿とさせる石畳とレンガ造りの建物が並んでいた。

何より驚くべきは、行き交う人々の多様性だ。

犬や猫の耳を持つ獣人族、小柄で筋肉質なドワーフ族、気品溢れるエルフ族が、人間と共に当たり前のように談笑している。


「これぞまさにファンタジー。異世界に来た実感が湧いてくるな。」


十夜が感嘆の息をもらす。


「さて、お店もたくさんあるようだ。物価や流通している通貨、仕事の需要などを調べるため、各自周囲を観察しつつ情報収集をしよう。」


街を歩き回るうちに、この世界の経済は『ダル』という通貨で回っていること、そして宿屋や武器屋、さらにはクエストを斡旋する『冒険者ギルド』が存在することが分かった。


(ダルを稼ぐ手段が必要だな。私の魔法をギルドに登録するか、あるいは……ゲームの『お金のなる木』を遊也に召喚してもらうという禁じ手もあるが……。)


十夜が真面目に思考を巡らせていると、前方の路地から、地響きのような怒鳴り声が響いた。


「おいおい、嘘だろ!? うちの溶鉱炉が完全にイカれちまった! 職人ギルドからの注文の納期が明日なんだぞ! このままじゃ武具が作れねぇ、破産だ!!」


野次馬の隙間から覗くと、立派な黒ヒゲを蓄えた頑固そうなドワーフの鍛冶師が、煙を噴き上げて崩壊した炉の前で頭を抱えていた。周囲の職人たちも「ダグルスの炉がダメになったか……。」、「街一番の鍛冶屋なのに、これは深刻だな……。」と絶望的な声を漏らしている。


それを見ていた創也が、すっと前に出た。


「ねぇ、おじさん。素材さえあれば、その溶鉱炉、俺が新しく作り直せるかもしれないけど……やってみてもいい?」


「あぁ!? なんだお前、見慣れない格好の坊主だな。素材なら裏に山ほどあるが、ドワーフの最高技術で作られた溶鉱炉を人間の子供が作れるわけが……。」


「まぁ、見ててよ。……ええと、この鉄片と、あの魔導石炭と、そっちの耐火粘土を使って……よし、イメージ完了。」


創也が崩壊した炉の残骸と素材に両手をかざした。

「《クリエイター》、発動!」

ボォンッ!!という心地よい振動と共に、眩い青光が周囲を包む。

光が収まった次の瞬間、そこにはドワーフの伝統的な炉を遥かに超越した、流線型の美しい超高性能・魔法ハイブリッド溶鉱炉が誕生した。

熱効率、魔力伝導率ともに、元の炉の10倍以上のスペックを誇る逸品である。


「……な、ななな、なんじゃこりゃあぁあ!!」


ダグルスは目玉が飛び出んばかりに驚き、新しい炉を撫で回した。


「完璧……いや、完璧以上だ!内部の魔力循環が神の領域に達しとる!お前、天才か!? それとも鍛冶の神の申し子か!?」


ダグルスは創也の手を強く握りしめた。

「俺の名前はダグルス!この街で一番の鍛冶師だ。坊主!今日の恩は一生忘れん。武器でも防具でも、欲しいものがあればいつでも言え!俺の全技術を注いだ最高傑作をタダで作ってやるからな!」


「あはは、ありがとうダグルスさん。また遊びに来るね!」



狐につままれたような顔のドワーフたちを後にし、街の中心部へ向かって歩いていると、今度は狭い路地裏から小さな悲鳴が聞こえてきた。


「うぇ〜ん、たすけて〜!」、「出られないにゃ〜!」


遊也があわてて駆けつけると、そこでは猫耳を生やした三人の幼い獣人族の子供たちが、崩れ落ちた巨大な木箱の山の隙間にすっぽりと挟まり、身動きが取れなくなっていた。


「ちょっと、君たち! なんでそんな狭い場所に挟まってるの!?」


「遊んでたら、木箱がガラガラって崩れて落ちてきたにゃ!」


「重くて動かせないの、たすけて〜!」


「よし、任せて! 怪我させないように助けるからね。」


遊也は《ゲーマー》の画面を開き、お気に入りのパズルゲームに出てくる、どんな重量物でも優しく掴めるギミックを頭に思い描いた。


「召喚!《特製マジックハンド・リフティングアーム》!」


空間が歪み、ポップなカラーリングの、ゲームセンターのクレーンゲームでお馴染みのような巨大なアームが出現した。

アームは遊也の意のままに動き、子供たちを傷つけないよう注意しながら、巨大な木箱を軽々とつまみ上げて横へと移動させた。

自由になった猫耳の子供たちは、涙目を一瞬で輝かせ、遊也の周りに飛びついてきた。


「「「すごーい!! なにこれ、動くおもちゃ!? 魔法!?」」」


「あはは、これはね、ゲームに出てくるアームだよ。魔法みたいなものかな?」


子供たちは大喜びで、遊也の服を引っ張ったり、おんぶや抱っこをせがんだりし始めた。

完全に懐かれてしまい、遊也は嬉しい悲鳴を上げながら、路地裏で一時間以上も子守役をさせられる羽目になったのだった。



ようやく獣人の子供たちから解放された遊也が合流し、上野家は街の中心にある中央広場へとやってきた。

広場の中央には、大理石でできた見事な彫刻の巨大な噴水があった。その周囲は多くの人で賑わっているのだが、奇妙なことに、その立派な噴水からは一滴の水も出ておらず、底はカラカラに乾いていた。


「せっかく素晴らしい噴水があるのに、水がないのは勿体ないな。」


十夜が首を傾げて独り言を呟くと、隣のベンチに座っていたエルフの女性が憂いを含んだため息をつきながら話しかけてきた。


「そうなんです。ここ数ヶ月、この地域には全く雨が降っていなくて……。川の水位も下がり、街の生活用水もいよいよ底をつきそうなんです。このままではお祭りどころか、生活すら危うくて……。」


「なるほど、深刻な水不足というわけですね。……雨さえ降れば、解決するのですか?」


「ええ、もちろん。でも、こればかりはお天気次第ですから、神頼みしかなくて……。」


女性が言い終わるよりも早く、十夜は静かに片手を天に掲げた。


「お安い御用です。……《レイン・フォール》。」


十夜が小さく呪文を唱えた瞬間、雲一つなかった広場の上空だけが、みるみるうちに濃い雨雲に覆われていった。

そして、心地よい雨音が響き渡り、乾ききっていた噴水の周囲限定で、恵みの雨が勢いよく降り注ぎ始めた。カラカラだった噴水の貯水池があっという間に満たされ、美しい彫刻から勢いよく水が噴き出す。


「とりあえず、この広場を中心に、周囲の貯水池へ向けて三日間ほど適度な雨が降り続くよう魔法を固定しておきました。これで水不足は解消されるはずです。」


十夜が何事もなかったかのように微笑むと、エルフの女性は顔を真っ赤にし、その目を完全にハート型に輝かせた。


「……あらぁ。 あなた、ただの旅人かと思ったら、とびっきり優しくて規格外に優秀な大魔導師様だったのね……。素敵♡……ねぇ、これから私とどこかで、大人の雨宿りでもしていかない……?」


女性の妖艶な手が十夜の肩へと伸びようとした、その瞬間。

周囲の気温が一瞬で絶対零度まで下がったかのような、凄まじい極寒の殺気が背後から立ち込めた。

エルフの女性は本能的な恐怖に背筋を凍らせ、ロボットのような動きでゆっくりと振り返った。

そこには、先ほどまで広場のアクセサリー店で上機嫌に買い物を楽しんでいたはずの愛が、般若のような、しかし満面の笑顔を浮かべて立っていた。


「あら〜? 私の素敵な旦那様と、一体お二人で何をそんなに楽しそうにお話しされているのかしら〜?」


「ひっ……! し、失礼しましたーーーっ!」


エルフの女性は脱兎のごとく逃げ出し、一瞬で雑踏へと消え去った。


愛はゆっくりと十夜に向き直った。


「あなた?一体何をされていたのかしら?」


「い、いや!違うんだアイン!街が水不足で困っていると聞いたから、ほんの親切心で魔法を使っただけで、決して邪な気持ちは……!」


「ふふ、分かっているわよ。子供たちも戻ってきたことだし、……続きは今夜、お家でじーっくり、二人きりでお話しましょうね?」


「は、はい……。」


おもちゃ屋から帰ってきたばかりの創也と遊也は、顔を真っ青にしてガタガタ震えている父親の姿を、きょとんとした顔で見比べていた。



自由都市リベルタスを存分に満喫した上野家は、日が暮れる前に街を後にすることにした。

まだ通貨『ダル』を所有していないため買い出しこそできなかったが、この世界で生きていくための十分な情報を得られた。


帰り際、受付のエルフのお姉さんが「またあの規格外ファミリーが通る……。」と言わんばかりに無の境地で遠い目をしていたのを横目に、門をくぐる。

街道の影で、愛が「クロちゃん。帰りもお願いね。」と声をかけると、クロは「キュイィ!」と鳴いて一瞬で雄大な巨体へと戻った。

それを見た城壁の上衛兵二人が衝撃のあまり腰を抜かしてひっくり返るのを見届けながら、上野家を乗せたクロは、夕焼けに染まる美しい空へと力強く羽ばたき、我が家への帰路につくのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ