第3話 新しい家族の誕生!
――ドォォーーーーンッ!!!
地響きを伴う凄まじい衝撃音と、窓ガラスを激しく震わせる風圧により、十夜はベッドから跳ね起きた。
「何事だ!? もしかして、モンスターか?それとも火山の噴火か?」
心臓を激しく脈打たせながら、十夜はパジャマのまま玄関へと走り、ドアを勢いよく開け放った。
外の光景を目にした瞬間、彼の思考は一瞬フリーズした。
マイホームを守るために、彼が《ウィザード》の最上級防護魔法で張っておいた半透明の強固な『魔力バリア』。
そのすぐ外側に、巨体を誇る漆黒のドラゴンが滞空していたのだ。
禍々しい翼を広げ、鋼のような尾を叩きつけ、口からはドス黒い炎のブレスをバリアに向かって執拗に吐き散らしている。
「……こういう事態に直面すると、やはりここが本物の異世界なのだと思い知らされるな。」
十夜が冷や汗を流しながら、迎撃のための魔法メニューをステータス画面で検索しようとしたその時。
「こいつ、バリアに傷一つつけられないくせにしぶといな!兄ちゃん、足止めお願い!」
「了解!《クリエイター》、プラント・ロープ!」
庭の隅から、聞き慣れた息子たちの声が響いた。
見ると、創也が地面の雑草の分子構造を組み替え、鉄より硬い巨大な植物のロープを瞬時に生成。
それが生き物のように伸びてドラゴンの巨体をぐるぐる巻きにし、ドスンと地面へ叩き落とした。
「よし、今だ!召喚、SF超科学レーザーライフル!」
遊也が空間から引き抜いた近未来的な重火器から、極太の光線が放たれ、ドラゴンの分厚い鱗に直撃して火花を散らす。
(おいおいおい!何をやってるんだあいつらは!ドラゴンを無闇に刺激するんじゃない!)
十夜は慌てて二人の元へ駆け寄ろうとしたが、ふと足を止めた。
(待てよ……こちらの攻撃はバリアを透過してドラゴンに当たっているが、ドラゴンのブレスや体当たりはバリアに完全に遮断されている。……ということは、このバリアの強度が保たれる限り、我が家は完全無欠の安全圏なのか?)
いつもの理系的な考察癖が頭をもたげ、十夜が顎に手を当てて考え込み始めたその時、背後からふわりと優しい香りが漂った。
「まぁまぁ、可哀想じゃないの。動物には優しくしなさいって、いつも言っているでしょ?」
エプロン姿の愛が、何食わぬ顔で家から出てきて、武器を構える兄弟を優しくいさめた。
「母さん、動物って言ってもこれドラゴンだよ!? 放置してバリアが破られたら、家も畑もめちゃくちゃにされちゃうよ!」
創也が焦って弁明するが、愛は優しく微笑むだけだった。
「いいえ、この子はそんなに悪い子じゃないわ。ねぇ?」
愛は恐れる様子もなく、バリアの境界線を越えてドラゴンの目の前へと歩み寄った。
つい先ほどまで凶暴に暴れていた黒竜だったが、愛がその巨大な鼻先にそっと手を触れた瞬間、ビクリと身体を震わせ、次の瞬間にはトロンとした目になった。
巨体を地面に擦り付け、あろうことか猫のように愛の手のひらに頭を擦り付け始めたのだ。
「キュルルル……。」
「ほら、見てごらんなさい。とっても可愛い子でしょ?」
「……ドラゴンが完全に骨抜きにされてる。」
「やっぱり、我が家で一番怒らせちゃいけないのは母さんだね。」
兄弟は完全に戦意を喪失し、構えていた武器を下ろした。
異世界の生態系の頂点に君臨するはずの存在が、一瞬でペット化する光景は、もはや常識の範疇を超えていた。
愛は嬉しそうにドラゴンの顎の下を撫でながら言った。
「この子、私たちと一緒にここで暮らしたいんですって。家族になるなら、素敵な名前をつけてあげなきゃね。……そうね、身体が真っ黒だから『クロちゃん』でどうかしら?」
愛がその名前を口にした瞬間、ドラゴンの身体が目を開けていられないほどの眩い黄金の光に包まれた。
「うわっ、眩しい!何が起きたんだ!?」
十夜が腕で目を覆い、やがて光が収まった時、目の前にいた体長10メートルを超える巨竜の姿は影も形も消え失せていた。
「あれ?クロちゃん、どこに行っちゃったのかしら?」
愛が不思議そうに周囲を見渡した、その時。
「キュイッ!」
可愛らしい高音の鳴き声が、愛のすぐ耳元から聞こえた。
見ると、彼女の左肩の上に、手のひらサイズの小さな、ぬいぐるみのような黒いミニドラゴンがちょこんと乗っかっていた。
つぶらな瞳を輝かせ、小さな翼をパタパタとさせている。
「あら!もしかして、あなたがクロちゃん?」
「キュイィー!」
ミニドラゴンは嬉しそうに愛の頬に頭を擦り寄せた。
名付けによる契約と、それによる擬態能力の獲得。異世界特有の現象だった。
「新しい家族、か。……クロ、これからよろしくな。お前たちも、もういじめるんじゃないぞ。」
十夜が優しく微笑みながら声をかけると、クロは「キュイー!」と応え、愛の肩から勢いよく飛び立った。
そして、創也と遊也の周りを、楽しげにクルクルと飛び回り始めた。
「さっきは攻撃しちゃってごめんな、クロ。これからよろしく!」
創也が指を差し出すと、クロはそこに器用に止まり、ペロリと指先を舐めた。
「さっそく一緒に遊ぼうよ!」
遊也が手を開くと、クロはさらにジャンプし、今度は遊也の頭のてっぺんへと着地した。
そして、そこがまるでお気に入りのクッションであるかのように、器用に丸くなった。
「……遊也、お前完全にクロになめられてないか?」
創也がニヤニヤしながらからかう。
「ちょっと、クロ〜、降りてよ! 髪の毛がクシャクシャになっちゃう!」
遊也が頭を振るが、クロは意に介さず、毛づくろいならぬ『羽づくろい』を始め、やがて居心地が良さそうにスースーと寝息を立て始めた。
「まぁ、遊也の頭の中はいつも空っぽで平和だから、クロにとっても最高の寝床なんだろうな。」
「なんだとー!」
逃げる創也を、頭にクロを乗せたままの遊也が怒って追いかける。
その賑やかなやり取りを、十夜と愛は肩を寄せ合いながら温かい目で見守っていた。
こうして、上野家に頼もしくも愛らしい新たな家族が加わり、異世界生活はさらに賑やかさを増していくのだった。




