表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界ふぁみりぃ ~のんびり異世界生活~  作者: すぱ☆たま
ぜルディア帝国

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
65/101

第59話 本体

トーヤの持つ超便利な空間魔法ワープ・ゲート――しかしそれには、「一度行ったことのある場所にしか繋げられない」という絶対的な制約が存在していた。

その制約が、今回ばかりは非常に重くのしかかっていた。


見知らぬ地であるゼルディア帝国へ乗り込むには、どうしても相棒であるクロの背に乗り、直接向かうしかなかった。

決戦への準備を整えるため、ウェーノ一家は一度住み慣れたウェーノ村の自宅へと戻った。

いつもと違う張り詰めた緊張感を察知したのか、リル、ミラ、ハク、リィナが不安を色濃くにじませた表情で、トーヤの元へと駆け寄ってきた。


「トーヤ……私も行く。」


「リルが行くなら……私も……。みんなの力になりたい……。」


「僕もクロ兄ちゃんに付いていく! 足手まといにはならないよ!」


「マスターのお側に……私めをお連れください……。」


四人の瞳に宿る決意の炎は本物だった。彼女たちもまた、ウェーノ家の強い絆の一部なのだ。だがトーヤは、胸の奥の痛みを堪えながら、静かに、しかし断固として首を振った。


「……ダメだ。みんなの気持ちは本当に嬉しい。だけど今回は危険のレベルが違いすぎるんだ。みんなを巻き込むわけにはいかないんだ。」


その声音はどこまでも優しく、しかし決して覆らない絶対的な拒絶の意志が込められていた。激しい説得の末、最終的に帝国へと向かうのは、トーヤ、アイン、ソーヤ、ユーヤ、そして彼らを乗せるクロの五名のみとなった。



ゼルディア帝国は、アトレイア王国の遥か北方――通常の馬車を急がせても最低四日はかかるほどの距離にある。


しかし、クロの背に乗ったトーヤたちは、凄まじいスピードで風を切り裂きながら、わずか半日という驚異的な時間で帝国の領空へと到達していた。


凍てつく空を駆け抜けながら、トーヤは脳内でラザルドから聞いた帝国の惨状を思い返していた。


だが、いざ上空から眼下に広がる帝国の全貌を見下ろした瞬間、全員の息が止まった。

それは、想像を遥かに超えた地獄絵図だった。


かつて栄華を極めた美しい街並みは、ドス黒く濁った魔力の靄に完全に覆い尽くされ、多くの建物は爆撃されたかのように無残に崩壊している。


そして何より、整備された大通りには、生きている人間の人影がただの一つも見当たらない。まるで、国という巨大な生命体そのものが、完全に息絶えて腐敗しているかのようだった。


「……ひどい……。こんなのってないわ……。」


アインが、あまりの惨状に声を震わせながら両手で口を覆う。

トーヤもまた苦々しく眉を寄せ、ソーヤは怒りのあまり拳から血が滲むほど強く握りしめた。いつも元気なユーヤにいたっては、ショックのあまり言葉すら出ない様子で怒りに震えていた。


クロは静かに、中央広場の荒れ果てた石畳へと降り立った。

ドオォォンッという重い着地音の後、乾燥した砂埃が舞い上がり、冷たい風がヒュウヒュウと吹き抜ける音だけが、寂しく周囲に響き渡る。


人の気配、命の鼓動は――驚くほど、まったくと言っていいほど感知できない。

ウェーノ家全員の胸に、激しい怒りと痛みが走った。この国で、一体どれほどの悲劇が起きたのか。どれほどの絶望が、罪なき人々を飲み込んでいったのか。


「……行こう。全ての元凶がいる、あの王城へ。」


いつもと違って、低く冷徹なトーヤの言葉に、全員が覚悟を決めた顔で力強く頷いた。



王城へと続く大通りは、まるで彼らを奥へと誘い込んでいるかのように、不気味なほど静まり返っていた。

そして、禍々しい黒鉄の城門の前に立った、その瞬間――


ギィィィ……ッ。

誰も触れておらず、魔法の発動合図すらなかったにもかかわらず、巨大な門扉がひとりでに、嘲笑うかのようにゆっくりと開いた。


「……へえ、ご丁寧な歓迎をしてくれるってわけか。舐められたもんだな。」


トーヤが低く、怒りを押し殺した声で呟く。


城内へ一歩足を踏み入れると、外とは比べ物にならないほど濃密な、ねっとりとした黒い靄の気配が肌にまとわりついてきた。

アインが鋭く目を細める。


「この禍々しい魔力……間違いないわ。昨夜の比じゃない。ルシファーの、奴の本体のものよ。」


ウェーノ家は、その悪意の源流である靄の収束先をたどり、薄暗く血の臭いが漂う廊下を真っ直ぐ進んでいく。


カツンッ、カツンッと自分たちの足音だけが異常なほど反響し、周囲の空気は物理的な質量を持つかのように重く沈み込んでいく。

そして――


廊下の突き当たりにある、一際巨大で禍々しい装飾が施された扉の前にたどり着いた。

トーヤは深く息を吸い込み、覚悟を決めると、両手でその扉を勢いよく押し開いた。



目に入ったのは、広大な玉座の間。

その中央、かつて英雄王が座っていた輝かしい玉座に――世界を破滅させるほどの黒い靄を全身からたぎらせた“本体”が、傲然と腰掛けていた。


『大悪魔ルシファー』


その存在感は、もはや一つの生物という域を超え、闇そのものが意思を持って形を成したかのようだった。空間そのものが奴を中心に歪み、放たれるプレッシャーだけで常人なら精神が崩壊しかねない。


玉座に深く座り、冷酷な双眸で見下ろしてくるその姿は、帝国を覆った底知れぬ絶望の象徴そのものだった。


「よくぞ来たな……異世界人、ウェーノ家の者たちよ。」


低く、地鳴りのように響く声が、広大な玉座の間を激しく震わせた。

ついに、世界の命運をかけた、絶対的な悪魔との対峙の時が来たのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ