第53話 SOS
ある日の朝。
ウェーノ家のリビングは、いつもとは明らかに違う、どこか重く落ち着かない空気に包まれていた。
朝食の席につきながら、ソーヤが腕を組み、難しい顔をして口を開く。
「……なぁ、やっぱり……セレスティアの様子、どう考えてもおかしいよな……?」
「うん。最近、メッセージを送っても全然返ってこないし、来ても一言だけだし……。」
リルが心配そうに眉を寄せ、手元に置いたスマホを見つめる。
隣に座るミラも静かに頷いた。
「……風の便りでも……セレスティアの“心の揺れ”が、前よりずっと強くなってるのがわかる……。すごく、悲しそうな気配……。」
アインはエプロン姿のまま、心配そうに両手を胸に当てた。
「この間のピクニックだって、あの子なら何があっても大喜びで飛んできそうなのに、お断りするなんて……。あの子、絶対に一人で無理して何か抱え込んでる気がするのよね〜。」
その言葉を聞き、トーヤも真剣な、父親としての厳しい表情を浮かべて全員を見渡した。
「よし。こうして悩んでいても始まらないな。急な話だが、今日はこれから王都へ行こう。セレスティアの様子を直接確かめに。」
「「大賛成!」」
ユーヤとソーヤが即座に立ち上がり、賛同の声を上げる。
リビングの隅にいたクロとハクも、留守番は嫌だと言わんばかりに元気よく翼を広げた。
「僕たちも行く! みんなでセレスティアのところに行こう!」
「みんなで行く〜!」
さらに、お皿を片付けていたリィナも、静かに手を挙げてユーヤの隣に並んだ。
「……マスター、私も同行を希望します。ウェーノ家の大切な友人であるセレスティア王女様には、まだ直接ご挨拶ができておりません。私もお力になりたいです。」
アインはそんなリィナの言葉に優しく微笑みかけた。
「ありがとう、リィナちゃん。心強いわ。それじゃあ、さっそくみんなで準備して行きましょうか。」
◆
それぞれが準備を終え、トーヤが《ワープゲート》を開く。
パキィィィン! と空間がガラスのように激しく裂け、その奥にアトレイア王城の内部へと直接つながる、眩い光の道が具現化したまさにその時。
ピコンッ! ピコピコンッ!
静かなリビングに、全員のスマホの着信音が同時に、不気味なほど鋭く響き渡った。
嫌な予感を覚えながら、ユーヤが素早く画面を開く。
そこにあったのは、いつも通りの絵文字だらけの賑やかな文章ではなく――たった一言だけの、震えるようなメッセージだった。
『助けて……みんな……お願い……。』
「……っ、セレスティア姉ちゃん……!?」
ユーヤの顔から一瞬で血の気が引いた。
「これは……ただ事じゃないな。あのセレスティアがこんな短いSOSを送ってくるなんて……!」
ソーヤもすぐさま戦闘態勢に入るように表情を引き締める。
全員が今すぐにでもゲートへ飛び込もうとしたその時、トーヤが鋭い声で制した。
「待て。全員で行きたいところだが……この空気、嫌な予感がする。王都で何が起きているか分からない以上、どんな危険があるかわからない!」
トーヤは即座に、かつ冷静に状況を判断し、指示を下した。
「今回は俺たち四人で行く。リル、ミラ、リィナ、そしてクロとハクは村で待機だ。セレスティアのことは心配だろうが、留守番を頼めるか?」
その言葉に、リルは悔しそうに唇を噛んだが、すぐに真剣な目で頷いた。
「……わかった。トーヤがそう言うなら、私たちはここに残る。でも、何かあったら……すぐに私たちを呼んで。」
ミラも静かに、けれど強い意志を瞳に宿して言う。
「……気をつけてね。みんな、絶対に無事で戻ってきてね……。」
クロとハクも、心配そうにトーヤたちの足元に寄り添う。
「気を付けてね……。セレスティアを助けてあげて……。」
「……絶対帰ってきてね……。」
トーヤはニ匹の頭を優しく撫で、安心させるように微笑んだ。
「ああ、大丈夫だ。すぐに元気なセレスティアを連れて戻ってくるよ。」
アインもいつもの穏やかな笑顔を引っ込め、女神のような凛とした表情で頷いた。
「そうね……。私もなんだか嫌な気配を感じるわ。トーヤさん、行きましょう。」
「ああ……。」
「行くぞ!」
トーヤの合図と共に、ウェーノ家の四人は一切の迷いなく、光の渦の中へと飛び込んでいった。




