第47話 本当の能力
ウェーノ村に突如として現れた巨大モフモフ生物――その名は「モフ」。
“寂しさを食べる”という不思議な生態を持つこの生き物は、村の癒しマスコットとしてすっかり定着していた。
そして、最初に村に現れたときより、そのサイズが小さくなり、今では人間の大人の腰の高さほどの大きさになっていた。
この日、村の住人たちは、モフが小さくなった理由とその能力が単に「寂しさを食べる」だけではないという、驚くべき真実を知ることになる……。
◆
朝露が輝く静かな畑で、アインが日課の植物のお世話をしていると――
「……あら?」
アインは不思議そうに小首をかしげた。
昨日まで元気がなく、葉がしおれかけていたはずの希少な苗が、ふわりと淡い光を帯びて、ピンと元気を取り戻していたのだ。
「昨日まであんなにしおれていたのに……?」
そこへやってきたリルが、苗の周囲の空気にそっと触れ、目を瞬かせた。
「……これ、モフの気配がする……。」
ミラも静かに頷く。
「……モフが通った場所……全部の植物が、元気になってる……。」
アインは両手を合わせてパァッと顔を輝かせた。
「まぁ〜、モフちゃんは植物も癒やしてあげられるのね〜。」
そこへトーヤがやってきて、土と魔力の状態を冷静に分析して息を呑んだ。
「いや、これはただの『癒やし』のレベルじゃない。植物自体の根本的な……“生命力の増幅”だ。」
ソーヤが驚きの声を上げる。
「つまり、モフはただ歩くだけで、周囲の植物を今まで以上に元気にしちゃうってこと……?」
ユーヤがすかさずツッコミを入れた。
「それって完全にゲームのチートキャラじゃん!」
◆
時を同じくして、村の広場では獣人族の子どもたちが何やら集まって騒いでいた。
「ねぇ見て! 森のウサギさんがすっごく元気になってる!」
「昨日、足をケガして動けなかったはずなのに、もうすっかり治ってるよ!」
その様子を不思議そうに見つめていたクロが、首をかしげる。
「なんでだろう?」
隣でハクも真似をして、可愛らしく首を傾げた。
「キュルル?」
よく見ると、元気になったウサギのすぐ横で、モフがぽてんっと丸くなって日向ぼっこをしていた。
リルがそっとウサギに手を当て、その魔力の流れを読む。
「……モフの近くにいると、動物の“心”が深く落ち着くみたい……。」
ミラもそれに続く。
「……心が落ち着くことで、本来持っている自然治癒力が極限まで引き上げられるの……。」
その話を聞いたアインは、愛おしそうにモフを撫でた。
「まぁ〜、なんて優しくて素敵な子なの〜。」
◆
その不思議な現象の理由を、村に滞在しているエーテル族がふわりと漂いながら説明してくれた。
「この子は……“調和の核”なのです。」
「調和の核……?」
聞き慣れない言葉にトーヤが問い返すと、エーテル族は透明な声で静かに答えた。
「世界の“乱れ”を吸収し、代わりに“調和”を放つ存在。寂しさも、その乱れの一部に過ぎません。」
「モフの本質は――“心の乱れ”を直接食べることなのです。」
それを聞いたソーヤとユーヤが顔を見合わせる。
「心の乱れ……?」
「じゃあ、寂しさだけじゃなくて、怒りとか悲しみみたいな感情も……?」
「ええ。モフはそうした“負の感情”を吸収し、周囲に圧倒的な“安らぎ”を広げるのです。」
エーテル族の回答に、アインは深く納得して微笑んだ。
「まぁ〜、だからモフちゃんの近くにいると、みんなあんなに癒やされるのね〜。」
さらにエーテル族は言葉を続ける。
「そして、モフは吸収した負の感情を、純粋な『生命力』に変換して、大地や生き物たちに分け与えるのです。そして、そのときに負の感情を吸収して膨らんだ体が縮むです。」
ソーヤとユーヤは、あまりのハイスペックぶりに驚愕した。
「負の感情が消えて、おまけに生命力まで増えるなんて……。」
「いいことだらけで、非の打ち所がないじゃない!」
アインとトーヤは、モフの柔らかな毛並みを撫でながら褒めたたえた。
「モフちゃん、本当にすごいわ〜。」
「もはや、モフはこの村の“守り神”みたいな存在だな。」
◆
みんながモフの凄さに感心しきっていた、その時――
ドワーフの工房の方角から、地響きのような怒号が響き渡った。
「おい! 誰だ! 俺の特注ハンマーを勝手に使ったのは!」
「知らねぇよ! お前がどこかに置き忘れたんだろ!」
「はぁ!? なんだとコラ!」
血の気を持て余したドワーフたちの、激しい怒りの波動が村に広がりかける。
その瞬間――
もふっ。
どこからともなく、モフが工房のど真ん中に転がり込んだ。
ふわぁぁぁぁ……。
モフの身体から淡く温かい光が広がると、ドワーフたちの燃え上がっていた怒りが、まるで冷水をかけられたようにスッと消え去った。
「……まぁ、ハンマーくらい、別にいいか。」
「ああ。怒るのも疲れたし、みんなで酒でも飲むか。」
一瞬で和解し、肩を組んで宴会を始めるドワーフたち。
その鮮やかすぎる光景を遠くから見ていたウェーノ一家は、
「「「「モフ、最強じゃん!」」」」
と、自分たちの規格外ぶりを完全に棚に上げて、モフ最強説を確信するのであった。
◆
その夜。
村の中央広場で、星空の下で休んでいたモフが、突然ぽわぁっと淡く光り始めた。
「もふ……。」
その異変にリルが気づく。
「……モフが……村全体の“乱れ”を吸い上げてる……。」
ミラもその光景に驚きながら呟く。
「……今日一日で村のみんなに溜まった、疲れやストレスを……全部……。」
「まぁ〜、なんて優しい子……。」
アインは我が子を見守るように、モフの光を優しく見つめた。
温かい光が波紋のように村全体に広がり――
村の住民たちは、まるで極上の温泉に浸かった後のように、心の底からリラックスした穏やかな表情に変わっていった。
クロは縁側でとろけるような顔をしている。
「なんだか……すごく癒やされる〜。」
ハクもクロの頭の上で目を細めている。
「キュルル〜。」
ユーヤは大きなあくびをして目をこすった。
「ふわぁ……なんか……すっごく眠くなってきた……。」
ソーヤも心地よい疲労感に包まれている。
「これは……本当にすごいな……。」
トーヤは静かに夜空を見上げた。
「やっぱりモフは……この村の“精神的な守護者”だな。」
そして、モフは――
「もふ……。」
その場で、すやぁ……と安心しきったように深い眠りについた。
アインがそっと毛布をかける。
「ふふ、寝ちゃったわ〜。」
エーテル族が優しく寄り添う。
「今日は村のために、たくさん働いてくれましたからね。」
リルとミラも、モフの頭をそっと撫でた。
「……ありがとう、モフ。」
「……ゆっくり休んでね。」
周囲の家々からは、
「モフ〜〜〜〜!」
「かわいい〜〜〜!」
「俺たちの癒やしの神だ!」
と、住民たちのモフを讃える寝言(?)が聞こえてくる。
こうして――
ウェーノ村は今日も、モフの力によって究極の平和と癒やしに満ちて、静かな夜を越えていくのだった。




