第45話 新たな来訪者
竜王国との交流イベントを経て、ウェーノ村はますますカオスで賑やかな場所になっていた。
エルフの魔法、ドワーフの技術、獣人の活力、マーメル族の癒やし、オートマト族の知識、トレント族の自然、そして竜人族の威厳――
もはや「多種族共生の見本市」と言ってもいいほどの混沌と、不思議な平和が同居している。
交流イベントから数日が経った日の朝。
家族団らんで朝食を食べているとき、村の入口に、見慣れない不思議な影が揺らめいているのをユーヤが見つけた。
「……あれ、誰か来てる?」
パンをかじりながら外を見たユーヤの声に、ソーヤも目を細めた。
「なんか……人影自体が、光ってないか?」
村の入口に立っていたのは――
半透明の身体を持ち、自らが淡い光を放っている、神秘的な存在たちだった。
「……精霊族……?」
リルが小さく呟く。
ミラもじっと見つめ、静かに頷いた。
「……あれは、“エーテル族”……。」
アインは両手を合わせて目を輝かせた。
「まぁ〜、なんてキラキラして綺麗な方たちなの〜!」
光の種族たちは、足元をふわりと浮かせながら、ゆっくりと村の広場へと近づいてきた。
◆
先頭にいた、ひときわ柔らかな光を放つ存在が、鈴を転がすような優しい声で話しかけてきた。
「初めまして。私たちは“エーテル族”。世界の“魔力の流れ”と“声”を読む種族です。」
トーヤが警戒を解き、丁寧に頭を下げる。
「ようこそ、ウェーノ村へ。私は村長のトーヤです。(※勝手に任命されたまま定着してしまった)。何かご用でしょうか?」
エーテル族の代表は、透明な微笑みを浮かべた。
「この村の“気配”が、遠い地からでも感じられるほど、あまりにも心地よくて……。つい、引き寄せられるように旅をしてきてしまいました。」
「気配……ですか?」
ソーヤが首をかしげる。
「はい。この村には、奇跡のような“調和”が満ちています。自然、魔力、生命、そして異なる種族の心……すべてが反発することなく、優しく混ざり合っているのです。」
アインは照れたように頬に手を当てて笑った。
「まぁ〜、嬉しいわ〜。みんなで仲良く暮らしているだけなんですけどね〜。」
物珍しさに、獣人族の子どもたちがわっと駆け寄ってきた。
「ねぇねぇ! お兄ちゃんたち、触ってもいいの!?」
「ピカピカ光ってる! すごい!」
エーテル族は優しく笑い、子どもたちが伸ばした手に自らの光の手で触れた。
ふわりと、心安らぐ温かい光の波紋が広がる。
「わぁぁぁぁぁ! あったかーい!」
子どもたちは大喜びで光とじゃれ合い始めた。
それを見ていたダグルスを含めたドワーフたちが、職人の目でギラギラと迫ってくる。
「おいおい、こいつら……このとんでもなく純度の高い光の魔力……。素材にして練り込んだら、とんでもねぇ伝説の武具が作れそうだな……。」
「「ダメです!! お客様を素材にしないでください!!」」
トーヤとアインが同時に鋭くツッコミを入れた。
エーテル族もさすがに冷や汗を流すように光を点滅させ、苦笑いした。
「私たちは、加工用の素材ではありませんよ……?」
ダグルスは頭をかきながらバツが悪そうに謝った。
「す、すまん……つい、職人の血が騒いじまってな……。」
エルフたちはエーテル族を見るなり、敬意を込めて目を輝かせた。
「あなたたちは……森の精霊に近い存在なのですか……?」
「ええ。私たちは“世界の声”を直接聞く者です。」
アインがそれを聞いて、嬉しそうに手を叩く。
「まぁ〜、じゃあ私と同じね〜! お友達ね!」
エーテル族はアインの放つ圧倒的な自然調和のオーラを見て、心底驚いたように言った。
「あなた……人間でありながら、“世界と深く繋がっている”のですね。」
「ふふ、お花や鳥さんたちと仲良くしてるだけよ〜。」
続いて、エーテル族はリルとミラを見るなり、ふわりと光を揺らして一歩近づいた。
「あなたたちは……“世界の記憶”を持っている……?」
リルは少し驚きながらも、そっと頷いた。
「……うん。“庭”の記憶が、少しだけ……。」
ミラも静かに言う。
「……あなたたちの澄んだ声も、ちゃんと聞こえるよ……。」
エーテル族は嬉しそうに、二人の周りをくるくると回った。
「あなたたちは、この世界の“調和の子”。この村の、そして”世界の未来を支える”、大切な存在です。」
リルとミラは、光の祝福を受けて照れながら微笑んだ。
「わ~い!」
「キュルルッ!」
クロとハクが、エーテル族が残す光の軌跡を追いかけて無邪気に走り回る。
エーテル族は笑いながら光の尾を長く伸ばし、ニ匹の竜と一緒になって遊んでくれた。
「かわいい……。」
村の住民たちが、その幻想的で平和な光景を見てほっこりと癒やされていた。
やがて、エーテル族の代表が、改めてトーヤに向き直った。
「トーヤ殿。私たちのお願いを聞いていただけますか。私たちは、この村に“滞在”したいのです。」
「滞在……この村にですか?」
「はい。この村の奇跡的な“調和”は、世界の均衡にとって非常に重要です。私たちも、その調和の一部になり、共に暮らしたいのです。」
アインは迷うことなく大喜びで手を広げた。
「もちろんよ〜! 大歓迎だわ〜! また家族が増えるのね!」
トーヤも、もはや驚くことなく、穏やかに微笑んで頷いた。
「ええ。この村は、平和を愛する者なら誰でも歓迎します。どうぞ、好きなだけ滞在してください。」
エーテル族は、胸の前で手を交差し、深く深く頭を下げた。
「ありがとうございます。これから、よろしくお願いいたします。」
◆
こうして、ウェーノ村にまたひとつ、新たな種族が加わった。
光の種族・エーテル族の加入により、村はさらに幻想的で、さらに賑やかで、さらに規格外のカオスな場所へと進化していく。
そして――
世界はまだ知らない。
この、辺境のただの一軒家から始まった小さなスローライフの拠点が、農業村を経て、やがてすべてを繋ぐ“世界の中心”と呼ばれるようになることを。




