第44話 竜王国・宝物庫特別公開ツアー
竜王国との怒涛の交流イベントが無事に終わり、ウェーノ村にいつもの平和な静けさが戻った――と、トーヤが安堵の息をついたその時だった。
「トーヤ殿! 友好の証として……特別にウェーノ家の者たちに、我が竜王国の『宝物庫』を見せてやろう!」
黒竜王アルグが、竜王国の兵士たちを引き連れて、サプライズとばかりにやってきたのだ。
突然のアルグの提案に、後ろに控えていた兵士たちは全員、彫像のように固まった。
「へ、陛下!? 宝物庫は王族以外の他種族は立ち入り禁止の聖域です!」
「いくらなんでも、彼らをあの中に入れるのは危険すぎでは……。」
「よいのだ。この者らは特別だ!なんといっても我が友だからな!」
ガハハハッと豪快に笑いながら、トーヤの肩をガシッと掴むアルグに、苦笑いするしかないトーヤであった。
(※このアルグの楽観的な判断が、後に竜王国史に残る“歴史的な大失敗”と呼ばれることになる……。)
◆
宝物庫は、竜王国の中心にある巨大な黒曜石の塔の、さらに地下深くの厳重な扉の奥にあった。
中へ入る直前、トーヤは嫌な予感で胃を押さえながら、家族に必死に念を押した。
「みんな、いいか。絶対に何も触るなよ。ただ見るだけだ。絶対にだぞ!」
「はーい!」
「わかったー!」
(※フラグである。もちろん誰も守らない)
◆
重い扉が開いた瞬間、そこには目を見張るような財宝や伝説の武具が山のように積まれていた。
「うわっ……宝箱だ!」
ユーヤのゲーマーとしての血が騒ぎ、目をギラギラと輝かせている。
「部屋の中央にポツンとある豪華な宝箱……これは絶対、超レアアイテムが入ってるやつだ!」
「開けるな! というか、そもそも触るな!」
トーヤが全力で止めるが、ときすでに遅し。
ユーヤはすでに宝箱の前で、「アイテムゲット!」のポーズを決めていた。
「宝箱オープン!」
――カチッ。
宝箱は開かなかった。
代わりに、宝箱に施されていた古代の守護魔法が発動し、けたたましいアラーム音と共に、ユーヤが天井まで勢いよく吹っ飛んだ。
「ぎゃああああああああ!!」
「……だから言っただろうが。」
トーヤは深く、深く頭を抱えた。
監視していた竜王国の兵士が、呆れかえっていた。
◆
「兄ちゃん見て! これ絶対ヤバいやつだよ!」
「……これは……古代竜文明の失われた魔導核……? 構造が全く違うぞ……。」
ソーヤは職人としてのスイッチが完全にオンになってしまい、床に座り込んで貴重な国宝の魔導具をスキルで分析・分解しようとしていた。
「勝手に触るな! そして、分解するな!!」
トーヤの二度目の絶叫が宝物庫に響く。
◆
一方、アインはまばゆい宝石の山の前で、ふんわりと微笑んでいた。
「まぁ〜、あなたたち、とっても綺麗に磨かれてるわね〜。」
すると、意思を持たないはずの宝石たちがカタカタと震え出し、自らキラキラと光を放ちながら、アインの足元へコロコロと転がって集まってきた。
「ア、アイン殿……意思なき宝石が……あの方に懐いている……?」
監視していた竜王国の兵士が、恐怖で震え上がった。
「母さん……動物だけじゃなくて、ついに宝石にまで好かれるって、どういう原理なの……?」
ソーヤは静かに考えるのを放棄した。
◆
リルがふと、壁に飾られていた古い竜の鎧にそっと指先で触れた。
「……この鎧……昔の王様の記憶が……残ってる。」
「血まみれになりながら、勇ましい姿で戦う姿が見える……。」
ミラも別の古代の宝具に触れ、静かに目を閉じた。
「……悲しい戦い……でも……どうしても守りたかったものが、あったんだね……。」
「その王様の覚悟のおかげで……今の竜王国の繁栄がある……。」
それを見守っていた竜王国の歴史学者たちは、驚愕でワナワナと震えた。
「な、なんだこの少女たちは……!」
「失われた歴史の真実を、宝物庫の記憶から直接読み取っているというのか……!?」
◆
「すごい! すごい! アトレイアでも見たことないものばかりだわ! 全部キラキラしてて最高!!」
お忍びでついてきていたセレスティア王女は、
宝物庫の中をドレスの裾を翻して走り回り、
国宝の宝剣をブンブンと振り回し、
抱えきれないほどの宝石をドレスのポケットに詰め込み、
極めつけに古代竜の女王のティアラを自分の頭に冠ろうとし――
「王女様ぁぁぁぁぁぁ! それは他国の国宝です! 窃盗、いや国際問題になります!!」
ミーナの鼓膜を破るような悲鳴が、宝物庫中に反響した。
◆
数時間後。
トーヤは、それぞれの暴走の後始末で完全にヘトヘトになっていた。
・ユーヤの宝箱爆破トラップの解除と回復魔法。
・ソーヤが分解しかけた魔導具の必死の再組み立て。
・アインに懐いて離れない宝石たちの説得と回収。
・リルとミラの記憶読み取りに対する、学者たちへの「ただの勘違いです」という言い訳。
・セレスティア王女の暴走の物理的な鎮圧と、盗難未遂の謝罪。
トーヤは汗だくになりながら、息も絶え絶えに叫んだ。
「頼むから…! 誰も…! 何も…! 触るなぁぁぁ!」
◆
宝物庫の責任者が、涙目で震える声でアルグに進言した。
「……陛下、誠に申し訳ありませんが……。」
「ウェーノ家の皆様は……。」
「我が国の宝物庫への立ち入りを……。」
「“永久に禁止”とさせていただきます……。」
「「「えぇぇぇぇぇぇぇ!」」」
子どもたちとセレスティアが不満の絶叫を上げる中、
「……そうですよね。本当に、申し訳ありませんでした……。」
トーヤは魂が抜けた顔で深く頭を下げた。
アルグも気まずそうに苦笑しながら、肩をすくめるしかなかった。
「……まぁ、そうなるな。」
◆
今日の出来事は、竜王国の極秘歴史書にこう記されることになる。
『ウェーノ家、宝物庫事件』
『竜王国史上、もっとも騒がしく、もっとも愉快で、そして絶対に二度と繰り返されてはならない一日であった。』と。




