第34話 白き命の誕生
クロの両親――
黒竜アルグレオスと赤竜エルヴァリシアがウェーノ村に定住し始めてから、数日が経った。
村は相変わらず活気に満ちていたが、二人が歩くたびに、どこか周囲の空気がピンと張り詰めるような“荘厳な気配”が漂っていた。
その理由は、まだウェーノ家や村の誰も知らない“彼らの本当の正体”にあった。
今日も快晴の青空の下、トーヤが畑の見回りをしていると、アルグレオスが静かな足取りで近づいてきた。
「トーヤ殿。そろそろ、そなたらには話しておくべきだと思ってな。」
「どうかしましたか?」
アルグレオスは腕を深く組み、王者の風格を漂わせて重々しく告げた。
「我らは……ただの竜人族ではない。竜人族を束ねる王族だ。」
「……王族!?」
予想外の告白に、トーヤは思わず声を上げた。
「我は、竜王国アル=ヴァルハを統べる黒竜王アルグレオス。そして、家内が赤竜妃エルヴァリシアである。」
エルヴァリシアも少し申し訳なさそうに、けれど優雅に微笑みながら続ける。
「黙っていてごめんなさいね。クロディアスは、我が竜王家の“第一王子”なのよ。」
「キュイッ!」
クロは「えっへん!」とばかりに誇らしげに胸を張る。
偶然その場に居合わせたソーヤとユーヤは、目玉が飛び出るかと思うほど驚いて同時に叫んだ。
「「クロって王子だったの!?」」
リルとミラも驚きで目をぱちくりとさせている。
「……すごい。」
「……クロ、えらい竜だった。」
しかし、アインだけは全く動じることなく、クロをひょいっと抱きしめて笑った。
「あら〜。王子様でも、うちの可愛いクロちゃんには変わりないわよ〜。」
アルグレオスは、アインのその飾らない態度を見て深く頷いた。
「その通りだ。この村は……我らにとっても、肩書きを忘れて心から安らぐことができる場所だ。」
「第二の故郷と言ってもよいほどに、この地を愛しておる。」
「だからこそ、隠し事なしで真実を伝えておきたかったのだ。」
トーヤはホッと微笑んで頭を下げた。
「王族でも、神様でも、私たちにとっては大切な家族で仲間です。クロはクロのままですよ。これからもよろしくお願いします。」
だが、その日の夕方。
クロが突然、落ち着かない様子で村の広場をぐるぐると歩き回り始めた。
「キュイ……キュイ……!」
アインが心配して駆け寄る。
「クロちゃん、どうしたの〜? お腹でも痛いの?」
エルヴァリシアがクロを抱き上げ、ハッとして表情を変えた。
「……これは、“成長の予兆”ね。」
「成長……?」
ソーヤが息を呑む。
エルヴァリシアは神妙に頷いた。
「竜人族は、武者修行の果てに心から安らぎ、定住できる“運命の地”を見つけると、成竜へと成長する儀式を迎えるの。クロにとっては、この村と皆さんの温かさが、その成長を促したみたい。そして――」
エルヴァリシアは自分のお腹にそっと手を当てた。
「竜の家族が成長し、深い絆が結ばれるとき……世界からの祝福として、次の新しい命が芽生えるのよ。」
「次の命……?」
アインが首をかしげた、その瞬間――
エルヴァリシアのお腹のあたりが、淡く、けれど力強く、柔らかな光を放ち始めた。
ふわり、と村の空気が神聖なものへと震えた。
光がだんだんと強くなり、集束していく――
次の瞬間。
エルヴァリシアの腕の中に、光の粒子が実体化し、真っ白な小さな竜が現れた。
「キュル……?」
その瞳は澄み切った水晶のようにキラキラと輝き、翼は新雪のように純白で、体はクロよりもさらに一回り小さく、愛らしかった。
アインは思わず口元を押さえ、感動で涙ぐむ。
「まぁ〜……なんて神秘的で、可愛いの……。」
リルとミラも、息を呑んで目を輝かせた。
「……真っ白。」
「……すごくきれい。」
ユーヤはテンションが限界突破して叫ぶ。
「うおぉぉぉ! 新キャラきたぁぁぁぁ!」
ソーヤは感動しつつも苦笑している。
「クロの妹……なんだよな? 弟じゃなくて。」
アルグレオスが、涙をこらえながら誇らしげに頷く。
「うむ。名は……“ハクノア”。ハクと呼んでやってくれ。」
「キュルッ!」
クロは初めて見る妹にそっと寄り添い、優しく頭をこすりつけた。
◆
その日の夜。
ウェーノ村は、かつてないほどの熱狂と祝祭の空気に包まれていた。
エルフは森中に光る幻想的な花を飾り付け、
ドワーフは巨大な焚き火台を作り上げて祝砲の花火を打ち上げ、
獣人族は太鼓を叩いて賑やかな踊りを披露し、
マーメル族は水流を操り美しい水の演奏を響かせ、
オートマト族は観測塔からレーザー光線で光のショーを展開し、
トレント族は森全体をリズミカルに揺らして祝福した。
アインはテーブルに乗り切らないほどのご馳走を並べながら笑う。
「さぁ、今日は“ハクちゃんの誕生おめでとうパーティー”よ〜! いっぱい食べてね〜!」
連絡を受けたセレスティア王女も、当然のように高速魔導馬車で爆走して駆けつけた。
「ハクちゃん!? どこ!? お姉ちゃんに抱っこさせてぇぇぇ!」
ミーナは馬車の横でまたしても頭を抱えていた。
「王女様! 国王陛下には内緒で抜け出してきたんですから落ち着いてください!」
ハクはアインの腕の中で、周りの賑やかさを楽しむように、
「キュルル……。」と嬉しそうに鳴いた。
クロは妹の隣で「俺が守る」とばかりに胸を張る。
「キュアッ!」
ソーヤがその姿を見て笑う。
「なんか……クロ、いっちょ前にお兄ちゃんの顔してるな。」
ユーヤも頷く。
「うん! クロ、すごくかっこいいよ!」
リルとミラは、ハクの小さな頭をそっと撫でた。
「……ようこそ。」
「……今日から、大切な家族だよ。」
村中が、最高に温かい笑顔に包まれていた。
夜空には、竜王家の三匹が舞い上がる。
雄大な黒竜、美しい赤竜、そして小さな白竜。
その光景は、まるで村を祝福する“三つの星”が舞っているようだった。
アインは胸に手を当て、夜空を見上げてそっと呟く。
「……この村、本当に素敵ね。毎日が奇跡みたい。」
トーヤも優しく微笑み、妻の肩を抱いた。
「ああ。家族が増えるって、本当にいいものだな。」
こうして――
ウェーノ村はまたひとつ、
“新しき白き命”と“深まる絆”を迎え入れたのだった。




