番外編 双子と王女
◆1日目:嬉しい通知
ウェーノ村に戻ってきた翌日の昼下がり。
縁側で日向ぼっこをしていたリルとミラの”スマホ”が、同時にブルッと震えた。
ピロン♪
画面を覗き込むと、そこにはセレスティア王女からのメッセージが表示されていた。
『リルちゃん、ミラちゃん! 今日は何してるの?』
『私はお城にいるけど、ずっと二人のこと考えてたの♡』
リルは嬉しそうに目を細めて微笑む。
「……セルティ、今日もすごく元気そう。」
ミラも、珍しく口元を柔らかく緩めた。
「……返事、する。」
二人は身を寄せ合い、ポチポチと慣れない手つきで一緒に返信を打った。
『今日はアインの畑の手伝いしてるよ。セルティは?』
すると、一秒も経たないうちに返事が返ってくる。
『私は王城で退屈なお勉強とお仕事よ!』
『本当はそっちに行きたい〜〜!』
『早くニ人に合いたいわ~!』
リルとミラは顔を見合わせて、ふふっと笑った。
「……セルティ、かわいい。」
「……うん。」
この日は、こんなほのぼのとしたやり取りと、他愛もない日常の話をして穏やかに終わった。
◆2日目:ちょっと多い
翌朝。まだ朝露が光る時間帯。
ピロン♪ ピロン♪ ピロン♪ ピロン♪
「……通知が……多い。」
「……今日は、朝からすごいね……。」
ミラとリルが顔を見合わせる。画面には、セルティからの猛烈な連続メッセージが並んでいた。
『おはよう! 今日は何してるの?』
『朝ごはんはもう食べた?』
『リルちゃんはパン派? ごはん派?』
『ミラちゃんは?』
『二人は今どこにいるの? 庭? 森?』
『ねぇ、返事まだ?』
「……返す前に、次の質問が来る……。」
「……通知が、止まらない……。」
朝食の準備をしていたアインが、二人の様子を見て笑いながら言う。
「まぁ〜、セレスティアちゃん、離れ離れになって寂しくて、連絡できるのが嬉しくて仕方ないのね〜。」
トーヤはコーヒーを飲みながら苦笑いした。
「……あのお転婆王女、城の公務はちゃんとやってるんだろうな……?」
二人はなんとか頑張って返信を返したが、返せば返すほど、倍の速度と熱量でメッセージが返ってくる。
夕方には、リルがそっとスマホを裏返して机に置いた。
「……ちょっと、目が疲れた……。」
ミラも同じく、スマホからそっと手を離した。
「……親指が、痛い……。」
◆3日目:既読がつかない
三日目の朝。
ピロン♪ ピロン♪ ピロン♪
『おはよう! 今日も王都はいい天気だよ! そっちはどう?』
『今朝は何食べた? 私はアインさんのシチューが食べたいわ!』
『今日はどうしても会いたい気分♡』
リルとミラは顔を見合わせ、そっとスマホを置いた。
「……返事、あとででいいかな……。」
「……うん。畑の手伝いが終わって、おやつの時間になってから……。」
二人はスマホを机に伏せ、そのまま村の作業へと向かった。
しかし――それが悲劇の始まりだった。
ピロン♪
ピロン♪
ピロン♪
ピロン♪
『リルちゃん?』
『ミラちゃん?』
『忙しいの?』
『大丈夫? 倒れたりしてない!?』
『返事……ない……。既読もつかない……。』
『もしかして……昨日送りすぎたから、嫌われた……?』
『私、何か悪いこと言った……?』
『ねぇ……お願い、返事して……。』
◆
その頃、王都では。
侍女ミーナが、泣き崩れそうなセレスティアを必死に説得していた。
「王女様、どうか落ち着いてください! 午後からの勉強と公務が山積みです!」
「無理よミーナ! リルちゃんとミラちゃんが……全然お返事くれないの……。」
(たった三日で”スマホ”への依存度が高すぎます……!)
セレスティアは震える手でスマホを胸に抱きしめ、キッと前を向いた。
「……行く。」
「行くって……どちらに!?」
「もちろん――決まってるじゃない、ウェーノ村よ!」
「やっぱりぃぃぃぃぃぃ!?」
◆4日目:王女、突撃
ウェーノ村の入り口に、見慣れた高速魔導馬車が凄まじい砂煙を上げて到着した。
馬車が止まるや否や、扉が吹き飛びそうな勢いで開く。
「リルちゃぁぁぁぁぁん!!」
「ミラちゃぁぁぁぁぁん!!」
畑にいたリルとミラが驚いて振り返る。
「……セルティ?」
「……来た。」
セレスティアは泥も気にせず駆け寄り、涙目で二人にぎゅっと抱きついた。
「よかったぁぁ! 返事がないから……何かあったのかと不安で……。私、重すぎたから嫌われたのかと思って……!」
リルは慌てて首を振る。
「ち、違うよ! セルティのこと、嫌いになったり絶対しないよ!」
ミラも真剣な顔で弁明する。
「……通知が……ちょっと、多すぎただけ……。」
「えっ……?」
「……少しだけ、疲れちゃって……。」
「……でも、セルティのことは大好き。」
セレスティアはぽかんと口を開けたあと――
安心感から力が抜け、地面に正座してわぁぁっと泣き出した。
「良かったぁぁぁぁぁ……嫌われてなかったぁぁ……。」
アインがお茶とおしぼりを持ってきて、優しく微笑む。
「まぁまぁ、誤解も解けたみたいだし、仲直りしましょうね〜。」
トーヤは遠くからその様子を見て呟いた。
「……今日も村は平和だな。」
セレスティアは涙を拭き、少し反省した様子で二人に提案した。
「ごめんなさい。じゃあ……“一日一回”だけ、連絡してもいい……?」
「……うん。それなら、私たちもすごく嬉しい。」
「……もう少し……回数が少ないと嬉しい……。」
「わかったわ! じゃあ、毎日一回、私のありったけの愛を込めた長文を送るわね!」
(……結局、毎日メッセージを送ることは変わらないんですね……。)
ミラのささやかな意見は完全にスルーされ、心の中で鋭くツッコむミーナであった。
こうして――
スマホ騒動を経て、三人の距離はまたちょうど良い、温かな“姉妹の距離”に戻ったのだった。




