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異世界ふぁみりぃ ~のんびり異世界生活~  作者: すぱ☆たま
アトレイア王国

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第25話 王立工房、”創造の革命”に沈む

王城の厨房が、アインの優しさ溢れる家庭料理の前に完全な敗北を喫した翌日。


王都アトレイア・セントラルは、朝からどことなくそわそわとした、妙な熱気に包まれていた。

その理由はただひとつ。


「あの大パニックを起こした異世界の家族の……無から万物を生み出すという創造少年が、今日、王立工房を見学するらしいぞ……。」


その信じがたい噂が、王都中の職人たちの間で、朝一番から瞬く間に広がっていたからである。



王立工房——それは、アトレイア王国が誇る最高峰の技術者たちが集い、日夜研究と製作に明け暮れる聖地である。

人々の暮らしを豊かにする魔導具、騎士団が振るう強力な武具、生活を支える便利道具、さらには巨大な建築資材まで……。

王国の文明の発展を根底から支えるありとあらゆる“創造”が、この熱気に満ちた工房から生まれている。

その頂点に立ち、数百人の職人を束ねているのが、工房長のガルドである。


彼は筋骨隆々で頑固なドワーフであり、王国随一の腕を持つ鍛冶師として、その名を知らぬ者はいない。


「……本当に来るというのか?あの噂の少年が……。」


ガルドが分厚い腕を組み、唸るように問う。


「ええ、陛下からの直接のご命令ですから。丁重にもてなすようにと。」


眼鏡をかけたエルフの副工房長が冷静に答えると、ガルドはフンと鼻を鳴らした。


「創造スキル持ちの子ども、だと?ふん、ただの才能に恵まれただけのガキだろう。そんなものの小手先の魔法が、我らが血のにじむような努力で培ってきた技術の前に通用するものか――。」


ガルドがそう言い放った、まさにその瞬間だった。

ギィィ……と、工房の重厚な鉄の扉がゆっくりと開いた。


「こんにちは。陛下から許可をもらったんですけど、見学させてもらってもいいですか?」


そこには、純白の清潔な作業服に身を包んだソーヤが、少し緊張した様子で控えめに頭を下げて立っていた。

一目見た瞬間、ガルドは思わず言葉を失った。


(……気配が、まったく違う……。)


ただの子どもではない。

彼が放つ、周囲の空間の物質さえも支配しているかのような静かで圧倒的なオーラ。

熟練の鍛冶師としてのガルドの本能が、目の前に立つ少年を、明確に格上の“同業者”として強く認識して警鐘を鳴らしていた。



「コホン。……よく来たな、ソーヤ殿。ここが我らが誇る王立工房だ。怪我にだけは気をつけて、好きに見ていくといい。」


ガルドが威厳を保ちながら案内すると、ソーヤは目をキラキラと輝かせ、興味深そうに広大な工房内を見渡した。

赤々と燃え盛る巨大な魔導炉の熱気。

カンカンとリズミカルに金属を叩き上げるハンマーの音。

空間に満ちる、職人たちの熱気と高密度の魔力の流れる気配。


「すごい……。いろんな音が混ざり合って、まるで工房自体が呼吸してるみたいだ。こんなに“生きてる工房”は、初めて見た!」


ソーヤが純粋な感嘆の声を漏らすと、その言葉を聞いた職人たちが一斉にざわついた。


(生きてる……?)


(この熱気と魔力の奔流を肌で感じ取り、工房を生命体のようにそう表現するのか……? この少年、タダ者じゃないぞ……。)


ソーヤは工房の奥へと進み、やがて、部屋の中央に置かれた巨大なひとつの作業台の前でピタリと足を止めた。

そこには、王国が国の威信をかけて長年研究を続けている、複雑な“魔力循環装置”の試作品が置かれていた。

空気中の魔力を効率よく吸い上げ、循環させ、あらゆる魔導具の性能を飛躍的に高める夢の装置――

そのはずだったが、魔力回路のどこかに致命的な欠陥があり、未だに完成を見ない曰く付きの代物である。


「あ、これ。魔力がこのパイプの奥で、ギュッと詰まってますね。」


ソーヤがポツリと指摘した。


「……外から見ただけで、それがわかるのか?」


ガルドが驚愕の声を上げる。


「はい。なんというか、魔力の流れが中で行き止まりになって、“迷ってる”感じがするんです。」


ソーヤは装置の金属の表面に、そっと手のひらを触れた。


「あの、これ……ちょっとだけ、僕がいじって直してみてもいいですか?」


「……やってみろ。我らでも直せなかった代物だぞ。」


ガルドは半信半疑ながらも、息を呑んで見守ることにした。

ソーヤは大きく深呼吸をし、そっと目を閉じた。


(魔力の流れ……どこで止まってる? どの回路がボトルネックになっている? どうすれば、魔力が迷わず、スムーズに真っ直ぐ進める?)


ソーヤの手のひらに、淡く、けれど力強い黄金の光が集まり始める。


《ジェネレーター》――それは、材料を必要とせず、“無から意味を創り出す”という神の領域の力。

ソーヤは装置の内部の構造をイメージし、そこに、ひとつの“概念”を生成して上書きした。


「魔力は、ここを通るとすごく気持ちよくて、スルスル進める!」


複雑な魔法陣や物理法則の再計算ではない。ただ、それだけのシンプルな意味を与えたのだ。

だが――

直後、沈黙していた装置が、グゥゥゥン……と低く、力強い駆動音を上げて唸り始めたのだ。


「なっ……!?」


「う、動いた……!? 何百年も停滞していた試作機が!」


「見ろ! 詰まっていた魔力が……完璧な効率で流れている……!」


装置内部の魔力が、まるで回路を通ることを“喜ぶように”、滑らかに、そしてかつてない速度で循環し始めたのだ。

ガルドは目玉が飛び出んばかりに驚き、震える声で呟いた。


「……回路を物理的に作り変えたわけではない……。ただ、魔力の流れそのものを……“誘導”したというのか……?」


「ううん、違うよ。ただ、“意味”をつけただけだよ。」


「意味だと……?」


「うん。魔力がここで迷わないように、道案内をしてあげただけ。」


ソーヤは振り返り、照れたように無邪気に笑った。

その瞬間、工房にいた何百人という職人たちの理性が、完全に吹き飛んだ。

彼らは一斉に血走った目でソーヤの元へと殺到した。


「頼む! この魔導炉の燃費が悪すぎるんだ、見てくれ!」


「少年! この騎士団用の剣の魔力通しを、もっと改善できないか!?」


「この新型魔導具の暴走をどうしても止められないんだ、助けてくれ!?」


「うちの専属工房リーダーになってくれぇぇぇ! 給料は言い値で払う!」


ガルドが慌てて大声で怒鳴る。


「お前ら、落ち着けぇぇぇ! 客人だぞ! 順番に並べぇぇぇ!」


だが、究極の技術を目の当たりにして興奮状態に陥った職人たちは、もはや誰の言葉も耳に入らない。

ソーヤは困ったように苦笑しながらも、「いいですよ、見せてください。」と、持ち込まれる難題にひとつひとつ丁寧に応えていった。


古びた魔導炉に触れて熱効率を劇的に上げ、

無骨な剣に触れて魔力通しを羽のように滑らかにし、

暴走する魔導具に“落ち着く意味”を与えてなだめ、

壊れて捨てられそうになっていた工具に“もっと働きたい気持ち”を与えて新品同様に蘇らせた。


ソーヤが手を触れるたびに、不可能が可能になり、工房がどよめき、歓喜の悲鳴が上がり、割れんばかりの歓声が響き渡った。

そして――

ついに、工房長のガルドは、その圧倒的な奇跡の連続を前に、その場に崩れ落ちるように膝をついた。


「……わしらの……何代にもわたる、何百年という血の滲むような研究が……。」


「この少年の、ほんの数分の“ひらめき”ひとつで、すべて過去の遺物になってしまった……。」


「……歴史が……今日、ここで変わってしまう……。」


副工房長も、眼鏡をずらしたまま呆然と宙を見つめて呟く。


「ええ……今日を境に……アトレイア王立工房の歴史は、“ソーヤ来訪前”と“来訪後”に真っ二つに分かれますね……。」



夕方。

すべての依頼をこなし、心地よい疲労感と共にソーヤが工房を出ようとすると、ガルドが先頭に立ち、深々と頭を下げた。


「ソーヤ殿。今日、そなたが我々に見せたものは……もはやただの“創造”という言葉では片付けられない」


「え? じゃあ何なんですか?」


「これは、技術の根底を覆す“革命”だ」


その言葉に合わせ、工房中の数百人の職人たちが、一斉にソーヤに向かって深く頭を下げた。


「どうか……また我々の工房に来てくれ。」


「これからも、我々に新しい技術や概念をいろいろと教えてほしい。」


「そなたの“創造”を……どうか、この国の未来に残してほしいのだ。」


大人たちの真剣な眼差しを受け、ソーヤは少しだけ考え、そしてニコリと笑った。


「ありがとうございます。もちろん、また遊びに来ますね。」


「僕もみなさんがどうやってモノを作ってるのか、その情熱や技術をもっと知りたいから。」


その素直で謙虚な言葉に、王立工房は今日一番の割れんばかりの歓声と拍手に包まれた。



大満足で工房を出たソーヤを、門の外でアインとリルが迎えに来ていた。


「ソーヤ、お疲れ様。職人さんたちの工房はどうだった?楽しかった?」


「うん、すっごく楽しかったよ。でも、なんか、俺が少し手を加えただけで、すごい大騒ぎのことになっちゃって……。」


リルがくすっと口元を押さえて笑う。


「ソーヤは“新しい意味を創る人”だからね……。」


「ソーヤが動けば、世界が一緒に動いちゃうのは、仕方ないことなんだよ。」


ソーヤは照れくさそうに、後頭部をガシガシと掻いた。


「……俺、もっといろんなものを見て、もっとすごいものが作れるようになりたいな……。」


アインは、成長していく息子を誇らしげに見つめ、優しく微笑んだ。


「大丈夫よ。あなたはもう十分すごいわ。これからも、あなたの好きに創ればいいのよ。」


その母の言葉に、ソーヤは不安が消え、少しだけ誇らしげに胸を張った。

見上げれば、王都の空は、燃えるような美しい夕焼けに染まっていた。

その眩い輝きは、まるで――

この世界に訪れる、新しい創造の時代の幕開けを、高らかに告げる希望の光のようだった。


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