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異世界ふぁみりぃ ~のんびり異世界生活~  作者: すぱ☆たま
アトレイア王国

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第21話 国王、正気を失う!?

ウェーノ村(仮)は、今日も平和でカオスな空気に包まれていた。


エルフたちは歌うように森の家を次々と自動で増築し、ドワーフの工房からは地響きのようなハンマーの音と眩い火花が絶え間なく散らされている。

獣人の子どもたちは風のような速さで村中を走り回り、拡張された巨大な池ではマーメル族が美しいコーラスを響かせている。

さらには、オートマト族が無機質な瞳で観測塔のレンズを微調整し、巨大なトレント族が森の風を整えるために木々をダイナミックに移動させていた。

それが、この村の常識であり、日常でもあった。


そんな規格外の光景のど真ん中——。


「アインさんの紅茶って本っっ当に最高! この村、完全に天国じゃない!?」


セレスティア王女は、ウェーノ家の縁側で完全にくつろぎきっていた。

窮屈な王族の靴を脱ぎ捨てて足をぷらぷらとさせ、膝の上ではウェーノ家の相棒であるクロを愛おしそうに撫でている。


「キュイ〜……。」


クロもすっかり喉を鳴らし、王女に対して完全に心を許しきっていた。

その光景を背後で見守る侍女のミーナは、額に手を当てて今にも倒れそうなほどの深いため息をついた。


「王女様。そろそろ本当に戻らないと……。無断で城を抜け出したのですから、きっと国王陛下も血眼になって探しておられます。」


「え〜。もうちょっとだけ……。」


「その“もうちょっと”が、すでに三時間も続いております!」


「……だって、こんなにワクワクして楽しい村、世界中のどこを探しても他にないもの。」


ミーナは心の中で全力で叫んだ。


(楽しいというか、そもそも村全体が人知を超えて狂っているのですが……!)


しかし、持ち前の好奇心が爆発しているセレスティアは全く聞く耳を持たない。


「ミーナ。あなたも立ったままじゃなくて座りなさいよ。ほら、アインさんのお菓子、ほっぺが落ちるくらいおいしいわよ?」


「私は仕事中です!」


ミーナの悲痛な叫びが、のどかな村の空に虚しく響き渡った。



お昼ごろになって、ようやくミーナの必死の説得にセレスティアが折れ、しぶしぶ帰り支度を始めようと腰を上げた、まさにその時だった。

ズゴゴゴゴォォォ……!

村の入口の方角から、地響きを伴う重厚な馬車の音が響いてきた。

ほどなくして、リベルタスの街へと続く街道に、黄金の装飾と巨大な獅子の紋章を掲げた馬車が所狭しと並んで停車した。


「……あれって……。」


「……まさか……!?」


ミーナの顔から、さぁっと血の気が引いていく。


豪華絢爛な馬車の扉が乱暴に開かれ、中から堂々たる風格と凄まじい覇気を纏った男が転がり出るように降り立った。

アトレイア王国国王・レオニス三世その人である。


「セレスティアァァァァァ!」


愛娘の姿をすぐに見つけるなり、レオニス国王の心配と安堵が入り混じった怒号が村中に響き渡った。


「お父様……!」


セレスティアが小走りで駆け寄ると、レオニスはなりふり構わず娘を力強く抱きしめた。


「無事でよかった……! お前が未知の化け物が住まうというあの”村”に向かったと報告を受けた時、父は心臓が止まるかと思ったぞ。」


「ごめんなさい……。でも、ここがあまりに素敵で楽しくて、つい時間を忘れちゃって……。」


レオニスは娘の頭を優しく撫で、威厳ある王から一人の安堵する父の顔を見せた。

——が。

次の瞬間、セレスティアの頭越しに、レオニスの視界へと『村の全景』が飛び込んできた。


エルフの森の家が、まるで意思を持っているかのように自動で枝を伸ばして建築を進め、

ドワーフの工房からは火山の噴火のような火花と魔力の残滓が飛び散り、

獣人の子どもたちが残像を残すほどの速度で木の上を跳び回り、

池からはおとぎ話の存在であるマーメル族が顔を出して手を振り、

古代兵器であるはずのオートマト族が無表情で観測塔の謎のレンズを調整し、

極めつけには、山のように巨大なトレント族が森の地形そのものを物理的に動かしている。


レオニスの顔から、すっと表情が消え去り、完全に固まった。


「………………。」


「お父様?」


「……セレスティア。ここは……本当に“村”なのか?」


「もちろん! すっごく楽しい”村”よ!」


「……楽しい……?」


レオニスは震える声で虚空を見つめながら呟いた。


(これは……国家レベルの異常事態、いや、大陸の生態系を揺るがす特異点ではないのか……?)


「お父様も一緒にここで過ごせば、すぐにこの村の楽しさがわかるわ!」


ここぞとばかりに、城へ帰らずに村で過ごすことを提案するセレスティア。

レオニスが助けを求めるようにちらっとミーナに目を向けると、彼女はすでに魂が抜けた顔で首を横に振っていた……。どうやら完全にお手上げのようである。



王の背後には、王国最強と名高い護衛騎士団が完全武装で控えていた。

普段はどんな強大な魔物を前にしても動じない屈強な強者達だが——


「うわあああああ!」


「な、なんだこの動く大木は!? 襲ってくるぞ!」


「ひぃっ、池から人魚が!? 幻術か!?」


「鉄の人形が喋ったぞ!? 呪いだ!」


「エルフが空中で家を作ってる!? 魔法の無駄遣いすぎる!」


「獣人の子どもたちが速すぎて目で追えん! 陣形を組め!」


歴戦の騎士たちは、村の圧倒的なカオスに完全に呑まれ、パニック状態に陥っていた。

レオニスは頭を抱える。


(……我が国の精鋭たちが……ただの村の日常風景で壊れていく……。)


そんな大混乱の中、騒ぎを聞きつけたトーヤが国王に家族をにこやかに紹介し、とりあえず家へと招き入れた。ちょうどお昼時であったため、アインがエプロン姿でふんわりと現れた。


「王様、長旅でお疲れでしょう? よかったら、お昼ごはんにこちらをどうぞ〜。」


差し出されたのは、畑で採れた野菜がたっぷり入った特製シチューと、ドワーフの窯で焼き上げたふかふかのパンだった。

毒見もせずにセレスティアが美味しそうに普通に食べているのを見て、レオニスも恐る恐るスプーンを口に運んだ。

——次の瞬間。


「……う……うまい……!」


「でしょ!」


「なんだこの優しい味は!凝り固まった心が、全身の細胞から染み渡るように癒されていく……!」


レオニスは、王としての威厳も忘れ、ボロボロと大粒の涙を流しながらシチューを夢中で食べ続けた。


「アインさん。あなたは……国宝だ……!」


「まぁ〜、嬉しいわ〜。」


アインはいつものように照れながらふんわりと笑った。



一方で、家の外では子どもたちによる別の騒動が引き起こされていた。

ソーヤが気まぐれで作った『超伝導式・自動水やり装置』を目撃した王宮の魔法技術班は——


「……これは……これまでの魔導工学の概念が根底から崩壊するぞ……。」


「少年……君は……一体何者だ……?」


「頼む、うちの王立工房に特待生として来てくれないか!? 破格の待遇を約束する!」


大人たちに詰め寄られ、ソーヤは困った顔で頭を掻きながら答えた。


「いや、僕は家の畑の道具をいじってるだけで十分楽しいんで……。」


さらにその横では、ユーヤがハイテンションで《ゲーマー》のスキルを発動していた。


「見て見て! 王女様に見せるために、とっておきのレアキャラを召喚したんだ!」


「出でよ! 超合金装甲・ドラゴン型ロボ・メカドラゴン!!」


ガシャアァァァァァン!!

眩い光と共に、重厚な金属音を響かせて巨大なメカドラゴンが出現し、空を轟音とともに飛び回り始めた。

王国軍の騎士たちは完全に限界を迎え、悲鳴を上げて散り散りになった。


「ドラゴンが出たぞぉぉぉ!?」


「いや待て、あれは鉄でできてるぞ!? 兵器か!?」


「どっちにしても危険すぎるだろう!? 誰か弓兵を呼んで止めろぉぉぉぉ!!」


ユーヤは無邪気な笑顔で叫んだ。


「大丈夫だよ!僕のパーティーメンバーだから!攻撃してこないよ!」


「…………。」


騎士たちの心は完全に折れていた。



外の凄惨な騒動など気にもとめず、極上の食事を終えたレオニスが、食後のハーブティーを優雅に飲んでいると、ふとアインの肩に乗る小さな黒いドラゴンに視線がピタリと止まった。


「……あれは……まさか……伝承にのみ残る“古代黒竜”……?」


「キュイ!」


クロが首を傾げて可愛らしく鳴いた。

レオニスはティーカップを持ったまま、再びガタガタと震え出した。


「……万物を滅ぼすという古代黒竜が……人に、しかもただの主婦に懐いている……!?」


「しかも……あんなに小さく……愛らしく……!?」


「これは一大事じゃ! 我が国の生態系図録と王国史を根底から書き換えねばならん!」


その横で、ミーナは心の中で血の涙を流しながら叫んだ。


(お願いですから、書き換えないでください……。これ以上国を巻き込まないで……!)



その後、村の狂気じみたカオスを一通り見渡し、疲労困憊となったレオニスはこれでもかというぐらいの深呼吸をした。


「……セレスティア。」


「なぁに、お父様?」


「……この村は……危険だ。」


「えっ?」


「“楽しすぎて”危険だ。」


「……え?」


レオニスは、遠い目をしながら震える声で続けた。


「ここにいたら……居心地が良すぎて、王としての責務を放棄して国に帰りたくなくなる……。」


セレスティアは我が意を得たりと満面の笑みで答えた。


「でしょ?」


ミーナはついに泣きそうな顔で叫んだ。


「陛下! 王女様! 早く、今すぐ国に帰りましょう!!」


レオニスは悟りを開いたような顔で深く頷いた。


「うむ……今日のところはいったん引き上げよう……。」


「……また来る。」


「えっ?」


「絶対に、公務の合間を縫って必ずまた来るぞ、ウェーノ家よ……!」


すっかりこの村の虜になってしまった国王の執念めいた宣言に、トーヤは苦笑しながら答えた。


「あはは……。いつでもどうぞ……。」


こうして、王女と国王によるウェーノ村(仮)訪問は、何事もなく?幕を閉じたのであった。

数日後、レオニス国王の特命により、ウェーノ村(仮)は国から正式な“特別自治村”として認定された。


そして——

アトレイア王国の秘密の歴史書には、この日の出来事がこう記されている。

『ウェーノ村訪問事件——王国史上、最も平和で、最も国王の心が乱された混乱の日』と。


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