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異世界ふぁみりぃ ~のんびり異世界生活~  作者: すぱ☆たま
第2章 隙間の庭

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第19話 “家族”を知る日

”ウェーノ村(仮)”の日常は、今日も恐ろしいほどに賑やかだった。


エルフの子どもたちが木の上からアクロバティックに手を振り、

獣人の子どもたちが土煙を上げて駆け回り、

ドワーフが工房で花火のような火花を散らし、

マーメル族が池で美しい合唱を響かせ、

オートマト族が静かに観測塔のレンズをキュイィンと調整し、

トレント族が巨大な葉を揺らして森の風を整えている。


そんな、世界中の神話がごちゃ混ぜになったような異常な光景の中心に、ウェーノ家はどっしりと(半ば諦め気味に)構えていた。

そして——

そのウェーノ家の縁側で、リルはぽつんと、少し所在なさげに座っていた。


「リルちゃん、温かいお茶が入ったわよ〜。」


アインが、湯気の立つ可愛らしいティーカップを差し出す。


「ありがとう。」


リルはそっと両手で受け取り、立ちのぼる芳醇なハーブの香りの湯気を見つめた。


(……あったかい。)


“庭”の冷たい空気の中には、こんな温かさはどこにもなかった。

「よっ。」と、ソーヤが縁側の隣に座り、ピカピカに磨かれた真っ赤なリンゴを差し出した。


「これ、さっき畑で収穫したばかりのリンゴ。めちゃくちゃ甘くておいしいから、食べてみなよ。」


「……うん。ありがとう。」


反対側からは、ユーヤが携帯ゲーム機のような謎のデバイスを叩きながら割り込んでくる。


「ねぇ、リル姉ちゃん! 僕がさっき召喚したこのスライムナイト、すっごくカッコ可愛いくない!?」


「うん。すごくかわいいね。」


子どもたちのそんな騒がしい様子を見ながら、トーヤは縁側の柱によりかかり、穏やかに笑った。


「リル。もう遠慮なんていらないぞ。ここはもう、君の家みたいなものなんだから。」


「いつでも、毎日でもおいで。」


「……家!?」


その言葉が、リルの胸の奥に深く、深く響いた。


(……家……。私に……帰る場所が……そんな場所が、あるの……?)


温かいお茶の熱とは違う、胸の奥がじんわりと熱を帯びていくのを感じた。



夕方、村のあちこちから夕飯のいい匂いが漂い始めた頃、アインがキッチンから顔を出した。


「リルちゃん、今日は晩ごはん、一緒に食べていく?」


「えっ……いいの……?」


「もちろんよ〜。あなたはもう、私たちの大切な家族だもの。」


「家族……。」


その単語に戸惑うリルに、ソーヤがニコリと笑いかける。


「そうそう。リルはもう、俺の可愛い妹みたいなもんだよ。」


ユーヤも負けじと胸を張る。


「僕の優しいお姉ちゃんになってよ!」


クロもユーヤの頭の上に飛び乗り、誇らしげに鳴いた。


「キュイッ!」


リルは、溢れそうになる感情に胸がいっぱいになった。


(こんな気持ち……本当に、初めて……。“庭”では、何百年もずっと一人で、冷たい光を見てるだけだったのに……。家族って……こんなに、あったかいんだ……。)


リビングの大きな食卓には、ウェーノ農場で採れた新鮮な野菜をたっぷり煮込んだ特製シチュー、ドワーフの窯で焼き上げた外はカリカリ・中はフワフワのパン、エルフの森で採れた瑞々しい果物の盛り合わせが、所狭しと並べられていた。

アインが笑顔で湯気の立つ皿を並べる。


「さぁ、たくさん食べてね〜。」


「……うん。」


リルはスプーンを握り、シチューを一口、口に運んだ。


(……おいしい。こんな優しい味……知らなかった。)


ソーヤが焼きたてのパンを渡してくれる。


「これもシチューにつけて食べなよ。最高だから。」


「ありがとう……。」


ユーヤが真っ赤なイチゴを差し出してくる。


「食後のデザートは早い者勝ちだよ! これすごく甘いから!」


「……うん。」


トーヤが、自分のグラスに水を注ぎながら優しく言う。


「リル。うちでは本当に遠慮しなくていいんだ。お腹いっぱいになるまで食べなさい。」


「……うん……。」


胸が、あたたかくて、苦しくて、幸せで。

気づけば、リルの大きな瞳から、ぽろぽろと大粒の涙が零れ落ち、シチューの皿に波紋を立てていた。


「リルちゃん!? どうしたの、熱かった!?」


アインが慌てて駆け寄る。


「ごめん……、ごめんね……。」


リルは首を激しく振り、袖で涙を拭った。


「違うの……。悲しくないの……。こんな気持ち……生まれて初めてで……。みんなと一緒にいると……優しくされると……胸が……あったかくて、涙が止まらなくなるの……。」


アインはほっと微笑み、そっとリルを抱きしめ、その背中を撫でた。


「それはね、リルちゃんが私たちとの繋がり——“家族”を感じてくれてる証拠よ。」


「……家族……。」


その言葉を心の中で何度も反芻しながら、リルはアインの温かい胸に顔を埋め、声を出して泣いた。


(家族って……こういうものなんだ……。こんなに……優しくて……あったかくて……絶対に手放したくないものなんだ……。)



賑やかで温かい夕食を終え、涼しい夜風に当たりながら、“庭”への帰り道を歩く。

リビングの隅に設置されたゲートの前に立った時、リルはふと胸に手を当てた。


(……あれ……?)


胸の奥で、かすかな光が揺れたような気がした。


ちり……ん。


ソーヤが作ってくれた腕輪の鈴が、風もないのに、澄んだ音を立てて鳴った。


「……?」


リルは驚いて腕輪を見つめる。


(誰かが……呼んでる……?)


胸の奥深く、《ツイン・メモリー》として宿ったもうひとつの声が、微かに、けれど確かな意思を持って響いた。


——リル……。

——あったかい……ね……。

——もっと……感じたい……。


リルは息を呑んだ。


(この声……知ってる……。でも……あの時、消えたはず……。)


影の少女——

リルの“もう一人の自分”。

ツインメモリーの中に溶け込んだはずの存在。

その気配が、確かにリルの心と共鳴して揺れたのだ。


「……もしかして……。」


リルは胸に両手を当て、そっと、自分の中のもう一人に語りかけるように呟いた。


「あなたも……このあったかさを、一緒に感じてるの……?」


腕輪の鈴が、再び優しく鳴った。


ちりん……。


それはまるで、“うん、すごく温かいよ”と答えているようだった。


「……そっか。」


リルの目から、また一筋の涙がこぼれ落ち、しかしその口元は優しく微笑んでいた。


「じゃあ……これからも一緒に感じようね。」


「みんなのあったかさを……二人分にして。」


リルはゲートへと歩き出した。その小さな背中を、村の夜風が優しく包み込む。

そして——

“庭”の奥深くで、完全に消滅したはずの黒い影が、ほんのわずかに揺れた。

まるで、温かな毛布の中で、ゆっくりと目を覚まそうとしているかのように。


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