第14話 世界とつながる
翌朝。
昨日のアインのアドバイスで立ち直ったかと思いきや、朝食の席でユーヤは、相変わらず未練がましく、ソーヤのことをジィィィーッと見つめていた。
「だからユーヤ、視線が痛いって。」
「フン、兄ちゃん、油断するなよ。僕の遊び心が限界突破した時が、僕の進化の時だからね!」
そんな子供たちの微笑ましい小競り合いを眺めながら、アインがお皿を洗おうとキッチンへ向かった、その瞬間だった。
ふわり、とリビング全体の空気が、まるで見えない大気のベールに包まれたかのように、優しく、そして急激に濃密な生命力で満たされた。
「……あら?」
アインがパッと手を止めて窓の外を見る。
すると次の瞬間、家の周りの森から、何百羽という色とりどりの小鳥たちが一斉に集まってきて、窓辺や屋根の上で大合唱を始めたのだ。
それだけではない。畑の瑞々しい野菜や、庭に咲く色鮮やかな花々が、まるで意思を持っているかのように、一斉に茎を伸ばしてアインのいるリビングの方向へと身体を傾けた。
「な、なんだ!? 急に外が騒がしく……って、植物が動いてる!?」
トーヤが驚愕して立ち上がる。
その時、アインの目の前に、透き通るようなエメラルドグリーンのステータス画面が静かに浮かび上がった。
『ユニークスキル:《テイマー》――進化条件を完全に達成しました。』
『世界生命体および概念存在との全調和を確認。これより《ネイチャー・リンク》への移行を開始します。』
「あらあら、なんだか……お母さんも、スキルが進化できるみたいよ〜?」
アインがのんきに小首をかしげて告げた瞬間、リビングにいた男手三人の絶叫がシンクロした。
「「「はあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーっっっ!???」」」
特に、ユーヤのショックは計り知れなかった。ガタァッと椅子をひっくり返して立ち上がり、頭を抱えて叫ぶ。
「兄ちゃんの次は母さん!? 僕、まだ何も始まってないのに!! スキルの進化ってそんなにバーゲンセールみたいにポコポコ起きるものなの!? 順番がおかしいよ、神様ぁぁぁ!!」
「まあまあ、ユーヤ、落ち着いて〜。じゃあ、えいっ!」
アインがいつものノリで画面の進化ボタンをポチっと押すと、リビングの中に、まるで光る花の蜜のような、芳醇で美しい光の粒子が舞い散った。
彼女の持つ《テイマー》のスキルが、次元の違う全自然調和スキル《ネイチャー・リンク》へと昇華していく。
「……す、すごいわ。世界中の風や、土や、木々たちが、まるで私のお友達みたいに、いっぱい話しかけてくれてる……。」
アインがそっと手をかざすと、リビングの床の木目から小さな緑の芽が吹き出し、あっという間に綺麗な花を咲かせた。
「……父さん。これ、完全に『自然の女神』とか、そっちの領域のチートスキルじゃない?」
ソーヤが冷や汗を流しながら呟く。
「ああ……。母さんがこれ以上強くなったら、いよいよこの世界の生態系バランスが崩壊しかねんな……。」
トーヤも額を押さえて戦慄している。
そして、ユーヤはというと、あまりの格差と置いてきぼり感に、完全に真っ白な灰となってテーブルに突っ伏していた。
「もうやだぁ……。母さんチートすぎるよ……。僕のゲーム機、完全に初期型のエラー持ちじゃん……ううぅ……。」
ウェーノ家のパワーバランスが、また一歩、人知れずとんでもない方向へと傾いた朝だった。




