番外編 リルの記録——はじめての来訪者たち
私はずっと、この場所にひとりだった。
“隙間の庭”。
どの世界にも属さない、どこにも存在しない場所。静かで、そして変わらない場所。
それが当たり前だった。
……少なくとも、あの日までは。
◆
最初に違和感を感じたのは、数日前。”庭の広がり”が、止まらなくなったときだった。
(……おかしい。)
本来、この場所は均衡を保つはずなのに、少しずつ“外側に押し出される”ように広がっている。原因はすぐに分かった。
”庭の向こう側”、つまり“現実の世界”が影響している。そこから流れ込んでくる魔力の質が、異常だった。
(こんな濃度、ありえない……。)
しかも、ただ強いだけじゃない。秩序があるようで、ない。自然のようで、人工的。あまりにも矛盾している。
(何これ……少し外の世界を覗いてみよう。)
そう思った瞬間——目の前の空間が、揺れた。
「……え?」
あまりの出来事に理解が追い付かない。本来、外からこの場所に入ることはできない。なのに、“向こう側”から、誰かが入ってきた。
現れたのは、四人。男性が一人、女性が一人、そして子供が二人。
(……なんで普通に入って来れてるの!?)
(ありえない。本当にありえない。)
ここは“誰も入れない場所”。そういう前提で成り立っているのに。
「こんにちは。」
声をかけたのは、半分無意識だった。本当は様子を見るつもりだったのに…。
振り返った彼らを見て、まず思ったのは、
(なんだか、温度がある。)
この場所では感じない“生の気配”。強くて、やわらかくて、うるさい。……でも、嫌じゃない。ただ、存在感だけが異常なオーラを放っていた。その存在感に圧倒され、思わず問いかけた。
「あなたたち…何かした?」
返ってきた答えが、
『畑を作った』
『魔法を使った』
『召喚した』
『創作した』
『自動化した』
『種族が集まった』
(うん、"庭”の異変の原因はこれだ……。)
完全に確信した。この人たちが外の世界を押し広げている。それが”庭”にも影響している。でも、不思議なことに、怖くなかった。普通なら、もっと警戒する。だって彼らは異常だから。
「この“隙間の庭”を守るのを、手伝ってくれない?」
気づいたら、そう言っていた。本当は、こんなお願いをするつもりはなかったのに…。
でも——、
(この人たちなら、大丈夫かもしれない。)
そう思ってしまったから。そして、その確信はすぐに証明された。
ふいに、黒い“ズレた存在”が現れた。普通なら、逃げるか、抵抗して崩壊する。でも、
「フリーズ。」
それだけ。たったそれだけで、”ズレた存在”が跡形もなく消え去った。
(は……?)
理解が追いつかない。強いとか、すごいとか、そういう話じゃない。完全に“世界のルール”に干渉してる。圧倒的な力を持ちつつも、彼らは、壊そうとしない。奪おうとしない。ただ、楽しそうにしているだけ。
「景色すごいね〜」
「ここ住めるかな?」
この家族は、危険じゃない。むしろ、
(変な人たち)
そう思って、少し笑ってしまった。そして、
(また来てね。)
それは、この庭で初めての感情だった。




