第10話 ウェーノ家、“隙間の庭”の掃除をする⁉
初めて“隙間の庭”を訪れてから数日が経っていた。朝食を食べようとしていたユーヤがおかしなことに気付いた。
「母さん、このパンなんか冷たくない?」
「え?焼きたてだよ?」
アインが首をかしげながらパンを触る。
「ほんとだね。不思議ね〜。さっき焼いたばかりなのに…。」
そのやり取りを見ていたソーヤが腕を組んで考え込んでいる。
「これ、“庭”の影響じゃないかな。」
「そうだよな。やっぱり無関係ないよな…。」
ソーヤの意見に、トーヤが頷いた。リルに話を聞くために、“隙間の庭”に行くかどうか悩んでいると、目の前の空間が歪みゲートがゆるっと開いた。
「おはよう。」
リルがひょこっと顔を出した。
「「びっくりした!」」
「お、ちょうどいいところに。」
子供たちが驚いているのも気にもとめず、渡りに船とばかりに、トーヤがリルに声をかける。
実は、先日、トーヤが世界のバランスを保つのに協力すると宣言したことにより、リルと共同で“隙間の庭”を管理する者と認識されたようで、リルとトーヤの間では、ゲートを自由に開けれるようになっていた。
◆
リルがリビングの椅子に座るのを待って、アインがリルに紅茶を差し出す。改めて、トーヤがリルに話しかけた。
「うちの家で少し奇妙なことが起こってるんだ。もしかして、”庭”の影響を受けてる?」
それを聞いたリルが、あー…という顔をした。
「やっぱり…。」
「え?やっぱり?」
リルの返事を聞いて、全員きょとんとして聞き返す。
「最近ね、“庭”がちょっと汚れてきてるの。」
「……汚れてきてる?」
「うん。」
「もともと“庭”は、いろんな世界の“余りもの”が流れ込むことがあるの。」
「残った魔力とか、途中で形にならなかったものとか。」
「あと、世界から忘れられたものも流れ込むことがあるわ。」
それを聞いて、ユーヤが目を輝かせる。
「え、それってレア素材なんじゃ…。」
「いや。ゴミだから。」
ユーヤの発言は、リルに即却下された。トーヤがため息をつきながら、話を続ける。
「つまり、”庭”が汚れているのが原因で、こっちの世界にも影響してるってことか?」
「そう。」
リルが頷く。
「それで……お願いがあるんだけど。」
ちょっと言いにくそうにするリルだが、意を決して口を開く。
「あの…掃除を…手伝ってくれない?」
それを聞いて、全員沈黙。
「……異世界でも掃除かぁ。」
「なんか、めんどくさそう…。」
ソーヤ、ユーヤが気乗りしない様子だが、アインとクロは、賛成の様子。
「でも、リルちゃんが困ってるんだから、みんなで手伝いましょう?」
「キュイィィ!」
「世界のバランスを取るのに協力するっていったし、朝食を終えたら、みんなで“庭”に行こう。」
「ありがとう!」
最後に、トーヤが子供たちをなだめて、みんなで“隙間の庭”の掃除を行うことになった。そのまま、リルも一緒に朝食を食べていくことになり、みんなで遅めの朝食会となった。
◆
朝食を終えて、“隙間の庭”に入った瞬間、目に入ってきた光景に、思わずユーヤが声を上げた。
「うわっ!」
そこには――、空中に浮かぶ謎の物体たち。『途中まで作られた剣』、『ぐにゃぐにゃのリンゴ』、『半透明のぬいぐるみ』、『スライムのような物体』などなど。
「あー……これはひどい。」
浮遊しているものを眺めながら、ソーヤが苦笑する。
リルは申し訳なさそうに、つぶやいた。
「普段は自然に消えるんだけど…最近増えすぎて…。」
ウェーノ家の異世界改造の影響もあると思うと、少し気の毒になったトーヤ。
「よし、一気にやるか。」
「この中に必要な物はないよな?」
「ええ。私にはゴミでしかないです。」
リルに確認を取ってから、一歩前へ出る。
「フリーズ。」
空中を漂っていた物体がピタッと止まる。
「それぞれスキルを発動させるんだ。」
それを聞いたソーヤは、スキルを発動させた。
「クリエイトで再構築するね。」
ぐにゃぐにゃだった物体が、ちゃんとした形になって消えていく。
ユーヤはみんなに背を向けて、何やら怪しげな動きをしている。
「これは…ゲームに使えそう…。」
「持ち帰るな!」
トーヤにすぐにばれて、また叱られていた。
アインはというと――、
「大丈夫よ〜。」
浮遊している物体に、ふわっと手をかざす。
「みんな、元の場所に帰れる?」
すると、物体たちがふわふわと光に変わり、どこかへ消えていく。その光景を見ていたリルが目を丸くしていた。
「……それ。」
「普通、そんなことできないよ?」
リルの問いかけに、アインは首をかしげるだけだった。
「そう?お話しできそうだったから、お話しして元の場所に帰ってもらっただけだよ。」
今回は、クロも参戦して、
「キュアァ!」
と一声鳴くと、空間のゴミが一気に浄化されて、跡形もなく消えた。
目の前で繰り広げられる光景を前に、リルは茫然としていた。
「本当は、一つ掃除するだけでも大変なのに…。」
「……何なの…この人たち。」
リルがあきれている内に、あらかた掃除が完了して、”隙間の庭”は見違えるように綺麗になった。
「これでどうだ?」
トーヤが聞くと、リルはぐるっと周りを見る。
「……うん。」
「すごくいい状態。」
そして、満面の笑みで、
「ありがとう。助かったよ。」
とみんなに感謝の気持ちを伝えた。
◆
掃除も終えたので、そろそろ帰り支度を始めようとしていた矢先、目の前の空間から、ぽとっと何かが落ちてきた。それは、手のひらサイズの小さな光のかけらだった。
「これは…?」
トーヤが問いかけると、リルが答えた。
「“安定した欠片”。」
「この”庭”が浄化されたときにだけできるの。」
ユーヤが手に取ると、柔らかくて、そしてほんのり温かかった。
「これってなにか意味があるの?」
ユーヤの問いに、リルが少し考えて、答えた。
「うーん……。」
「私もあまり見たことがないから分からないけど、その人の望んだ”理想”の形になるって聞いたことがある。」
「じゃあ、その人が欲しいものに変形するってこと?」
「だとしたら、すごいお宝じゃない?」
リルの言葉に、ユーヤの目がランランと輝いていた。
「もしよかったら、掃除のお礼に持って帰って。」
「それじゃあ、お言葉に甘えて、持って帰るか。」
リルの了承も得られたので、そのまま持って帰ることにした。
◆
帰宅後、さっそくユーヤが欠片を取り出し、願いを込めながら、握りしめた。すると、欠片が光り、辺り一面が光りに包まれた――次の瞬間、ぽんっという音がした。
「……え?」
欠片から出来上がったのは、どこにでもありそうな普通のクッションだった。
「いやなんで⁉」
それを見ていたソーヤが大爆笑している。
「ユーヤの“理想”ってクッションだったんだ!」
「あら~。でも、触り心地はすごくいいわよ。このクッション。」
落ち込んでいるユーヤをアインがフォローしている。
「キュイ!」
そんなやりとりを横目に、クロはクッションが気に入ったのか、体を預けてくつろぎ始めた。まるで最初から自分のものだと言わんばかりに、羽づくろいも始めていた。
今日もウェーノ家の平和な一日が終わろうとしていた。




