第9話 ウェーノ家、もう一つの“世界”を見つける!?
ある日の午後。家族みんなで畑の様子を見ているときに、
「なぁ、改めて思うけど、この畑…広がりすぎじゃないか?」
トーヤが遠くまで続く畑を見ながら呟いた。
「うん。でも便利だからいいよね〜。」
アインはいつも通りマイペースである。
「いや、物理的におかしくなってる気がするんだよな…。」
トーヤの疑問に、ソーヤも頷く。
「昨日測った広さより、ちょっと増えてる気がするんだけど…。」
「もしかして、畑が…成長してる?」
「そんなことってある?」
ユーヤがぽかんと呟いた、その時、
――ぐにゃり、と畑の一角の空気が、ゆがんだ。
「……今、見た?」
「見た。」
「見た〜!」
全員が同時に反応する。次の瞬間、ぽつん、とそこに“何もないのにゲートのようなもの”が現れた。
「……なにこれ。」
「入口みたいだな。」
「危ないから俺だけ――。」
と言いかけたトーヤを遮って、
「「行く!」」
とソーヤとユーヤが身を乗り出した。いつもの流れである。それを見ていたアインもにっこりして、
「みんな一緒がいいわよね♪」
「……はいはい。」
観念してみんなで行くことにしたトーヤである。
◆
現れたゲートの中に入っていくと、そこはまったく違う風景だった。空は淡い紫色。風はゆっくり流れ、地面は柔らかく光っている。太陽はないものの、地面が光っているからか、ある程度遠くまで見渡せた。
「……異世界の中の異世界…?」
その光景を見て、ソーヤが呟く。
「ゲームの隠しマップみたい!」
テンションが上がるユーヤ。
全員が周りをきょろきょろしていると、ふいに、
「こんにちは。」
と背後から静かな声が響いた。
振り返ると、そこには少女が立っていた。白い髪に、透き通るような体。どこか“存在が薄い”気がする。
「あなたたち…ここに入れるんだ。」
「ここ、って?」
トーヤが警戒しながら少女に問いかける。
「ここは“隙間の庭”。」
「世界と世界のあいだにある場所です。」
「本当は誰も来れないはずなのだけれど…。」
少女は少し寂しそうに言った。
「でも最近、なぜかこの場所が広がってて…。」
「誰かの影響を受けてるみたい。」
全員、無言で視線をそらす。犯人にだいたい見当がつくからである。
(絶対うちだな…。)
トーヤの心の声が漏れ聞こえたのか、
「あなたたち、何かした?」
と少女に問われ、
「えーと、畑作って。」
「魔法使って。」
「召喚して。」
「創作して。」
「自動化して。」
「いろんな種族が集まり始めた。」
「……これ、だめなやつじゃない?」
と説明しながらも、ソーヤが冷静に自分にツッコんでいた。
それを見ていた少女が少し笑った。
「ふふ、面白いね。」
「でもそのせいで、この場所が“現実に近づいてる”。」
「このままだと――。」
一瞬空気が静まる。
「いろんな世界が混ざるかもしれない。」
「それって危ないのか?」
思わず、トーヤが聞き返す。
「……場合による。」
「でも、あなたたちは大丈夫そう。」
「なんでだ?」
少女はまっすぐ見つめる。
「だって、ここに来ても」
「全然壊してないから。」
確かに。普通なら脱出を試みたり、貴重な資源を採取しようと、興味本位でこの世界に干渉しようとするところだが、この一家は、
「景色すごいね〜。」
「ここに住めるのかなぁ?」
「この地面どうして光ってるんだろう?」
くらいしか考えていない。そんなウェーノ家を見ていて、安心したのか、
「お願いがあるの。」
少女が一歩近づいた。
「この“隙間の庭”を守るのを、手伝ってくれない?」
「守る?」
「うん。変なものが入り込まないように。」
そのとき、ざわっと空間が揺れ、遠くに黒い影が現れた。少女がおびえながらその影を指をさす。
「……あれが、“ズレた存在”。」
「世界のバランスが崩れたときに出てくるの。」
「そして、世界の秩序を乱していく…。このままでは、この世界もあなたの世界もただでは済まないわ。」
それを聞いて、トーヤがすぐさま一歩前に出る。
「フリーズ。」
影がぴたりと止まり、そして、すーっと消えていった。
「ここに現れたときから思ってたけど、やっぱりすごいね、あなたたち。」
少女が驚く。
「これぐらいは、大したことじゃない。」
「それよりも”ズレた存在“が現れないようにするには、どうしたらいいんだ?」
「世界のバランスを乱さないこと。“隙間の庭”が“そのままであり続ける”ことよ。」
「そういうことなら…。」
少女の言葉を聞いて、トーヤが提案する。
「世界のバランスを保つのに協力するよ。」
「まぁ、俺たちが原因かもしれないけど…。」
「これ以上俺たちの世界も無理に広げないようにする。」
「畑もほどほどに…。」
それを聞いていた子供たちが横から、
「えー!」
「まだやりたいことがあるのに!」
「完全自動化もまだ途中だし…。」
と文句を言い始めたので、
「まったくダメとは言ってない。」
「世界のバランスを保てるように、控えめにするだけだ。」
トーヤに諭されて、子供たちもしぶしぶ納得する。
「……ほんとに大丈夫なの?」
その様子を見ていた少女が不安そうにしている。
「大丈夫…、だと思う。」
はにかみながらトーヤが言った。
「この家族、暴走しても――」
「ちゃんと“戻ってくる”から。」
少女はしばらく見つめて、そして小さく頷いた。
「……それじゃあ、お願いします。」
その後、“隙間の庭”と世界のバランスについて、あれこれ話し合った。少女の名前は、『リル』といい、永劫の時間ずっと一人でこの庭を守ってきたらしい。
「ずっと一人きりは寂しいよ…。」
ボソッとユーヤが漏らしていた。
「遊びに来るぐらいなら、世界のバランスは崩れないよね?」
「それぐらいなら大丈夫だと思う…。」
「じゃあ、お兄ちゃんと一緒に遊びに来るね♪」
「ありがとう。」
ユーヤのその申し出に、リルの表情が明るくなったのは、気のせいではないだろう。庭に来てから数時間は経っており、子供たちがお腹をすかせているようなので、そろそろ家に帰ることにした。リルに別れの挨拶をして、庭を後にする。
(また来てね。)
リルがみんなの背中に微笑みかけていた。
◆
外に出ると、いつもの畑の光景が広がっていた。体感では、数時間経っているはずなのだが、まるでまったく時間がたってないように、まだ昼過ぎのようだった。
「……夢じゃないよな。」
「うん、たぶん“裏フィールド”だよ。」
「これ絶対重要エリアだよ!」
子供たちがそれぞれの感想を口にしていた。決して夢ではなかったようだ。
(ちゃんと世界のバランスを取らないとな。)
一人決意を固めるトーヤであった。




