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第93話 勧誘の結果

 浮田総二。

 白石広志。

 竹田栄司。


 三人の勧誘に成功した時、高橋雪夜は初めて、胸の奥に小さな安堵を感じていた。


 野球部は、終わらない。


 その確かな感触が、そこにあった。


 だが――


 全てが、うまくいったわけではなかった。


 部室に集まった七人の空気は、決して明るいものではなかった。


 進藤竜也は壁にもたれ、腕を組んでいた。

 六条遊人は椅子に座り、床を見つめている。

 田中三郎と中山太郎も、言葉を発することはなかった。


 そして、新井元気が、小さく息を吐いた。


「……駄目だったよ」


 その一言で、全てが伝わった。


 元気は、雪夜と同じ中学校の出身だった。

 だからこそ、誰よりも期待していた。


 だが――結果は、違った。


 後輩たちは、元気の誘いに応じなかった。


 理由は、雪夜にも分かっていた。


 元気は、いつも小山唯と一緒にいた。


 幼馴染であり、恋人でもある少女。


 それ自体は、悪いことではなかった。


 だが――


 元気は、唯とばかり練習していた。


 他の後輩たちと関わる時間は、決して多くはなかった。


 後輩たちが何かを聞きたい時、頼ったのは――元気ではなく、雪夜だった。


 元気は、苦笑するように言った。


「雪夜だけだね……」


 誰を見るでもなく、呟く。


「雪夜は、後輩に好かれてたもんなぁ」


 責めるような言葉ではなかった。


 ただ、事実を受け入れた声だった。


 雪夜は、少しだけ視線を落とした。


「元気は……唯とばかりいたからだろう」


 静かに言う。


「唯とばかり練習してたから、みんな、僕に聞きに来ていたんだよ」


 それは、責める言葉ではなかった。


 ただの――現実だった。


 元気は、何も言わなかった。


 ただ、小さく笑っただけだった。


 進藤たちも、同じだった。


 進藤竜也。

 六条遊人。

 田中三郎。

 中山太郎。


 誰一人として、勧誘に成功することは出来なかった。


 東鶴間高校野球部は、万年一回戦負けの弱小校だった。


 今年は――違った。


 四回戦まで進んだ。


 それは、確かな前進だった。


 だが、それでも。


 それだけでは――足りなかった。


「……まさか、誰も来たがらないとはな」


 誰かが、小さく呟いた。


 答える者は、いなかった。


 唯一、夏目真衣だけが口を開いた。


「……弟が」


 全員の視線が、夏目に向いた。


「入学を、考えてみるって言っていました」


 だが、その言葉には、確信はなかった。


 “考えてみる”――それだけだった。


 それでも。


 それが、唯一の可能性だった。


 部室の中に、静かな時間が流れた。


 やがて、進藤が顔を上げた。


「……三人は、来るんだよな」


 雪夜は、頷いた。


「はい」


 浮田総二。

 白石広志。

 竹田栄司。


 三人は、確かに来ると言った。


 それだけで――十分だった。


 進藤は、小さく息を吐いた。


「だったら……考えても仕方ないか」


 その言葉に、誰も反対しなかった。


 今出来ることは、一つしかなかった。


 野球を続けること。


 それだけだった。


「……練習、戻ろうか」


 進藤が言う。


 全員が、静かに立ち上がった。


 部室の扉を開けると、夕暮れの光が差し込んできた。


 グラウンドは、そこにあった。


 何も変わらず、そこにあった。


 雪夜は、一歩を踏み出した。


 三人が来る。


 それだけで――未来は、続いていく。

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