第9話 練習
勧誘活動を終え、放課後になると、高橋雪夜と夏目真衣は野球部の練習に合流した。
雪夜は主に二塁の守備練習に取り組んでいた。
捕手にこだわりはあるものの、今はチームのためにサブポジションを鍛える必要があった。
一方、捕手はキャプテンの渡辺貴明と二年の中山太郎が争っている状況だった。
中山は外野と一塁も守れるよう、黙々と守備練習を重ねている。
少しずつではあるが、チームの形は整い始めていた。
――ただし。
新井元気と天宮真十郎が、まだ合流していない。
練習は依然として九人だけで行われていた。
それでも、この数日前までを思えば、大きな前進だった。
練習を終えた野球部の面々は、それぞれ帰路についた。
家に着いた雪夜は、自室に荷物を置くと、スマートフォンを手に取った。
画面には、小山唯の名前が表示されている。
「もしもし、唯」
『雪夜?』
「今日はありがとう。元気を野球部に入れてくれて」
『いいの』
唯は、あっさりとそう言った。
『私は、元ちゃんに野球をしてほしかっただけだから。お礼なんていらないよ』
「そうか……」
雪夜は少し笑って続けた。
「しかし、元気も単純だよな。
唯に言われて、プロ野球選手を目指すなんてさ」
『まあね』
唯はくすっと笑う。
『そこが、元ちゃんのいいところなんだよ』
「はは……それは言えてる」
少し間が空いてから、唯が静かに言った。
『それにね……雪夜と元ちゃんが野球をしてくれるの、私は嬉しいの』
「へぇ……そうだったのか」
『中学の野球部を引退してから、二人とも、また野球をしたそうに見えたから。
だから……本当に良かった』
「そうか……」
雪夜は、ゆっくりと息を吐いた。
「なら、やれるだけのことは、やらないとな」
『そうそう』
唯は明るく言った。
『目指すは、まず一回戦突破だね』
「はは……まずは、そこからだな」
『じゃあ、また明日』
「ああ、また明日」
通話が切れ、部屋に静けさが戻る。
夕飯を食べ、風呂に入り、雪夜は布団に入った。
だが、すぐには眠れなかった。
天宮真十郎の返事を待つ不安。
高柳龍二郎に断られた悔しさ。
そして、新井元気が入部を決めてくれた嬉しさ。
――今日は、本当に色々あった。
体の奥に溜まった疲れを感じながら、雪夜は目を閉じた。
やがて、意識はゆっくりと沈んでいき、
高橋雪夜は静かな眠りについた。




