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第10話 誕生

 翌日。


 東鶴間高校野球部の面々は部室に集められていた。

 いつもより、少しだけ空気が張りつめている。


 その中心に立った夏目真衣が、深呼吸をして口を開いた。


「みなさん。今日は、野球部に入部してくれる二人を紹介します」


 視線が一斉に集まる。


「天宮真十郎君と、新井元気君です」


 前に出た新井が、明るく頭を下げた。


「新井元気です。ポジションは外野希望です。よろしくお願いします!」


 続いて、少し緊張した面持ちの天宮が一歩前に出る。


「天宮真十郎です。ポジションは投手で、三塁と外野もできます。よろしくお願いします」


 拍手が起こった、その直後だった。


「……あと、天宮君から一つ、お願いがあります」


 夏目の言葉に、部室が静まり返る。


「入部の条件についてです。

 天宮君が投手をする時、高橋雪夜君を捕手に起用すること。

 これが、条件となります」


 一瞬、どよめきが走った。


 だが、キャプテンの渡辺貴明をはじめ、部員たちは顔を見合わせたあと、再び拍手を送った。


「よろしくな!」


「期待してるぞ!」


 その声に、天宮と新井は深く頭を下げた。


 やがて、グラウンドでの練習が始まる。


「天宮君」


 高橋雪夜は、マスクを手にしながら声をかけた。


「あんな条件を出して……よかったの?」


「僕が投げる時、君が捕手をしてくれるんだろう」


「そうは言ったけどさ……上級生によく言えたね」


 天宮は、少しだけ口角を上げた。


「嫌なものは、嫌だって言う。

 それって、投手に必要な要素だと思うよ」


「……まあ、弱気よりはいいけどね」


「それに」


 天宮は真剣な目で言った。


「僕が打たれて負けても、君は僕のせいにしないんだろう?」


「当然だよ」


 雪夜は即答した。


「君のせいになんて、しないさ」


「……そういうことだよ」


 天宮は、ボールを握り直した。


「さあ、投球練習を始めよう」


「そうだね。まずは、そこからだ」


「最初に、球種を教えるよ」


「確か……スライダー、シュート、フォークだよね」


「よく知ってるね」


「中学の時、対戦する可能性があったから調べてたんだよ」


「そうなんだ。でも、球速はあまり速くないから……期待しないでほしい」


「分かった。じゃあ、投げてみようか」


 雪夜はマスクを被り、腰を落として構えた。


 天宮がマウンドに立ち、軽く息を整える。


 ――ストン。


 ミットに、鋭い衝撃が走った。


「……っ!」


 雪夜は思わず声を上げた。


「思ったより速い。今の、軽く130キロは超えてるよ」


「え……そんなに?」


「うん。次は、変化球も混ぜてみよう」


 天宮は頷き、次々と球を投げ込んでいく。


 スライダー、フォーク、シュート。

 三十球ほど受けたところで、雪夜はマウンドへ向かった。


「天宮君……自主トレしてた?」


「うん。走り込みと投げ込みは、ずっとやってたよ」


 不安そうに続ける。


「……どうだったかな、僕の球」


「かなり良いよ」


 雪夜ははっきりと言った。


「球速も出てるし、変化球も切れてる」


「それなら、よかった……」


 天宮は、ほっとしたように息を吐いた。


「正直、何て言われるか不安だったから」


「不安になることはないよ」


 雪夜は、真っ直ぐに言った。


「僕たちは一年生だ。

 あと二年もある。大丈夫だよ」


「そうだね」


 天宮は小さく笑った。


「二年もあるなら、じっくり身体を作るよ」


「ただし、無理は禁物だよ」


「分かってる。無理はしないさ」


 そう約束し、二人はグラウンドに戻った。


 その日の練習を終え、野球部の面々はそれぞれ帰路についた。


 この日――

 天宮真十郎と高橋雪夜の一年生バッテリーが、静かに誕生した。

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