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第11話 高柳、再び

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。ここから高柳龍二郎の話となります。よろしくお願いします

 天宮真十郎と新井元気が入部してから、数日が過ぎていた。

 東鶴間高校野球部には活気が戻り、グラウンドには笑顔と声が増えている。


 ――それでも。


 その輪の中に、高柳龍二郎の姿はなかった。


 高橋雪夜と夏目真衣は、ときどき同じことを思っていた。

 もし、高柳がここにいたら――と。


 その日、雪夜は決めていた。


 高柳を、もう一度だけ勧誘しよう。


 放課後、雪夜は高柳を屋上に呼び出した。

 来てくれるかどうかは分からない。それでも、屋上で一人、待ち続けていた。


 しばらくして、扉が軋む音を立てて開いた。


 高柳龍二郎が、屋上に姿を現した。


「俺を屋上に呼び出して……何の用だよ」


「君を……野球部に勧誘したくて呼んだんだ」


「またそれかよ」


 高柳は苛立ったように言った。


「前にも言っただろ。俺は野球部には入らない」


「頼む……」


 雪夜は、一歩も引かずに言った。


「話だけでも、聞いてくれないか」


「……で?」


 高柳は腕を組んだ。


「まだ、何か話があるってのかよ」


「ここからが本題なんだ」


 雪夜は静かに言った。


「だから、屋上に呼んだ。他の人に、聞かれたくない話だから」


「……なるほどな」


 高柳は、どこか皮肉な笑みを浮かべた。


「人に聞かれたらまずい話、ってわけか」


「そうだよ」


 雪夜は、真正面から高柳を見つめた。


「君が野球をしたくない理由は……

 肩の怪我だけじゃないだろう」


 高柳の目が、わずかに揺れた。


「……何故、そう思う」


「君は一年前、夏の大会前に、不良らしき連中に襲われていた」


 雪夜は、ゆっくりと言葉を選びながら続ける。


「その時、君は肩を痛めつけられていた。

 それが原因で、肩を壊し、大会に出られなくなった。

 ……そして、野球を辞めた」


 風が吹き抜け、沈黙が落ちた。


「……どうして、それを知っている」


 高柳の声は、低かった。


「その時、君に暴行していた奴らを止めに入ったのが……」


 雪夜は一度、目を伏せてから言った。


「僕と、もう一人の仲間なんだ」


「……そうか」


 高柳は、ゆっくりと息を吐いた。


「あの時、俺をおんぶして病院まで運んでくれたのは……

 お前だったのか」


「まあ……」


 雪夜は苦笑した。


「結局、君は肩を壊した。

 助けたことには、ならなかったかもしれないけど」


「なんだ」


 高柳は、少しだけ笑った。


「礼を言われたいわけじゃないのか」


「……できれば」


 雪夜は、正直に言った。


「野球部に、入ってほしい」


「悪いがな」


 高柳は首を振った。


「俺の肩は、終わってる。

 もう、外野すら満足に守れない」


「……それでも」


 雪夜は言い切った。


「野球は、できるだろう」


「お前……」


 高柳の声が荒くなる。


「俺の話、ちゃんと聞いてたのか?

 俺は野球が嫌いなんだよ」


 拳を握りしめて、吐き捨てる。


「野球をしてたから……

 俺は、あんな目にあったんだ」


「それは……どういうことだい」


 高柳は、しばらく黙っていたが、やがて言った。


「……お前が、あまりにしつこいからな」


 そう言って、高柳は制服を脱ぎ、右肩を見せた。


 そこには、はっきりと分かる手術痕が残っていた。


「……あれは、中学三年の、大会前だった」


 風の音だけが、屋上に響く。


 そして、高柳龍二郎は――

 過去に起こった出来事を、語り始めた。

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