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第88話 それぞれの練習

 グラウンドには、乾いた打球音と、ボールを受ける音が響いていた。


 東鶴間高校野球部は、それぞれの場所で、それぞれの戦いを続けていた。


 高柳龍二郎は、ただ一人、素振りを続けていた。


 振る。


 振る。


 振る。 


 彼の目は、何も見ていなかった。


 だが――

 その頭の中には、明確な相手がいた。


 斉藤秀一。 


 そして――


 佐藤秋一郎。


 全国の頂点に立つ投手と、

 かつて雪夜とバッテリーを組んでいた、天才投手。


(次は――)


 バットを握る手に、力が入る。


(次は、負けない)


 空を切るバットが、鋭い音を残した。


 一方、新井元気は、グラウンドの端で守備練習をしていた。


 ゴロを追い、捕り、投げる。


 その後は、すぐに走り込み。


 さらに打撃練習。


 すべてを伸ばすために。

 すべてで通用する選手になるために。


 六条遊人は、打撃ケージの中にいた。


 ――カンッ


 軽い音。


 強い打球ではない。


 だが、ファウルにならない。


 もう一度。


 ――カンッ


 当てる。


 粘る。


 彼は、市原圭一の打席を思い出していた。


 どんな球でも、

 簡単には終わらない打者。


 六条は、自分の形を探していた。


 自分だけの、

 生き残るための打撃を。


 進藤竜也は、守備練習を繰り返していた。


 ――パシッ


 捕る。


 ――パシッ


 もう一度。


 エラーは、もうしない。


 キャプテンとして。


 チームを守る者として。


 彼の動きには、迷いがなかった。


 田中三郎は、グラウンドの外周を走っていた。


 息が荒い。


 それでも、止まらない。


 一人で投げ切れる投手になるために。


 さらに、彼は新しい変化球の習得にも取り組んでいた。


 誰にも頼らない。


 そんな投手になるために。 


 中山太郎は、ブルペンにいた。


 ――バシッ


 田中の球を受ける。


 ――バシッ


 もう一球。


 捕る。


 止める。


 正捕手として。


 彼もまた、戦っていた。


 そして――

 そのすべてを見守る者たちがいた。


 マネージャーの夏目真衣。


 そして――


 高橋雪夜。


 さらに、監督の九条咲。


「このメニューで大丈夫かな」


 夏目が、ノートを見ながら言った。


 雪夜は頷いた。


「うん。それぞれに合っている」


 九条は、黙ってグラウンドを見つめていた。


 かつては、ただ負け続けるだけのチームだった。


 だが――

 今は違う。


 全員が、前を向いている。


 全員が、強くなろうとしている。


(この子たちは――)


 九条咲は、静かに思った。


(強くなる)


 確信だった。


 斉藤秀一という絶対的な存在を知り、敗北を知り、

 自分たちの未熟さを知った。


 だからこそ――


 東鶴間高校野球部は、

 止まらなかった。


 それぞれの場所で。


 それぞれの形で。


 強くなるために。


 その日々は、

 まだ始まったばかりだった。

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