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第82話 斉藤秀一、再び

 桜桜花高校野球部――


 全国優勝校の主力たちが、本当に東鶴間高校のグラウンドに立っていた。


 その先頭に立つ男が、一歩、

 また一歩と歩み寄ってくる。 


 斉藤秀一。 


 全国大会決勝で完全試合を達成した投手。

 

 東鶴間野球部の面々の前で、

 斉藤は立ち止まった。

 

 そして――

 

「やあやあ、みなさん!!」

 

 突然、大きな声を張り上げた。

 

「僕が全国大会決勝で完全試合を成し遂げて、優勝した投手の――」

 

 胸に手を当て、

 誇らしげに名乗った。

 

「斉藤秀一ですっ!!」

 

 グラウンドに、声が響き渡った。

 

 東鶴間野球部の面々は、

 一瞬、沈黙した。

 


(……言われなくても、知っているよ)

 

 誰もが、心の中でそう思っていた。


 そこへ、東鶴間野球部監督の九条咲が出てきた。


「姉さん……これは一体どういうことですか」


 桜桜花野球部監督の九条神楽は口元に手を当て、いつもの調子で微笑む。


「あらあら、私は可愛い教え子のお願いを聞いてあげただけよ」 


 そんな二人をよそに、斉藤は視線を巡らせ、そして、二人を見つけた。

 

 高柳龍二郎。

 

 高橋雪夜。

 

 斉藤は、さらに声を張り上げた。

 

「龍二郎君、雪夜君!!」

 

「久しぶりだね!!」

 

 そして、もう一度、

 同じ言葉を繰り返した。

 

「僕が全国大会決勝で完全試合を成し遂げて、優勝した投手の――」

 

「斉藤秀一ですっ!!」

 

 高柳は、ため息まじりに言った。

 

「知ってますよ」

 

「勝負をしに来たんでしょう」

 

 斉藤の口元が、

 ゆっくりと吊り上がった。

 

「そうだよ」

 

 そして、誇らしげに言った。

 

「この僕――全国大会優勝投手の斉藤秀一がねぇ!!」

 

 高橋雪夜は、静かに口を開いた。 


「そんなに大きな声で言ったら、他の生徒に聞こえますよ」 


 斉藤は、はっとした顔になり、

 周囲を見回した。

 

「あっ……そうだった」

 

 頭をかき、

 少し照れたように笑った。

 

「全国大会優勝が、あまりにも嬉しかったからねぇ」

 

「つい、言いたくなっちゃうんだよ」

 

 雪夜は、穏やかな声で言った。

 

「教えてくれたら、こちらから行きましたよ」

 

 斉藤は、首を横に振った。

 

「いやいや」

 

「こちらから勝負を挑んだんだから」

 

「僕の方から来るのが、スジってもんでしょう」

 

 高柳が、腕を組んだまま言った。

 

「まあ……俺は、来てもらったほうが面倒じゃなくていいですけど」 


 斉藤は、満足そうに笑った。

 

 そして――

 

 一歩、前に出た。

 

「というわけで」

 

 目が、本気になった。

 

「さっそく――」

 

「勝負といこうじゃないか」

 

 その声には、迷いがなかった。

 

 全国優勝投手が、自ら、

 勝負を求めている。

 

 グラウンドの空気が、

 張り詰めた。

 

 英雄と、挑戦者ではない。

 

 英雄が、認めた者への――

 

 本当の勝負が、今、

 始まろうとしていた。

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