第81話 襲来、斉藤秀一
桜桜花高校の全国優勝から、
数日が過ぎていた。
東鶴間高校野球部の部室では、
テレビがついていた。
画面の中では、桜桜花高校の凱旋が映し出されていた。
校門の前には、大勢の生徒が集まり、歓声を上げていた。
その中心にいたのは――
斉藤秀一だった。
完全試合を達成し、
全国優勝をもたらした投手。
その姿を、生徒たちは誇らしげに見つめていた。
「……なんか、すごい光景だね」
六条遊人が、ぽつりと呟いた。
高橋雪夜は、静かに画面を見つめたまま答えた。
「……そうだね」
「全国優勝したんだから……みんな、嬉しいんだろうね」
テレビの中では、
生徒たちが次々と斉藤に駆け寄り、
サインを求めていた。
「あっ……」
六条が身を乗り出した。
「斉藤さん、サインと握手を求められているよ」
雪夜は、わずかに目を細めた。
「……当然だよ」
「プロ野球選手になる人だからね」
「今のうちに、欲しいんだろう」
その声は、静かだった。
だが、その奥には、
確かな決意があった。
テレビは、やがて別のニュースへと切り替わった。
部室の中に、沈黙が戻った。
「……よし」
誰かが言った。
「練習、行こう」
誰も反対しなかった。
彼らは、テレビの中の英雄ではなく、グラウンドの現実へと戻った。
それから、数日が過ぎた。
東鶴間高校野球部は、いつも通り、練習をしていた。
バットの音。
ボールの音。
掛け声。
変わらない日常だった。
――その時だった。
校門の方が、騒がしくなった。
「……?」
部員たちは、練習の手を止めた。
ざわめきが、
少しずつ近づいてくる。
そして――
グラウンドの入口に、
人影が現れた。
最初に見えたのは、
見覚えのある顔だった。
短い髪。
鋭い目。
そして、静かな笑み。
斉藤秀一だった。
その隣には、秋月小十郎。
後ろには、若林京子。
そして――
九条神楽。
桜桜花高校野球部の、
中枢の面々だった。
グラウンドの空気が、
一瞬で凍りついた。
誰も、声を出せなかった。
テレビの中の存在だった男が、今、目の前に立っている。
斉藤は、グラウンドを見渡し、
そして、二人を見つけた。
高柳龍二郎。
高橋雪夜。
ゆっくりと、笑った。
約束を果たすために、
来たのだ。
本当に、彼は来たのだった。




